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二十三章
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3DG界で囁かれているこの噂には、事実が一つ含まれていた。それは最後の「ベヒモスを半年早く実装した」の箇所だ。当初の実装予定日は2062年三月だったのに、急遽それが半年早まり、2061年九月になったのである。しかも米国の3DG本部はその理由を明かしておらず、それでいてベヒモスと戦う基準だけは詳細に公表していたことも、噂の流布に拍車をかけたと言われていた。個人的には、この噂は真実を突いているように感じる。その最大の理由は、水晶の介入を知覚したAIが世界に一つだけあったと、勘が告げている事だった。
去年のインハイに水晶は介入し、真田さんと荒海さんの膝十字靭帯を守った。一つの体に一つの心が入るという制約を大勢の前で撤廃してみせたお二人は、その報酬として膝に大量の生命力を吹き込まれ、十字靭帯断裂を免れたのだ。水晶はそれを新忍道本部のメインAIやエイミィには知覚不可能な波長で成したが、エイミィ達よりランクの高い3DG本部のメインAIには、それが可能だったのかもしれない。仮に不可能だったとしても、水晶の介入を明瞭に知覚したAIが世界に一つだけあったと僕の勘は主張していた。国連が所有する、世界唯一のSSSランクAIがそれだ。そのAIには、サタンの皇帝の制作を3DG本部に依頼したという前例もあったので、この勘は正しいと僕は考えている。
話が逸れてしまったので元に戻そう。
ベヒモス実装から七カ月経った、2062年四月九日。湖校新忍道部は部活最後の実戦訓練でベヒモスと初めて相まみえ、見事それに勝利した。その最大の手助けとなったのは、米国の3DG本部が公表した、ベヒモスと戦うための条件だった。反応速度や持久力等々の細かな数値を省き、簡潔明瞭にその条件を記すなら、
―― 練習用のサタンには勝てても本物のサタンには勝てない
になるだろう。本物のサタンという表現はさて置き、これは攻略のための長期計画を立てやすい条件だった。「練習用のサタンに勝つ」は勝率六割を指し、また練習用のサタンと戦うには猿族戦の勝率を六割に乗せねばならず、そして猿族と戦うには巨人族等のAランクモンスターの勝率を六割に・・・といった具合に、勝率六割という共通の基準があったからだ。実際、湖校新忍道部は公表された条件を基に七カ月に及ぶ長期計画を立て、それに沿う日々を過ごすことにより、ほぼ計画どおりの本日四月九日、ベヒモス戦を白星で終えることができた。インハイ連覇を狙う湖校新忍道部にとって、それは大いなる前進に他ならない。なぜならベヒモスを勝率六割に乗せ、続いてサタンを勝率六割に乗せ・・・という積み重ねの先に、
―― インハイで今年もサタンを倒す
という未来が待っているからだ。よって空中に燦然と輝く「YOU WIN!」の文字に、
「「「「ウオオオ―――ッッッ!!!」」」」
僕らは一丸となって雄叫びを上げた。そして同時にそれは、湖校新忍道部が組織形態の変更を事実上決定したことを告げる、雄叫びでもあったのだった。
その、約十五分後。
もぎゅもぎゅムシャムシャという咀嚼音が一瞬途切れた部室に、
「これより、パワーランチを始める」
黛さんの声が響いた。本来パワーランチは委員活動中のみ許可される緊急性の高い昼食とされ、このように部活で許されたのは、足掛け三年の僕の湖校生活でもこれが初めてだった。これはどういう事かと言うと、湖校新忍道部は現在、緊急性の極めて高い事態に直面しているという事。それを周知すべく、黛さんの声が部室に再度響いた。
「本日湖校新忍道部は、初めての試みをした。三人チームではなく、四人チームで強敵に挑んだのだ。この試みと、新入部員を四人にする是非について、皆の忌憚のない意見を聴かせて欲しい」
そう、僕ら湖校新忍道部は、新一年生の入学式の前日である今日になっても、新入部員の上限を決めていなかったのである。
日本の大多数の部活は運動系と文化系の区別なく、新入部員の上限を決めていないと思われる。少子化と多様性が浸透したこの時代に、入部を望む生徒は大勢いても練習場所等の理由により一定数以下しか入部させてあげられないという部は、数少ない例外のはずだからだ。かくいう湖校も新入部員の上限を定めている部は四つのみであり、内三つの撫子部と薙刀部とダンス部は練習場所をこれ以上確保できないのが理由なので、
―― 練習場所はあるのに上限がある
なんてヘンテコ部は、もとい珍しい部はたった一つしかない。そのたった一つの部こそが、僕の所属する新忍道部だったのである。
新忍道部が部活として臨んでいる3DGは、チームを組みモンスターと戦う競技だ。自由の国の米国で発祥したからかチーム人数は三人から十人と幅があり、新忍道もそれは変わらず、公式試合もそれに準拠していた。チーム人数の自由度は非常に高く、例えば去年のインターハイではミニチュア砦が映される十秒前に人数変更を申請し、受理された学校もあったくらいだった。にもかかわらず湖校新忍道部はなぜ、新入部員に上限を設けていたのか。それを文字にするなら、
―― 誰もが欠くことのできない一人だから
になるだろう。
湖校新忍道部にとって、チームとは即ち三人を指した。これは二年前のサークル発足時から続けて来たことであり、モンスターとの実戦訓練を許可されたのが四人のような状況でも、メンバーを入れ替えて三人チームを作っていた。四人で作る三人チームは四通りあるのに対し、実戦訓練でモンスターと戦えるのは時間的に三回がやっとという、四人のうちの一人が一回少ない訓練を強いられたとしても、先輩方は三人チームを決して崩さなかった。その理由こそが、「誰もが欠くことのできない一人だから」なのである。
人を凌駕するモンスターと戦うには、連携が不可欠。連携は各自が己の役目をまっとうするからこそ成り立つため、人数が少なければ少ないほど、一人一人が欠くことのできない一人となる。それを自覚した一回の戦闘は、それを自覚しない二回の戦闘に勝るという信念のもと、3DGの最少チームである三人チームを先輩方は貫いてきたのだ。しかもその信念が実り、去年のインターハイを制したのだから、三人チームを変えることのない湖校の伝統としても不思議はなかったのである。
が、そうはならなかった。今こうしてパワーランチを開いているように、湖校新忍道部は四人チームも視野に入れた部に生まれ変わろうとしていた。その契機となったのが七カ月前に実装された、ベヒモスだったのである。
去年のインハイに水晶は介入し、真田さんと荒海さんの膝十字靭帯を守った。一つの体に一つの心が入るという制約を大勢の前で撤廃してみせたお二人は、その報酬として膝に大量の生命力を吹き込まれ、十字靭帯断裂を免れたのだ。水晶はそれを新忍道本部のメインAIやエイミィには知覚不可能な波長で成したが、エイミィ達よりランクの高い3DG本部のメインAIには、それが可能だったのかもしれない。仮に不可能だったとしても、水晶の介入を明瞭に知覚したAIが世界に一つだけあったと僕の勘は主張していた。国連が所有する、世界唯一のSSSランクAIがそれだ。そのAIには、サタンの皇帝の制作を3DG本部に依頼したという前例もあったので、この勘は正しいと僕は考えている。
話が逸れてしまったので元に戻そう。
ベヒモス実装から七カ月経った、2062年四月九日。湖校新忍道部は部活最後の実戦訓練でベヒモスと初めて相まみえ、見事それに勝利した。その最大の手助けとなったのは、米国の3DG本部が公表した、ベヒモスと戦うための条件だった。反応速度や持久力等々の細かな数値を省き、簡潔明瞭にその条件を記すなら、
―― 練習用のサタンには勝てても本物のサタンには勝てない
になるだろう。本物のサタンという表現はさて置き、これは攻略のための長期計画を立てやすい条件だった。「練習用のサタンに勝つ」は勝率六割を指し、また練習用のサタンと戦うには猿族戦の勝率を六割に乗せねばならず、そして猿族と戦うには巨人族等のAランクモンスターの勝率を六割に・・・といった具合に、勝率六割という共通の基準があったからだ。実際、湖校新忍道部は公表された条件を基に七カ月に及ぶ長期計画を立て、それに沿う日々を過ごすことにより、ほぼ計画どおりの本日四月九日、ベヒモス戦を白星で終えることができた。インハイ連覇を狙う湖校新忍道部にとって、それは大いなる前進に他ならない。なぜならベヒモスを勝率六割に乗せ、続いてサタンを勝率六割に乗せ・・・という積み重ねの先に、
