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【番外編】伊吹 side
9.
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思ったよりもスムーズに商談が進み、社長である父のはからいで、一足先に日本へ帰国することになった。
まる一日近く早く帰国できたことになる。
「……専務」
「なんだ」
「……顔、にやけてんぞ」
「……うるさい」
日本へ向かう飛行機の中、隣に座る笹原が、秘書らしからぬ言葉遣いで俺をからかう。
「土産もいっぱい買ったし、なあ?」
「だから、うるさい」
「はいはい。ああそうだ、専務。社長から伝言をお預かりしております」
笹原を秘書につけて二年だ、こいつが急に秘書モードに変わることにももう慣れた。
ひと睨みしながら「なんだ」と答えると、笹原は秘書スマイルで恭しく頭を下げた。
「社長夫人が専務のお宅に泊まられているそうです。『邪魔をしてすまない』とおっしゃっておられました」
「……」
母が……。
結麻さんはすっかり母に気に入られてしまったようだな。
きっと突然訪ねてきたに違いない。母が結麻さんを困らせていなければ良いけれど……。
そして、ふと、思いつく。
……“邪魔”だなんて、とんでもない。
むしろ、大歓迎ですよ、母上。
「専務。顔がニヤけてますよ?」
「……うるさい」
「やらしーこと考えてただろ?」
「だから、うるさい」
「うわー。若月さんに言っちゃおー」
「笹原」
俺が睨むと、笹原は両手を少し挙げて「はいはい、静かにしますよ」と呆れたように笑いながら答えた。
日本まで、あともう少しだ。
俺は座席に深く沈み込み、目を閉じた――。
「ただいま、結麻さん」
驚いてキョトンとしている結麻さんにそう告げると、途端に頬を赤らめる結麻さんが可愛くて、大急ぎで帰って来た甲斐があったと、心の底から思う。
母は俺と結麻さんの関係を疑っていないから、ここであまりぎこちない様子を見せるわけにはいかない。
結麻さんもきっとその辺は心得ているだろうから、恋人同士らしく見えるように、なるべく自然な感じを装って彼女を抱き寄せた。
途端に甘い香りが鼻腔をくすぐる。
耐えきれず、彼女の額にそっと口づけた――。
母がその場にいることなど、すっかり頭から抜け落ちていた。
まあ、見られても何の問題も無いが。
結麻さんが慌てて俺の腕から抜け出そうとするが、離してあげられそうにない。
母が風呂に入るのを見送り、結麻さんと隣り合ってソファへと座る。
帰りの飛行機で思いついた“提案”を口にすると、やはり頬を赤らめて、困ったように俺を見上げていた。
「今日は、同じ部屋で寝ようか」
困惑しきりの結麻さんに「先に主寝室のバスルーム、使って良いですよ」と言って、有無を言わさずに見送った。
別に、抱こうというわけではない。ただ、同じベッドで眠るだけだ。
もし結麻さんが本気で嫌がったり怖がったりしたら、すぐにやめる。
それだけは己に固く誓った。
――とても緊張しているようだけど、嫌がる様子も怖がる様子もなく、彼女はとても恥ずかしそうにしながらベッドに横になる。
とても広いベッドだから、大人が二人寝たところで、端と端で眠れば決して接触することもない。
内心、もっと狭いベッドだったら良かったのに、と思ってしまっていることは結麻さんには内緒だ。
こちらに背を向けて横になっていた結麻さんは、緊張してなかなか眠れないようだったけど、そのうちに眠りに落ちたようだ。
スー、スー、と規則正しい寝息が聞こえてくる。
そっと寝顔を窺うと、いつもより少しあどけない表情で気持ちよさそうに眠っている。
可愛い……。
抱き締めたくてどうしようもなくなったが、そんなことをしたら起こしてしまうし、怖がられてしまう。
俺はぐっと我慢をした。
ベッドのサイドボードに用意していたタブレット端末を手にすると、笹原から来週のスケジュールが送られてきている。
