2 / 9
第二話
―ほどかれるのは、身体か、心か―
しおりを挟む
部屋に満ちるアロマの香りが、少しずつ頭をぼんやりとさせていく。
リクは私の隣で、静かに手を温めていた。オイルの香りが、甘く、やさしく香る。
「それじゃあ、はじめていきますね」
柔らかな声とともに、彼の手が私の脚へと触れる。
足首から、ふくらはぎ、そして太ももへ。
その動きは、施術というにはあまりにも繊細で、あまりにも、官能的だった。
「お身体、冷えやすいですね……がんばってきたんだなって、わかります」
彼の言葉が、まるで優しいナイフのように胸に刺さる。
仕事も、家庭も、ずっと“誰かのため”に動いてきた。
その結果が、今の私の身体なのだとしたら、泣きたくなるほど虚しい。
でも、彼はその虚しさを、指先で静かにほどいていく。
太ももの内側、ギリギリのところまで指が滑ると、思わず身体が強張った。
「……こっちまで進めても大丈夫ですか?」
そのひと言がうれしかった。
求めるだけでなく、委ねることも許される——そんな関係性。
私は、小さく頷いた。
その瞬間、指がわずかに深く、内腿の柔らかな部分へと沈む。
服越しに、オイル越しに、彼の手が体温を伝えてくる。
まるで、体の奥がじんわりと熱を持ち始めたようだった。
「すごく敏感になってますね……今、触れられることに飢えてるんだと思います」
その言葉に、また涙がにじみそうになる。
自分が“渇いていた”ことに、触れられてしまった。
しかも、たった一度目の施術で。
背中を施術される頃には、もう理性と本能の境界が曖昧になっていた。
リクの手が、肩甲骨から背筋をゆっくりなぞるたびに、息が漏れる。
ブラのホックに指がかかると、彼は一度、私の耳元で囁いた。
「このまま、外しますね」
「……はい」
下着を外された瞬間、背中に触れる彼の手の温度が、肌に直接伝わってきた。
それは単なる“裸”ではなかった。
“預けた”という感覚だった。
首筋に触れられたとき、身体がびくんと震えた。
——これは、マッサージじゃない。
もう、そんな建前では誤魔化せない。
私は彼の手に、熱に、目覚めさせられていく。
仰向けに体勢を変えると、彼は視線を合わせながら言った。
「施術の範囲、少しずつ広げていきますね。無理はさせません。でも、……ご自身の“女の部分”を取り戻したいなら、委ねても大丈夫です」
女の部分。
その言葉が、身体の奥で火種になった。
指先が、鎖骨をなぞる。
胸元へとそっと、静かに、慎重に滑っていく。
ギリギリのところで止まるたびに、心が、身体が、じれったさに震えた。
「ここ、触れられるの久しぶりですか?」
「……はい」
声が、涙で滲む。
でもそれは、悲しみじゃない。
誰かに“触れてほしい”と思える自分を、ようやく取り戻せた安堵だった。
彼の手が、胸のふくらみにほんの少しだけ沈んだとき——
私は静かに目を閉じ、ひとつ、息を吐いた。
もう戻れない。
でも、もう戻らなくていいのかもしれない。
ここにいる私は、“女”として生きている。
リクは私の隣で、静かに手を温めていた。オイルの香りが、甘く、やさしく香る。
「それじゃあ、はじめていきますね」
柔らかな声とともに、彼の手が私の脚へと触れる。
足首から、ふくらはぎ、そして太ももへ。
その動きは、施術というにはあまりにも繊細で、あまりにも、官能的だった。
「お身体、冷えやすいですね……がんばってきたんだなって、わかります」
彼の言葉が、まるで優しいナイフのように胸に刺さる。
仕事も、家庭も、ずっと“誰かのため”に動いてきた。
その結果が、今の私の身体なのだとしたら、泣きたくなるほど虚しい。
でも、彼はその虚しさを、指先で静かにほどいていく。
太ももの内側、ギリギリのところまで指が滑ると、思わず身体が強張った。
「……こっちまで進めても大丈夫ですか?」
そのひと言がうれしかった。
求めるだけでなく、委ねることも許される——そんな関係性。
私は、小さく頷いた。
その瞬間、指がわずかに深く、内腿の柔らかな部分へと沈む。
服越しに、オイル越しに、彼の手が体温を伝えてくる。
まるで、体の奥がじんわりと熱を持ち始めたようだった。
「すごく敏感になってますね……今、触れられることに飢えてるんだと思います」
その言葉に、また涙がにじみそうになる。
自分が“渇いていた”ことに、触れられてしまった。
しかも、たった一度目の施術で。
背中を施術される頃には、もう理性と本能の境界が曖昧になっていた。
リクの手が、肩甲骨から背筋をゆっくりなぞるたびに、息が漏れる。
ブラのホックに指がかかると、彼は一度、私の耳元で囁いた。
「このまま、外しますね」
「……はい」
下着を外された瞬間、背中に触れる彼の手の温度が、肌に直接伝わってきた。
それは単なる“裸”ではなかった。
“預けた”という感覚だった。
首筋に触れられたとき、身体がびくんと震えた。
——これは、マッサージじゃない。
もう、そんな建前では誤魔化せない。
私は彼の手に、熱に、目覚めさせられていく。
仰向けに体勢を変えると、彼は視線を合わせながら言った。
「施術の範囲、少しずつ広げていきますね。無理はさせません。でも、……ご自身の“女の部分”を取り戻したいなら、委ねても大丈夫です」
女の部分。
その言葉が、身体の奥で火種になった。
指先が、鎖骨をなぞる。
胸元へとそっと、静かに、慎重に滑っていく。
ギリギリのところで止まるたびに、心が、身体が、じれったさに震えた。
「ここ、触れられるの久しぶりですか?」
「……はい」
声が、涙で滲む。
でもそれは、悲しみじゃない。
誰かに“触れてほしい”と思える自分を、ようやく取り戻せた安堵だった。
彼の手が、胸のふくらみにほんの少しだけ沈んだとき——
私は静かに目を閉じ、ひとつ、息を吐いた。
もう戻れない。
でも、もう戻らなくていいのかもしれない。
ここにいる私は、“女”として生きている。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる