69 / 75
【番外編】伊吹 side
10.
しおりを挟む
――俺はかなりのショートスリーパーで、普段の睡眠時間は3~5時間だ。結麻さんと同時刻にベッドに入っても、眠れない。
それに、結麻さんの手料理を食べるためにかなり仕事をショートカットして帰宅しているので、その分の仕事をいつも寝る前にさばいていた。
ノートパソコンだとキーボードを叩く音がうるさい可能性があるから、隣で眠る結麻さんを起こしかねない。
その点、タブレット端末は優秀だ、多少効率は落ちるが、作業が出来ないわけではない。
結麻さんの可愛らしい寝息をBGMに仕事をする。
集中していくつかのタスクをこなし、結麻さんが動く気配で俺はタブレットから顔を上げた。
どうやら結麻さんが寝返りを打ったようだ。
はは、可愛い……。
思わず寝顔をじっくりと見てしまう。
少し寒いのか、こちら向きにコロリと転がった後、丸まるようにして眠っている。
「……結麻さん、寒いの?」
眠っている人に声を掛けるのは良くないと思いつつ、つい声を発してしまった。
俺の声に起きる様子はなく、更にキュッと丸くなる。
……猫みたいだ。
「寒いなら、こっちにおいで。暖かいよ……?」
懲りずに声を掛けると、「ん……」と可愛い声を出した結麻さんは、モゾモゾとこちらにすり寄ってくる。
ベッドの真ん中を少しこちらに過ぎたあたりで、再び背を向けて、丸くなってしまった。
「……」
可愛い。
思わず手が伸びる。
規則正しく寝息を立てている結麻さんを、そっと、後ろから抱き締める。
……暖かくて心地が良い。
「……おやすみ、結麻さん……」
彼女を抱き締めたまま、俺はゆっくりと、眠りに落ちた――。
――暖かい。
なぜだろう、と、まだ半分寝ている頭でぼんやりと考える。
……ああ、そうだ。
結麻さんと一緒に眠ったんだった……。
それも、寒そうに彼女が寝返りを打ったのを良いことに、後ろから抱き締めたまま。
良い匂いがする……。
昨夜は俺と同じシャンプーを使ったはずなのに、全く違う匂いに感じるのはなぜだろう。
まだ起きるには早い時間だ。
リビングの方で何か気配がして、ああそう言えば昨晩は母が泊まったのだった、と思い出す。
結麻さんを起こさないように気を付けて、ゆっくりとベッドから抜け出す。
リビングに母がいて、「邪魔するのは申し訳ないから、帰るわね」と言い残して帰って行った。
冬の日の出は遅いから、まだあたりは真っ暗だ。
寝室に戻ると、結麻さんがころりとこちらに転がった。まるで、こちらに寄れば暖かいと思ったのにそうでなかったことが不満だったかように、丸くなる。
俺はもう一度ベッドへ滑り込むと、再び結麻さんを後ろから抱き締めて、目を閉じた。
――少しだけうとうとしていただろうか。
結麻さんが動く気配で目が覚める。
身動きしようとして、抱き締められていることに気づいたのだろう、慌てているのが気配で分かる。
しばらく寝たふりをして様子を窺っていると、ふ、と笑うのが聞こえた。
「なにか、楽しい夢でもみた?」
訪ねると、ますます慌てる。
俺の腕からなんとか抜け出そうとするのを無視をし、もう少し眠ろう、と提案して狸寝入りをすると、彼女は諦めたのか、俺の腕にそっと手を添えた。
彼女から触れられることは、滅多にない。俺が本当に眠ってしまったと思っているのだろう。
「――出張、お疲れ様でした」
聞こえていないと思っているのだろうけれど、結麻さんにすっかりと密着した俺の耳は、彼女の可愛らしい声をちゃんと拾っていた……。
もう一度目覚めたあと、今後も一緒に眠ることをかなり強引にだが、了承してもらった。
毎朝、少し困ったように、恥ずかしそうにしている結麻さんが可愛くて仕方なくて、起きるのが心底嫌になったのは言うまでもない――。
それに、結麻さんの手料理を食べるためにかなり仕事をショートカットして帰宅しているので、その分の仕事をいつも寝る前にさばいていた。
ノートパソコンだとキーボードを叩く音がうるさい可能性があるから、隣で眠る結麻さんを起こしかねない。
その点、タブレット端末は優秀だ、多少効率は落ちるが、作業が出来ないわけではない。
結麻さんの可愛らしい寝息をBGMに仕事をする。
集中していくつかのタスクをこなし、結麻さんが動く気配で俺はタブレットから顔を上げた。
どうやら結麻さんが寝返りを打ったようだ。
はは、可愛い……。
思わず寝顔をじっくりと見てしまう。
少し寒いのか、こちら向きにコロリと転がった後、丸まるようにして眠っている。
「……結麻さん、寒いの?」
眠っている人に声を掛けるのは良くないと思いつつ、つい声を発してしまった。
俺の声に起きる様子はなく、更にキュッと丸くなる。
……猫みたいだ。
「寒いなら、こっちにおいで。暖かいよ……?」
懲りずに声を掛けると、「ん……」と可愛い声を出した結麻さんは、モゾモゾとこちらにすり寄ってくる。
ベッドの真ん中を少しこちらに過ぎたあたりで、再び背を向けて、丸くなってしまった。
「……」
可愛い。
思わず手が伸びる。
規則正しく寝息を立てている結麻さんを、そっと、後ろから抱き締める。
……暖かくて心地が良い。
「……おやすみ、結麻さん……」
彼女を抱き締めたまま、俺はゆっくりと、眠りに落ちた――。
――暖かい。
なぜだろう、と、まだ半分寝ている頭でぼんやりと考える。
……ああ、そうだ。
結麻さんと一緒に眠ったんだった……。
それも、寒そうに彼女が寝返りを打ったのを良いことに、後ろから抱き締めたまま。
良い匂いがする……。
昨夜は俺と同じシャンプーを使ったはずなのに、全く違う匂いに感じるのはなぜだろう。
