『不倫セラピ ~20歳年下の彼に溺れる夜~』

一条柚希

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第二話

―ほどかれるのは、身体か、心か―

部屋に満ちるアロマの香りが、少しずつ頭をぼんやりとさせていく。
リクは私の隣で、静かに手を温めていた。オイルの香りが、甘く、やさしく香る。

「それじゃあ、はじめていきますね」

柔らかな声とともに、彼の手が私の脚へと触れる。
足首から、ふくらはぎ、そして太ももへ。
その動きは、施術というにはあまりにも繊細で、あまりにも、官能的だった。

「お身体、冷えやすいですね……がんばってきたんだなって、わかります」

彼の言葉が、まるで優しいナイフのように胸に刺さる。
仕事も、家庭も、ずっと“誰かのため”に動いてきた。
その結果が、今の私の身体なのだとしたら、泣きたくなるほど虚しい。

でも、彼はその虚しさを、指先で静かにほどいていく。
太ももの内側、ギリギリのところまで指が滑ると、思わず身体が強張った。

「……こっちまで進めても大丈夫ですか?」

そのひと言がうれしかった。
求めるだけでなく、委ねることも許される——そんな関係性。

私は、小さく頷いた。

その瞬間、指がわずかに深く、内腿の柔らかな部分へと沈む。
服越しに、オイル越しに、彼の手が体温を伝えてくる。
まるで、体の奥がじんわりと熱を持ち始めたようだった。

「すごく敏感になってますね……今、触れられることに飢えてるんだと思います」

その言葉に、また涙がにじみそうになる。
自分が“渇いていた”ことに、触れられてしまった。
しかも、たった一度目の施術で。

背中を施術される頃には、もう理性と本能の境界が曖昧になっていた。

リクの手が、肩甲骨から背筋をゆっくりなぞるたびに、息が漏れる。
ブラのホックに指がかかると、彼は一度、私の耳元で囁いた。

「このまま、外しますね」

「……はい」

下着を外された瞬間、背中に触れる彼の手の温度が、肌に直接伝わってきた。
それは単なる“裸”ではなかった。
“預けた”という感覚だった。

首筋に触れられたとき、身体がびくんと震えた。

——これは、マッサージじゃない。

もう、そんな建前では誤魔化せない。
私は彼の手に、熱に、目覚めさせられていく。

仰向けに体勢を変えると、彼は視線を合わせながら言った。

「施術の範囲、少しずつ広げていきますね。無理はさせません。でも、……ご自身の“女の部分”を取り戻したいなら、委ねても大丈夫です」

女の部分。
その言葉が、身体の奥で火種になった。

指先が、鎖骨をなぞる。
胸元へとそっと、静かに、慎重に滑っていく。
ギリギリのところで止まるたびに、心が、身体が、じれったさに震えた。

「ここ、触れられるの久しぶりですか?」

「……はい」

声が、涙で滲む。
でもそれは、悲しみじゃない。
誰かに“触れてほしい”と思える自分を、ようやく取り戻せた安堵だった。

彼の手が、胸のふくらみにほんの少しだけ沈んだとき——
私は静かに目を閉じ、ひとつ、息を吐いた。

もう戻れない。
でも、もう戻らなくていいのかもしれない。

ここにいる私は、“女”として生きている。
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