「魔力ゼロの穀潰し」と実家を追い出されましたが、冷徹公爵様と3人の義理の子に溺愛されているので、今さら「帰ってこい」と言われても困ります

メルファン

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1章 辺境伯編

20 次男の「拾い物」は、災害級の魔獣でした

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 長男リオンが学園へ行き、長女ミリアが初恋(?)騒動を乗り越えた頃。グロースハイム家で最も目が離せない存在となっているのが、今年九歳になる次男、ヴァンです。

 ヴァンは、三人の子供たちの中で最も運動神経が良く、そして私に似て(?)動物に好かれる体質を持っています。城の裏山を庭のように駆け回り、泥だらけになって帰ってくるのが日課のわんぱく少年です。

 ある日の夕暮れ時。私が温室で末っ子ルカ(1歳)をあやしていると、ヴァンが何かを服の中に隠して、こそこそと帰ってきました。

 「……ヴァン? お帰りなさい。何を隠しているのですか?」

 「あ、母上! えっとね……裏山で、雨に濡れて震えている子猫を見つけたんだ! 飼ってもいい?」

 ヴァンが上着の裾をめくると、そこには確かに、白い毛玉のような、手のひらサイズの動物が震えていました。  大きな金色の瞳に、ふわふわの毛並み。

 「まあ、可愛らしい! ……でも、ヴァン。生き物を飼うというのは、責任が伴うのですよ?」 

 「分かってる! 僕、ちゃんと面倒見るよ! 父上には内緒にしてて!」

 動物好きの私は、その愛らしさに絆され、許可を出してしまいました。しかし、その直後。  帰宅したジークフリート様が、広間に入ってきた瞬間、顔色を変えて剣を抜きました。

 「……ヴァン。その懐にいる『災害』を、今すぐ床に置け」

 「えっ? 父上、これはただの子猫だよ?」 

 「子猫だと? ……それは、『白雷獣(ホワイト・サンダービースト)』の幼体だ!!」

 ジークフリート様の説明によると、それは成長すれば城一つを雷で消し飛ばすと言われる、伝説級の魔獣の子供だったのです。

 「なっ……! さ、災害級!?」 

 私が驚愕している間に、ヴァンの懐から飛び出した「子猫」は、ジークフリート様の殺気に反応し、バチバチッ! と青白い稲妻を放ちました。

 「危ない!」  ジークフリート様が私とルカを庇い、魔法障壁を展開します。シャンデリアが揺れ、使用人たちが悲鳴を上げました。

 城内は大パニックです。しかし、ヴァンだけは、雷を放って怯えている魔獣の前に立ちはだかりました。

 「父上、いじめちゃダメだ! この子は怖がってるだけなんだ!」 

 「退け、ヴァン! それは人間が飼いならせるものではない!」

 一触即発の空気。  私は、ルカを侍女に預け、静かに二人の間へ進み出ました。

 「……お待ちなさい、お二人とも」

 私は、前世の『猛獣(イヤイヤ期の園児)対応スキル』を発動させ、ゆっくりと白雷獣に近づきました。魔力ではなく、母としての絶対的な包容力をオーラとして放ちます。

 「よしよし……。怖かったですね。お父様は顔が怖いけれど、悪い人ではないのですよ」

 私がそっと手を伸ばすと、魔獣は牙を剥きましたが、私の指先から出る『鎮静のハーブの香り(魔力)』を嗅いだ瞬間、コロンとお腹を見せました。

 「キュウ……」 

 「あら、いい子。お腹が空いていたのですね」

 私は、瞬く間に災害級魔獣を手懐けてしまいました。その光景を見て、ジークフリート様は剣を収め、深く深いため息をつきました。

 「……ヴァン。お前の無鉄砲さは私に似たが、魔獣を魅了する才能は、完全に母上譲りだな」

 結局、白雷獣は「シロ」と名付けられ、我が家の番犬(番雷獣?)として飼われることになりました。  ただし、ジークフリート様が夜なべして作った『対魔獣用超頑丈ゲージ』に入れられ、散歩の際は公爵様直々の監視が付くという厳戒態勢ですが。
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