まだ起きるには早い時間だ。
リビングの方で何か気配がして、ああそう言えば昨晩は母が泊まったのだった、と思い出す。
結麻さんを起こさないように気を付けて、ゆっくりとベッドから抜け出す。
リビングに母がいて、「邪魔するのは申し訳ないから、帰るわね」と言い残して帰って行った。
冬の日の出は遅いから、まだあたりは真っ暗だ。
寝室に戻ると、結麻さんがころりとこちらに転がった。まるで、こちらに寄れば暖かいと思ったのにそうでなかったことが不満だったかように、丸くなる。
俺はもう一度ベッドへ滑り込むと、再び結麻さんを後ろから抱き締めて、目を閉じた。
――少しだけうとうとしていただろうか。
結麻さんが動く気配で目が覚める。
身動きしようとして、抱き締められていることに気づいたのだろう、慌てているのが気配で分かる。
しばらく寝たふりをして様子を窺っていると、ふ、と笑うのが聞こえた。
「なにか、楽しい夢でもみた?」
訪ねると、ますます慌てる。
俺の腕からなんとか抜け出そうとするのを無視をし、もう少し眠ろう、と提案して狸寝入りをすると、彼女は諦めたのか、俺の腕にそっと手を添えた。
彼女から触れられることは、滅多にない。俺が本当に眠ってしまったと思っているのだろう。
「――出張、お疲れ様でした」
聞こえていないと思っているのだろうけれど、結麻さんにすっかりと密着した俺の耳は、彼女の可愛らしい声をちゃんと拾っていた……。
もう一度目覚めたあと、今後も一緒に眠ることをかなり強引にだが、了承してもらった。
毎朝、少し困ったように、恥ずかしそうにしている結麻さんが可愛くて仕方なくて、起きるのが心底嫌になったのは言うまでもない――。
3
あなたにおすすめの小説
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
思い出のチョコレートエッグ
ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。
慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。
秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。
主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。
* ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。
* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
ホウセンカ
えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー!
誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。
そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。
目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。
「明確な理由がないと、不安?」
桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは――
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※イラストは自作です。転載禁止。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
数合わせから始まる俺様の独占欲
日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。
見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。
そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。
正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。
しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。
彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。
仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。
離した手の温もり
橘 凛子
恋愛
3年前、未来を誓った君を置いて、私は夢を追いかけた。キャリアを優先した私に、君と会う資格なんてないのかもしれない。それでも、あの日の選択をずっと後悔している。そして今、私はあの場所へ帰ってきた。もう一度、君に会いたい。ただ、ごめんなさいと伝えたい。それだけでいい。それ以上の願いは、もう抱けないから。
契約結婚!一発逆転マニュアル♡
伊吹美香
恋愛
『愛妻家になりたい男』と『今の状況から抜け出したい女』が利害一致の契約結婚⁉
全てを失い現実の中で藻掻く女
緒方 依舞稀(24)
✖
なんとしてでも愛妻家にならねばならない男
桐ケ谷 遥翔(30)
『一発逆転』と『打算』のために
二人の契約結婚生活が始まる……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる