桜の花が咲く季節に

絵麻

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桜花が咲く季節に

一話

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「身の回りの、世話ぁ?」
 自宅である官舎に帰った洋右は、台所で料理をする少女に驚いた。
「はい、旦那様と奥様が、息子・・あの若旦那様が心配だと」
「親父が?」

 少女の名前は高橋 繭といい、歳は十五歳だった。
「お食事の用意が、あと少しで終わります」
「ああ」  

「驚きました。若旦那様は独り身ですが、すごく綺麗になさっていて」
「まあ、掃除とかは訓練生の時に教えられるからな」

 軍人になり、全て自分でやるのは当たり前だった。朝六時に起床し、シーツ交換から掃除まで。洗濯と食事以外は全て自分でやり、指導教官達が点検した。

「美味い」
「良かったです」
 繭は笑顔になる。
「いや、基地の飯もなかなかだが、えっと」
「私は、高橋繭です」
「繭のも、大した腕だ」
「ありがとうございます」

(オレは妻帯する気がなかった。男女の色恋にあまり興味がなく、気づけば二十五になっていた)
 栃木の上田家は江戸時代から幕府の忠臣として、政に携わってきた。
 代々の当主は政治家や軍の要人など、各分野で活躍してきた。

「洋右。戦況は悪化しているのは、お前も薄々は気づいているな?」
「はい」
「なら、そろそろ身を固める気はないか?妻帯し、子を成しーーー」

 父・権蔵は帰省するたびに、洋右に見合い写真を突きつけた。
「別に、この縁談の人でなくても、お前が好きな女人で構わん。私も母さんも、お前の幸せを願っている」
「そうよ、洋右」
 頼もしい父と、優しく気品ある母・美幸に愛されて、幸せに育てられた。

「て、言うより本音は、早く孫と遊びたいの」
 帰り際、美幸は笑う。
「ね、いい人が出来たら連れてきて?」

「いい人ね」
 基地から離れず、出会いは男しか・・・。今日から女学生が掃除に来ているが、相手は繭と同じく少女ばかりだ。
「嫁に出来る年齢じゃねえな」

 ふと、繭の笑顔が過る。
 優しく、素直で無垢な繭。

「なに、考えてんだ」
 先日、雪杜の部屋から漏れた、柚子の喘ぎを聞いてしまったからだろうか。

 やだぁ、・・イク。
 
 奥ゆかしい柚子が、甘い声で泣くのを聞いた洋右は、部屋に戻る訓練生達に外出許可を出した。

 一瞬だけ、繭のそんな姿を想像してしまったのだ。繭は、どんな風に乱れるのかと。

「はぁ」
 知り合いの情事ほど、衝撃的なものはない。
「お帰りなさいませ」
 玄関先で膝をついて迎える繭に、洋右は息をのむ。

「もうすぐ、食事ができます。お待ち下さいね」
「ああ」
 食事の時には、必ず自宅に帰るようになった。
「ごちそうさま」
「食後のお茶を用意しますね」

 立ち上がろうとする繭を、洋右は手を握って止める。

「あの?」
「繭」
 引き寄せ、口づけた。

「んぅ・・待って下さい・・あ」
 強引に口づけられ、繭は驚く。
「あの・・洋右さ」
「繭」

 その日、洋右は繭を抱いた。
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