―― インハイで今年もサタンを倒す
という未来が待っているからだ。よって空中に燦然と輝く「YOU WIN!」の文字に、
「「「「ウオオオ―――ッッッ!!!」」」」
僕らは一丸となって雄叫びを上げた。そして同時にそれは、湖校新忍道部が組織形態の変更を事実上決定したことを告げる、雄叫びでもあったのだった。
その、約十五分後。
もぎゅもぎゅムシャムシャという咀嚼音が一瞬途切れた部室に、
「これより、パワーランチを始める」
黛さんの声が響いた。本来パワーランチは委員活動中のみ許可される緊急性の高い昼食とされ、このように部活で許されたのは、足掛け三年の僕の湖校生活でもこれが初めてだった。これはどういう事かと言うと、湖校新忍道部は現在、緊急性の極めて高い事態に直面しているという事。それを周知すべく、黛さんの声が部室に再度響いた。
「本日湖校新忍道部は、初めての試みをした。三人チームではなく、四人チームで強敵に挑んだのだ。この試みと、新入部員を四人にする是非について、皆の忌憚のない意見を聴かせて欲しい」
そう、僕ら湖校新忍道部は、新一年生の入学式の前日である今日になっても、新入部員の上限を決めていなかったのである。
日本の大多数の部活は運動系と文化系の区別なく、新入部員の上限を決めていないと思われる。少子化と多様性が浸透したこの時代に、入部を望む生徒は大勢いても練習場所等の理由により一定数以下しか入部させてあげられないという部は、数少ない例外のはずだからだ。かくいう湖校も新入部員の上限を定めている部は四つのみであり、内三つの撫子部と薙刀部とダンス部は練習場所をこれ以上確保できないのが理由なので、
―― 練習場所はあるのに上限がある
なんてヘンテコ部は、もとい珍しい部はたった一つしかない。そのたった一つの部こそが、僕の所属する新忍道部だったのである。
新忍道部が部活として臨んでいる3DGは、チームを組みモンスターと戦う競技だ。自由の国の米国で発祥したからかチーム人数は三人から十人と幅があり、新忍道もそれは変わらず、公式試合もそれに準拠していた。チーム人数の自由度は非常に高く、例えば去年のインターハイではミニチュア砦が映される十秒前に人数変更を申請し、受理された学校もあったくらいだった。にもかかわらず湖校新忍道部はなぜ、新入部員に上限を設けていたのか。それを文字にするなら、
―― 誰もが欠くことのできない一人だから
になるだろう。
湖校新忍道部にとって、チームとは即ち三人を指した。これは二年前のサークル発足時から続けて来たことであり、モンスターとの実戦訓練を許可されたのが四人のような状況でも、メンバーを入れ替えて三人チームを作っていた。四人で作る三人チームは四通りあるのに対し、実戦訓練でモンスターと戦えるのは時間的に三回がやっとという、四人のうちの一人が一回少ない訓練を強いられたとしても、先輩方は三人チームを決して崩さなかった。その理由こそが、「誰もが欠くことのできない一人だから」なのである。
人を凌駕するモンスターと戦うには、連携が不可欠。連携は各自が己の役目をまっとうするからこそ成り立つため、人数が少なければ少ないほど、一人一人が欠くことのできない一人となる。それを自覚した一回の戦闘は、それを自覚しない二回の戦闘に勝るという信念のもと、3DGの最少チームである三人チームを先輩方は貫いてきたのだ。しかもその信念が実り、去年のインターハイを制したのだから、三人チームを変えることのない湖校の伝統としても不思議はなかったのである。
が、そうはならなかった。今こうしてパワーランチを開いているように、湖校新忍道部は四人チームも視野に入れた部に生まれ変わろうとしていた。その契機となったのが七カ月前に実装された、ベヒモスだったのである。
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