内容にざっと目を通し、既読の表示を付けて、週明け一番の仕事の資料を開いた。
まる一日近く早く帰国できたことになる。
「……専務」
「なんだ」
「……顔、にやけてんぞ」
「……うるさい」
日本へ向かう飛行機の中、隣に座る笹原が、秘書らしからぬ言葉遣いで俺をからかう。
「土産もいっぱい買ったし、なあ?」
「だから、うるさい」
「はいはい。ああそうだ、専務。社長から伝言をお預かりしております」
笹原を秘書につけて二年だ、こいつが急に秘書モードに変わることにももう慣れた。
ひと睨みしながら「なんだ」と答えると、笹原は秘書スマイルで恭しく頭を下げた。
「社長夫人が専務のお宅に泊まられているそうです。『邪魔をしてすまない』とおっしゃっておられました」
「……」
母が……。
結麻さんはすっかり母に気に入られてしまったようだな。
きっと突然訪ねてきたに違いない。母が結麻さんを困らせていなければ良いけれど……。
そして、ふと、思いつく。
……“邪魔”だなんて、とんでもない。
むしろ、大歓迎ですよ、母上。
「専務。顔がニヤけてますよ?」
「……うるさい」
「やらしーこと考えてただろ?」
「だから、うるさい」
「うわー。若月さんに言っちゃおー」
「笹原」
俺が睨むと、笹原は両手を少し挙げて「はいはい、静かにしますよ」と呆れたように笑いながら答えた。
日本まで、あともう少しだ。
俺は座席に深く沈み込み、目を閉じた――。
「ただいま、結麻さん」
驚いてキョトンとしている結麻さんにそう告げると、途端に頬を赤らめる結麻さんが可愛くて、大急ぎで帰って来た甲斐があったと、心の底から思う。
母は俺と結麻さんの関係を疑っていないから、ここであまりぎこちない様子を見せるわけにはいかない。
結麻さんもきっとその辺は心得ているだろうから、恋人同士らしく見えるように、なるべく自然な感じを装って彼女を抱き寄せた。
途端に甘い香りが鼻腔をくすぐる。
耐えきれず、彼女の額にそっと口づけた――。
母がその場にいることなど、すっかり頭から抜け落ちていた。
まあ、見られても何の問題も無いが。
結麻さんが慌てて俺の腕から抜け出そうとするが、離してあげられそうにない。
母が風呂に入るのを見送り、結麻さんと隣り合ってソファへと座る。
帰りの飛行機で思いついた“提案”を口にすると、やはり頬を赤らめて、困ったように俺を見上げていた。
「今日は、同じ部屋で寝ようか」
困惑しきりの結麻さんに「先に主寝室のバスルーム、使って良いですよ」と言って、有無を言わさずに見送った。
別に、抱こうというわけではない。ただ、同じベッドで眠るだけだ。
もし結麻さんが本気で嫌がったり怖がったりしたら、すぐにやめる。
それだけは己に固く誓った。
――とても緊張しているようだけど、嫌がる様子も怖がる様子もなく、彼女はとても恥ずかしそうにしながらベッドに横になる。
とても広いベッドだから、大人が二人寝たところで、端と端で眠れば決して接触することもない。
内心、もっと狭いベッドだったら良かったのに、と思ってしまっていることは結麻さんには内緒だ。
こちらに背を向けて横になっていた結麻さんは、緊張してなかなか眠れないようだったけど、そのうちに眠りに落ちたようだ。
スー、スー、と規則正しい寝息が聞こえてくる。
そっと寝顔を窺うと、いつもより少しあどけない表情で気持ちよさそうに眠っている。
可愛い……。
抱き締めたくてどうしようもなくなったが、そんなことをしたら起こしてしまうし、怖がられてしまう。
俺はぐっと我慢をした。
ベッドのサイドボードに用意していたタブレット端末を手にすると、笹原から来週のスケジュールが送られてきている。
内容にざっと目を通し、既読の表示を付けて、週明け一番の仕事の資料を開いた。
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