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第32話 回復
しおりを挟む「……さすがに全然眠れないな」
「ホー?」
「ああ、ごめんフー太。大丈夫だよ」
すでに日も暮れて外は真っ暗になっている。
エリナちゃんにドルダ病の特効薬を飲ませてあげてから、症状は落ち着いたようだがまだ安心はできない。とはいえ、すでに俺にできることはもう何もないので、晩ご飯を食べてそのまますぐにこの村で借りている家へと戻ってきて、すぐ横になった。
俺にできることは何もないと頭では分かっているのだが、何時間も寝ることができずにいる。大抵の場所では普通に眠るくらい神経が図太い俺でも、こんな状況ではあまり眠ることができないようだ。
「ホー♪」
「……ありがとうな、フー太」
俺を心配してか、フー太が大きくなって俺を両方の翼で優しく包み込んでくれた。
「フー太は温かいな……」
フー太に包まれると、ポカポカとしてとても優しい気持ちとなって、とたんに睡魔がやってきた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……朝か。そうだ、エリナちゃんは!」
眩しい日差しが家の中に差し込んで目が覚めた。昨日はエリナちゃんが心配で眠れなかったが、フー太のおかげでぐっすりと眠ることができたようだ。
「ホー!」
フー太も起きたようで、いつもの定位置である俺の右肩へと乗ってくれた。
家を出て、昨日エリナちゃんが寝ていたヨル婆の家へと向かう。
「シゲト!」
「ジーナ、エリナちゃんの様子はどう!」
「ホー!」
ヨル婆の家の前には多くの村の人が集まっており、その中にジーナがいた。そして俺とフー太の姿を見つけると、こちらに走り出してきた。
「うわっと!?」
そしてジーナはそのままの勢いで俺に抱き着いてきた。
「シゲト、エリナの赤い発疹が消えて、熱も下がりもう起き上がれるようになりました! シゲトのおかげです!」
「本当! それは良かった!」
「ホー♪ ホー♪」
良かった! どうやら昨日エリナちゃんが飲んだドルダ病の特効薬の効果はあったみたいだ。
「シゲト、本当にありがとうございます!」
「………………」
エリナちゃんが無事に治ったのは本当によかった。俺も一安心だ。
……そしてホッとすると、頭は冷静になって今の状況をより客観的に見られるようになってきた。
ジーナは女性にしては身長が高く、俺が少し視線を下げたところにジーナの美しい白銀色の髪がある。その白銀色の髪からはエルフ特有の長い耳が見えた。そしてなにより、ジーナの柔らかな胸の感触が俺のお腹の辺りに伝わってくる。
このままでは非常にヤバイ! 主に俺の下半身的な意味で!
「……ジーナ、早速エリナちゃんに会わせてもらってもいいか?」
「はい、もちろんです! あっ、ごめんなさい、シゲト!」
「いや、全然大丈夫だよ」
本当なら、このままずっと抱き着いていてもらいたいところだが、いろいろな面でやばいからな。
ジーナも俺に抱き着いていることに気付いて、すぐに離れてくれた。
「エリナ、本当に良かったな!」
「ああ、エリナ! こんなに元気になって!」
「お父さん、お母さん!」
ヨル婆の家へ入れてもらうと、中には涙を流しながらエリナちゃんを抱きしめている両親の姿があった。そしてその隙間から見えるエリナちゃんの肌には昨日まであった赤い発疹が綺麗になくなっていた。
昨日まで苦しそうにしていた様子もなく、今では元気そうに自分の足で立ち上がっている。
それにしてもすごい効き目だな。病気の特効薬と言うのもうなずけるほどの効果だ。あの街の薬屋のおっちゃん、昨日は少しだけ疑ってすまん。
「シゲトさん! 娘が……娘がこんなに元気になりました!」
「シゲトさん、本当にありがとうございました!」
エリナちゃんの両親が俺に気付いたようで、涙を流しながら何度も頭を下げてきた。
「エリナ、シゲトさんがお前を助けてくれたんだぞ!」
「ちゃんとシゲトさんにお礼を言いなさい」
「シゲトお兄ちゃん、ありがとう!」
それは溢れんばかりの眩しい笑顔であった。それこそ昨日の苦労をすべて吹き飛ばしてくれるほどの笑顔だ。
エリナちゃんを助けることができて本当に良かった。これで今日や明日食べるご飯をおいしく食べられることは間違いないだろう。
「シゲト殿、改めてエリナを助けてくれて、本当にありがとうございました!」
「シゲト、本当にありがとうございました!」
エリナちゃんの体調が回復していることを確認した後、俺とフー太はジーナと一緒に村長さんの家へと呼ばれた。そして村長さんとジーナは俺に向かって頭を下げてきた。
「俺が俺のやりたいようにしただけなので、2人が気にする必要はありませんよ。村長さんもジーナも頭を上げてくれ」
エリナちゃんを助けようとしたのは俺の意思だ。2人が気にする必要はまったくない。
「で、ですが、あれだけ高価な香辛料を売ってくださったお金を使ってくれてまでエリナを助けていただきました。村ではあれほどの大金を用意することができず……」
「さっきも言いましたが、俺がしたいことをしただけなのでお金は必要ありません。そうですね、たまにこちらの村に訪れると思うので、その際に寝床を貸していただいて、野菜を少し分けていただけると助かります」
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