【R18*TL短編集】身体も心も吸血鬼の紅い瞳に囚われて(ティーンズラブ)

鶴宮りんご

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森のやさしい吸血鬼に本能のままに愛されすぎて快感に溺れてしまうお人好しの薬草師の話(ティーンズラブ)

5. 我慢の限界

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ファンリンの頭の中で、不安と戸惑い、そして何としてでも目の前にある状況の責任を取らなくてはいけないという思いがぐるぐると回る。ユーシェンを助けるために、何かーーどんな手段でもーー見つけなければならなかった。彼女は薬草の影響を打破する解毒剤を、または少なくとも何か、間違って使ってしまった薬草の効果を逆転させるものを探しに行こうと隣の部屋に行こうとしていた。しかし、ドアの取っ手に手を伸ばした瞬間、突然、腕に圧力がかかる。

驚きのあまり息を呑むと、ユーシェンの冷たい指が彼女の手首を掴み、強引に彼女を引き戻す。心臓が激しく鼓動しながら、彼女は下を見つめた。ユーシェンの目は広がり、ぼんやりとしてほとんど命が抜けているように見えたが、その中にはもっと別のものがあった—燃えるように熱く、明るく輝く欲望がそこにあった。

そして、ユーシェンの指が自分の腕を強く掴んで離さないでいると、ファンリンは掴まれている腕から小さな痛みが広がっていくのを感じた。その朝早くに受けた傷、割れたガラスによる小さな切り傷が裂け、傷口から血がゆっくりと流れ出た。

彼女は思わず身を引いて息を呑んだが、動く前にユーシェンの視線が血に向いた。瞳孔が開き、狩りをする狼のように息が荒くなった。

ファンリンは彼の目が奮闘しているのを見て、寒気が全身に走るのを感じた。彼の体は再び震え、今度はもっと激しくなる。彼女は吸血鬼のそれが何を意味するのかを知った。
彼女の血の匂いは、彼にとって抵抗できないほど強烈だった。彼の牙はすでに鋭く、彼はそれに抵抗しようとしたが、欲求、生々しい飢えが彼の中に押し寄せ、彼の感覚を圧倒した。

「...すまない」と彼はしゃがれ声で言った。声は低く、自己嫌悪で緊張していた。彼は彼女を見た。その赤い目は謝罪に満ちていたが、その目にある飢えは隠し切れなかった。「君を…傷つけたりはしない。」

ファンリンが反応する前に、ユーシェンは彼女の前でひざまずいた。動きは素早く、そして必死だった。彼の視線は彼女の傷口に向けられ、何も言わずにその場にひざまずいた。彼の冷たい唇が彼女の肌に触れ、優しく傷を舐めたとき、彼女は最も鋭い震えが体中を駆け抜けるのを感じた。

「...っ....っ.........はぁ.....はぁ.....っ」

ファンリンは凍りつき、心臓がドキドキした。彼の舌はチロチロと動き、優しいものだったが、その背後には否定できない強い力があった。彼女は心の奥底でそれを感じた。
吸血鬼が血を求める生き物であることは知っていたが、それをこんなに危険なほど近くに感じたことで、恐怖と興味が奇妙に混ざり合って、彼女を混乱させた。

「ユーシェン…」彼女は囁いた。彼の吐く息の熱さが肌に伝わってくるのを感じて、声は震えている。無心に傷口を舐めるユーシェンの耳にも彼女の声はかろうじて届いた。

しかし彼は返事をしなかった。その瞬間、二人以外には何も存在しないように感じられた。空気中に漂う彼女の鼓動、そして、二人の間に漂う彼女の血の匂い。それがまた、彼を興奮させているようだった。

ユーシェンは、彼女に近づいたときと同じくらい素早く身を引いた。けれど、その動きには焦りと痛みが滲み、彼の顔は後悔と自制心に歪んでいた。暗く沈んだ瞳は瞳孔が大きく開き、彼が今、必死に自分自身と戦っていることを物語っていた。

「ファンリン……君を巻き込むなんて思ってなかった」

彼の声は震え、まるで暗闇に怯える子どものようだった。でも、その暗闇とは彼自身。そう気づいた瞬間、ファンリンの心に鋭い痛みが走った。

「ユーシェン……?」

彼女がその名を呼ぶと、彼は顔をしかめて目を閉じた。その仕草はまるで彼女の声を聞くことさえ耐え難いかのようだった。

彼がふいにファンリンの腕を掴んだ。その手の冷たさと力強さに一瞬、恐怖が胸をよぎったが、それはすぐに消えた。代わりに、彼への深い共感が押し寄せる。ユーシェンが戦っているのは、ただ血への渇望ではない。自分の本質と、その本能を抑え込もうとする意志との間で揺れ動く、絶望的な戦いなのだと彼女は直感した。

彼は捕食者ではなかった。彼女の前にいるのは、壊れそうなほど傷ついた魂を抱える存在だった。

「俺は……弱いんだ……」

彼の声は、かすれるほど低かった。まるでその言葉を口にすること自体が、彼の心をさらに押しつぶしてしまうかのようだった。

ファンリンの胸は強く高鳴った。彼が見せた弱さ、そしてその中に潜む必死さに――そして自分自身が、そんな彼に引き寄せられていく感情に。

彼は吸血鬼だ。それも、ファンリンがこれまで恐れ、距離を置こうとしていた存在。でも、今目の前にいるユーシェンは、彼女が想像していたものとはまったく違った。彼女はただの薬草師で、彼の存在を理解するにはあまりにも無力だ。それでも、彼の苦しみを前にして背を向けることはできなかった。

ファンリンは震える手をそっと彼の頬に添えた。

「私はここにいる。あなたを置いていったりなんてしない。」

その言葉に、ユーシェンは目を開いた。彼の瞳に浮かぶ痛みと疲労。それでも、その中にかすかな光が差し込むのをファンリンは見逃さなかった。

ふたりの間に漂う緊張感は、予測できない展開を予感させるものだった。それでもファンリンは心に誓った。どんなに危険でも、どんなに未知の世界に足を踏み入れることになっても――彼を一人にはしない、と。
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