六畳半のフランケン

乙太郎

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それでもいつまでも

新生活

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「お帰りなさい。」

再会した彼女から出たのはそんなありきたりな一言だった。
それを蒼ヶ峰聡と安祢田遊姫は驚いた目で見つめている。

「なにか、間違っていたでしょうか?」

こてん。と首を傾げるユリネ。
長い静寂。
ーーー、最初に破ったのは安祢田さんだった。

「ちょっと!なんでアンタがぼうっとしてんの!」

肩を突かれる間抜けずら。

「あ、あぁ…ただいまユリネ。」

へ、へへ…我ながらつくづくアホくさい声が漏れる。
やはりボクは救いようのないヘタレなんだろうか?

「それと、有難うございました、安祢田さん。
送迎まで任せちゃって…」
「いいのよそんなこと…
様子見るなんて言ったその日に
こんなトンデモナイこと起こるなんて。
ホラ、アンタのカギ。」

ヒョイっと弧を描いて飛んでくる。
こぼさないようしっかり受け止めて。
両手に収まるその感触を確かめた。

「ったく…しっかりしなさいよね。」
「すみません、優華ちゃんにもお礼をしないとですね…」
「ホントね。尾箕野さんに相談してなかったら今頃…
今度、彼には一杯サービスしておかないと。」

何でもスナックの常連の一人らしい。
後で謝らないとな…

「ねぇ…そんなことより…
百合音さん、後遺症はないの?
それとあの首筋の痕。
…あれはいつか消えるのよね?」

近づいてきて耳打ちする安祢田さん。

「…整形外科なら、なんとか。
手術痕は消えないようですが。」

痕というのは。
今こうして視界に映っている痛ましい熱傷痕のことだ。
右の肩甲骨からうなじ、頬にかけて。
ユリネの首筋には、電紋と呼ばれる樹枝状の
痛ましい側撃雷による痣が出来ている。
アレを隠し通すのは、マフラーをつけていても難しいだろう。

「後遺症と言えるモノはありません。
いたって健康体です。」

そう平気そうに答えるユリネ。
その余りに淡白な返答に思わず語気を強める安祢田さん。

「ワケないでしょ…!
乙女の身体にそんな痣、平気なハズが…!」

口を出た一言にハッとして自分で遮る。

「…ごめんなさい。
そんな言い草、ないわよね…?
ーーー、アタシこれで失礼するわ。」
「いえ、わざわざ付きっきりで…」

玄関につま先を向けて運んでいた歩みを止める安祢田さん。
振り返って苦虫を噛んだような顔を此方に向ける。

「どうかしましたか?」
「ちょっとツラ貸しなさい。」

途端、手を掴まれて。
終始首を傾げたままのユリネを後にして玄関を出た。

「ちょ、ちょっといきな、ーーー」
「アンタ、付きっきりって言ったケド」
「ええ、それが?」

一拍、ため息ついて。

「会わせらんなかったの。優華と悠樹に。
あの子たち、百合音さんに一際なついてたから。
家に、上げられなかったの。」

一瞬、意図が汲み取れなかったが。
ああ、そういうことか。
当然といえば当然。
言い方が悪いかもだが。
他人との関わりのない待機児童と
人付き合いの少ない幼い小学生。
少ない時間とはいえ百合音は二人の親代わりだったらしい。

…もし、久しぶりに再会した彼女に
他人のように接しられたのなら。
そのショックはきっと計り知れない。

「だからその、ウチの子にはアタシから説明しておくから。
本当に申し訳ないんだけれども。」
「今はなるべく二人に会わないように、ですか。」
「…ホント、薄情者ねアタシ。」
「いえ、それが正しいと思います。
安祢田さんは本当に立派な方です。」

気休め程度のセリフに苦笑いで答える安祢田さん。

「アリガト。何かあればアタシに言って。じゃあね。」

そう言って隣のドアに入っていった。

俯く。
兎にも角にも、今は彼女と。
自宅のドアに再び手をかける。

「お帰りなさい。」
「ああ、只今。」

テレビ前で座り込んでこちらを向く彼女。
立ち尽くす。
だが、ふと気づいた。
テレビはついちゃいない。
確かに彼女はよくテレビを見ていたけれど。
単純に、この部屋が狭くって。
ちゃぶ台挟んで向き合ったら
必然的に彼女があの位置に座ることになるだけなんだ。

歩み寄る。
定位置に座るボク。

「病院食は味気なかったろ?」
「いえ、栄養価は優れていました。」
「昼食はこの前の奴でいいかい?」
「焼き鮭ですか。いいと思います。」

ふぅ。
胡座をかいた脚を崩して片膝立ち。
まだ食材は痛んじゃいないだろう。

「じゃあ、久しぶりに昼ごはんにしようか!」




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