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【番外編】伊吹 side
11.
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* * *
どうしても一本電話をかけなければならなくて、役員会を一時的に抜けて自分の執務室へ戻ってきている時だった。
執務室の内線が鳴る。秘書の笹原からではないらしい。
この部屋に直通の内線をかけてくるのは、普通は笹原か、野村さんと結麻さんぐらいだ。
番号を確認し、誰からのものかを調べる。
「……はい、篠宮です」
不機嫌を声にのせないように気を付けて名乗ると、電話の主も、少し緊張した声で名乗った。
『人事課の、奥瀬です。不躾なことをして、申し訳ありません』
「……用件は?」
問うと、結麻さんが総務部に来た際に、総務部長のことが気にかかったと言う。
腕を掴んで談話室へ連れ込み、至近距離で接していたと言うのだ。
『こんなことを直接申し上げるかどうか迷ったのですが……総務部長は若い女子社員にそうやって少し強引に近づくことが多いらしいと、他からもいくつか苦情も出ているので』
「……分かりました。少し調べて、対応を考えます」
『よろしくお願いします』
総務部長の谷川か……。確かに、あまり良い噂は聞かない。
ちょうど役員会の最中だ、会議室に戻ったらこの件も議題に挙げた方が良いだろう。
――この時、こんなに悠長に構えていたことを、俺は後々とても後悔した。
もっと早く動いていれば、結麻さんをあんなに怖い目に遭わせることもなかったのに……。
――土曜日だと言うのに、今日はどうしても外せない会合があって、俺はいま社用車の中にいる。
「専務、眉間に皺が寄ってますよ」
秘書の笹原が薄ら笑いを浮かべているのがミラーに映っている。
そりゃあ眉間に皺も寄るだろう、せっかくの土曜日なのに。結麻さんとゆっくりしたいのに。
「その顔で取引先に会わないで下さいね」
「……分かってる」
笹原の盛大なため息が聞こえる。
……ため息を吐きたいのは、こっちの方だ。
車は、ホテルのエントランスへと滑り込んだ――。
昼間の会合と夜の会食の間に、少しだけ時間が空いている。
その隙間を狙って、従妹の理奈が「結婚式のドレスを選んで欲しい」と言ってきた。
無理だと言っても聞き入れてもらえず、俺は会合場所近くの店に呼び出されて、なぜか理奈の着るドレスのカタログを眺めると言う事態になっていた……。
「ねぇ、伊吹も一緒に選んでよぉ」
心ここにあらずの俺に、理奈は拗ねるように口を尖らせた。
「俺が選んでも意味ないだろう?」
「だって、修吾より伊吹の方がセンス良いんだもの。だから、伊吹に選んで欲しいな。いいでしょ? お願い」
修吾と言うのは、俺と理奈の幼馴染みで、理奈の婚約者だ。
三ヶ月ほど前からアメリカに長期出張に行っていて、帰国は結婚式ギリギリになりそうだと言う。
結婚式の準備を手伝ってやって欲しい、とは言われたが、まさか理奈のドレスを選ぶことまで丸投げしてくるとは思いもしなかった。
理奈はウェディングドレスのカタログをこちらに向けて、「一生に一度のお願いだから」と迫ってくる。
ついでに修吾のタキシードも選ばなくてはいけないらしい。
若干うんざりしながらも、ドレスのカタログをパラパラとめくる。
「…………ドレスなら、これが良い」
指さす俺に、理奈は盛大に嫌そうな顔をした。
「……ねえ、それって、私に似合うと思う?」
「……」
「そうよねぇ? 絶対、結麻ちゃんに似合うヤツ選んだでしょ!?」
だって仕方がない。俺の頭の中は、いつでも彼女のことでいっぱいなのだから。
この時の理奈とのやりとりを結麻さんに見られていただなんて、思いもしなかった――。
どうしても一本電話をかけなければならなくて、役員会を一時的に抜けて自分の執務室へ戻ってきている時だった。
執務室の内線が鳴る。秘書の笹原からではないらしい。
この部屋に直通の内線をかけてくるのは、普通は笹原か、野村さんと結麻さんぐらいだ。
番号を確認し、誰からのものかを調べる。
「……はい、篠宮です」
不機嫌を声にのせないように気を付けて名乗ると、電話の主も、少し緊張した声で名乗った。
『人事課の、奥瀬です。不躾なことをして、申し訳ありません』
「……用件は?」
問うと、結麻さんが総務部に来た際に、総務部長のことが気にかかったと言う。
腕を掴んで談話室へ連れ込み、至近距離で接していたと言うのだ。
『こんなことを直接申し上げるかどうか迷ったのですが……総務部長は若い女子社員にそうやって少し強引に近づくことが多いらしいと、他からもいくつか苦情も出ているので』
「……分かりました。少し調べて、対応を考えます」
『よろしくお願いします』
総務部長の谷川か……。確かに、あまり良い噂は聞かない。
ちょうど役員会の最中だ、会議室に戻ったらこの件も議題に挙げた方が良いだろう。
――この時、こんなに悠長に構えていたことを、俺は後々とても後悔した。
もっと早く動いていれば、結麻さんをあんなに怖い目に遭わせることもなかったのに……。
――土曜日だと言うのに、今日はどうしても外せない会合があって、俺はいま社用車の中にいる。
「専務、眉間に皺が寄ってますよ」
秘書の笹原が薄ら笑いを浮かべているのがミラーに映っている。
そりゃあ眉間に皺も寄るだろう、せっかくの土曜日なのに。結麻さんとゆっくりしたいのに。
「その顔で取引先に会わないで下さいね」
「……分かってる」
笹原の盛大なため息が聞こえる。
……ため息を吐きたいのは、こっちの方だ。
車は、ホテルのエントランスへと滑り込んだ――。
昼間の会合と夜の会食の間に、少しだけ時間が空いている。
その隙間を狙って、従妹の理奈が「結婚式のドレスを選んで欲しい」と言ってきた。
無理だと言っても聞き入れてもらえず、俺は会合場所近くの店に呼び出されて、なぜか理奈の着るドレスのカタログを眺めると言う事態になっていた……。
「ねぇ、伊吹も一緒に選んでよぉ」
心ここにあらずの俺に、理奈は拗ねるように口を尖らせた。
「俺が選んでも意味ないだろう?」
「だって、修吾より伊吹の方がセンス良いんだもの。だから、伊吹に選んで欲しいな。いいでしょ? お願い」
修吾と言うのは、俺と理奈の幼馴染みで、理奈の婚約者だ。
三ヶ月ほど前からアメリカに長期出張に行っていて、帰国は結婚式ギリギリになりそうだと言う。
結婚式の準備を手伝ってやって欲しい、とは言われたが、まさか理奈のドレスを選ぶことまで丸投げしてくるとは思いもしなかった。
理奈はウェディングドレスのカタログをこちらに向けて、「一生に一度のお願いだから」と迫ってくる。
ついでに修吾のタキシードも選ばなくてはいけないらしい。
若干うんざりしながらも、ドレスのカタログをパラパラとめくる。
「…………ドレスなら、これが良い」
指さす俺に、理奈は盛大に嫌そうな顔をした。
「……ねえ、それって、私に似合うと思う?」
「……」
「そうよねぇ? 絶対、結麻ちゃんに似合うヤツ選んだでしょ!?」
だって仕方がない。俺の頭の中は、いつでも彼女のことでいっぱいなのだから。
この時の理奈とのやりとりを結麻さんに見られていただなんて、思いもしなかった――。
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