キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ

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2巻

2-1

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 第一章 レベルアップ


「それにしても、このキャンピングカーというものは本当にすごいですね」
「ふっふっふ。そうだろう、ジーナ」

 俺――吉岡茂人よしおかしげとはこの異世界へやってきた転移者というやつだ。ただし、俺は何も持たずにこの世界にやってきたわけではない。
 相棒であるこのキャンピングカーを購入して、初めてのキャンプをしたら、キャンピングカーごとこの世界に来てしまったのだ。朝起きたら広い草原にいて、ゴブリンが見えたのだから、最初は夢かと思ったよ……
 俺達は、先ほどフェビリー村を出て、少し離れた場所までやってきた。
 人目につかないところを見つけたので、ここからはキャンピングカーで移動しようと、俺は車体を出現させた。
 俺の隣にいるジーナは、まばゆく光り輝く白銀色のポニーテールが目を引く可愛らしい女の子だ。そして、その髪と同じくらい目を引くのがエルフという種族特有の長くとがった両耳だ。
 森で迷い飢えていた彼女を助けたら、住んでいるハーキム村に案内してくれた。
 そこで、彼女に生まれ育ったハーキム村の外の世界を見せてあげてほしいと村長達に頼まれ、俺達の護衛ごえいとして、一ヶ月の間だけこの旅に同行してもらうことになった。

「ホーホホー」

 俺の右肩に留まっている、真っ白でもふもふとした体毛におおわれている五十センチメートルほどのフクロウのような可愛い魔物。もりフクロウという種族で、名前はフー太。
 真っ黒でつぶらな瞳、胸にある黒色の紋様もんようは、元の世界のフクロウにはないものだ。
 翼に枝が刺さってうまく飛べなかったところを助けたら、俺になついてくれて一緒に行動している。
 ちなみにフー太は言葉を話すことができないけど、俺の言葉を理解することはできる。自身がフー太という名前だと認識しており、俺が呼ぶたびに反応を見せてくれる。

「コレットちゃん、これは危ないものじゃないから、リラックスして入ってくれて大丈夫だよ」

 怯えた様子でキャンピングカーの中へ入ろうとする女の子。くせのある長い髪とぴょこんと生えたオオカミのような耳、腰のあたりから生えている尻尾はもふもふで、髪や耳と同じ黒色をしている。
 小学校高学年くらいの幼くて可愛らしい彼女の名前はコレット。
 彼女は黒狼族こくろうぞくという種族の獣人で、フェビリー村では、不吉ふきつ象徴しょうちょうになってしまっていた。俺達はそんな彼女を、先ほど村から連れ出したところだ。

「本当に大丈夫?」
「う、うん。ちょっと怖いけれど大丈夫だよ!」

 ……う~ん。初めてキャンピングカーに乗る時はワクワクした気持ちになるものだけれど……
 この世界の人達には、大きな魔物にしか見えないらしいから、それも仕方がないことか。

「うわあ~とっても広くて、初めて見る物がいっぱいあるよ!」
「中はだいぶ広いでしょ。キャンピングカーは中で生活できるようになっているんだよ」

 最初は怯えていたけれど、テーブルや椅子、家電などといったこの世界にはない珍しい物がいっぱいあるからか、コレットちゃんは楽しそうな表情をしている。
 この車は、キャンピングカーのハイエンドであるバスコンタイプという種類である。マイクロバスの内装を寝泊まりできるように改装したもので、その広さは他のキャンピングカーとは一線を画す。
 そのため、お値段の方はなんとオプション込みで二千五百万円もした。高かった分、トイレやシャワー室まで付いていて、もはや移動できる家と言っても過言ではない。

「コレットちゃんはここに座ってね。このシートベルトはここを押すと外れるようになっているけれど、走っている間は危ないから外さないようにね」
「う、うん」

 コレットちゃんにキャンピングカーの後部座席に座ってもらい、シートベルトを着けてあげる。この異世界の住人はシートベルトなんて着けたことはないから、ちゃんと教えてあげなければならない。

「最初だから、ジーナはコレットちゃんの隣に座ってあげてね。俺とフー太は前の方にいるから、何かあったらすぐに教えてくれ」
「ええ、わかりました」

 これまでは俺が運転席に座り、ジーナが助手席に座って、ジーナの膝にフー太が座るのが定位置だった。だけど、今回はこっちの方がいいだろう。

「さて、次の目的地であるマイセンまでの道のりを設定してと……」

 助手席に座ったフー太のシートベルトを着けてあげて、キャンピングカーのエンジンを掛けてから、俺は運転席と助手席の間にあるカーナビのパネルを操作する。
 理由はわからないけれど、異世界へやってきてから、ポイントを使用してこのキャンピングカーの機能を拡張できるようになった。
 この『ナビゲーション機能』は1ポイントで拡張できた能力で、元の世界のカーナビのように異世界の地図を表示して、道案内をしてもらえる機能だ。このキャンピングカーでは通ることができない森や山なんかをちゃんと迂回うかいしてくれる優れものである。


『目的地が設定されました。目的地まで案内を開始します』


「わっ!?」

 突然のナビの音声に、コレットちゃんが驚いて声を上げた。

「ああ、この声は道を案内してくれる声だから安心してね」

 地図上の目的地にピンを留めて、『案内を開始する』ボタンをタッチすると、車内に機械音が鳴り響いた。アクセルを踏むとゆっくりとキャンピングカーが走り出す。

「わわっ、すごい! お馬さんが引っ張っていないのに走っているよ!?」
「コレットちゃん、これがキャンピングカーの能力なんだ。馬車よりも速くて、少し揺れるから、舌を嚙まないように気を付けてね」
「ホー!」
「私も最初は怖かったですが、すぐに慣れます。窓の外に見える景色は素晴らしいですよ」
「ジーナお姉ちゃんがそう言うなら……わっ、本当だあ!」

 ジーナや村長さんも初めてキャンピングカーに乗せた時にはとても驚いていたな。コレットちゃんには走りながらこのキャンピングカーの詳しい説明をしよう。


「コレットちゃん、大丈夫そう?」
「ホー!」
「は、はい! えっと、すごく速くてびっくりしました!」

 車のない世界でいきなりキャンピングカーに乗ったら、この反応になるだろうな。今回はジーナが隣にいてくれるから、コレットちゃんも多少は安心してキャンピングカーに乗れているみたいだ。
 キャンピングカーで走りながら、簡単に俺達の事情を話す。
 俺は遠い国から来ていて、気付いたらこの不思議なキャンピングカーを手に入れていたこと、道中で怪我をしたフー太と出会って、そこから一緒に旅をしていること、倒れていたジーナを助けたら、そのお礼として一月ひとつきだけ護衛をしてくれることになったことなど。

「あっ、もし気持ち悪くなったらすぐに言ってね」
「うん」

 今のところはみんな大丈夫そうだけれど、車酔いをする可能性もあるからな。俺も運転には集中力が必要だし、ところどころで休憩を挟んでゆっくりと進んでいくとしよう。


 キャンピングカーを走らせて約百キロメートル。ここまでは魔物や人に遭遇することはなく、とても順調な道のりを進んできた。
 この世界の道は元の世界のように舗装ほそうもされておらず、木や岩なんかの障害物も多く、ゆっくりと慎重に進んできたこともあって三時間近くかかってしまった。
 とはいえ、ハーキム村からオドリオの街まで時速五十キロメートルで飛ばした時はだいぶ怖かったから、何もない時はこれくらいゆっくりと進むのがいい。

「……さて、いよいよか。果たして何が起こることやら」

 いよいよこの異世界に来てキャンピングカーで新しい道を走った距離が、千キロメートルを越える。カーナビの表示が残り一キロメートルになっていた。
 ここに表示されている通りなら、あと一キロメートル走ると、レベルアップするらしい。
 初めは残り千キロメートルだったこの表示が、ついに残り一キロメートルになったのは少しだけ感慨深い。
 他の拡張機能かくちょうきのうにも言えることだけれど、能力の詳細や二日で1ポイント貯まる仕組み、そしてこのレベルアップについても、どれだけ画面を探しても説明がない。キャンピングカーに様々な能力を拡張できるのはとても助かるのだが、それだけが唯一の不満である。


『レベルが2に上がりました』


「おっ、ついに来たか。みんな、一度キャンピングカーを止めるよ」

 レベルアップしたところで、道を少しだけ外れて、周囲から目立たない場所までやってきた。
 この世界には危険な魔物や盗賊なんかがいるから、見通しのいい草原にこのキャンピングカーを止めていると、非常に目立って狙われる危険性があるのだ。

「それでは私は周囲を見張ります」
「うん。よろしく、ジーナ。フー太とコレットちゃんも何か近付いてくるものが見えたら教えてね」
「ホー!」
「うん!」

 ジーナはロングソードを左の腰に差して、キャンピングカーの外へ出ていく。フー太はフロントガラスから前を、コレットちゃんは横にある窓から外を見張ってくれる。
 この場所は左側に林が広がっているから、それほど目立たないはず。俺はキャンピングカーのレベルアップによって何がどう変わったのかを確認するために集中したい。


『次のレベルアップまでの距離が二千キロメートルに設定されました』


 パネルの『次へ』をタッチすると画面が切り替わった。
 レベル2と表示されていたことから察したけれど、どうやらこのキャンピングカーは新しい道を走れば走るほどレベルアップしていくようだ。
 それにしても二千キロメートルか。この世界ではスピードを出すことができないから、千キロメートル走るのにも結構な日数がかかったのに、その倍とはな……
 そうなると、さらに次のレベルアップはさらに千キロメートル追加で三千キロメートルか、また倍になって四千キロメートルとなるのだろうか。


『新しい拡張機能が追加されました』


 おっ、やっぱり拡張機能の追加があったか。
 これまでに選択できた拡張機能は十個で、どれもすごく便利だったけれど、それでも物足りない気がしていたからありがたい。
 あとでどんな機能があるか確認しよう。この拡張機能が今後の生活を左右するわけだからな。


『新しい特殊機能とくしゅきのう透明化とうめいか】が追加されました』


 特殊機能だと! それに透明化ってことはまさか……

「って、相変わらず説明はなしかよ!」
「ホー!?」
「シゲトお兄ちゃん、大丈夫?」
「ごめん、つい大きな声を出しちゃった」

 つい目の前のパネルにツッコんでしまった。特殊機能とやらの説明があるのかと思って『次へ』を押したら、いつものナビゲーション画面に戻ってしまったからだ。
 相変わらず不親切すぎるんだよなあ……
 それはそうと、もしかしてパネルに新しく追加されているこれがそうだろうか?

「ジーナ、ちょっとキャンピングカーを見ていてくれ。何か変化があったら教えて」
「はい、わかりました」

 パネルの★マークを押すと、地図からいつもの拡張機能の選択画面に切り替わる。そこには新しい拡張機能があったけれど、今はこっちが優先だ。
 キャンピングカーの外にいるジーナに声を掛けて、パネルの★マークの横に新しく追加された、点線で描かれた〇のマークを押してみる。

「んなっ!? シゲト、フー太様、コレットちゃん、どこですか!」

 外からジーナの声が聞こえてくる。キャンピングカーの中はなんの変化もない。透明化ということだから、ジーナには俺達が見えなくなったのかもしれない。

「ジーナ。俺達はここにいるよ。見えていないの?」
「シゲトの声だけが聞こえます! ですが、先ほどまでそこにあったキャンピングカーは見えなくなりました。林が広がっているだけです」

 俺はもう一度点線の〇マークをタッチしてみる。

「シ、シゲト! 突然キャンピングカーが現れました!」

 やっぱりそうか。透明化はその名の通り、このキャンピングカーを透明にすることができる機能だ。
 なんともファンタジーらしい機能が追加されたものだ。これも魔法の一種なのか気になるな。
 この機能についてはあとで確認することがあるな。

「ジーナ、もう一度キャンピングカーが見えなくなると思うから、そのまま見ていてね」
「は、はい。わかりました」

 ジーナに声を掛け、もう一度点線の〇マークをタッチする。

「シゲト、またキャンピングカーが消えてしまいました!」
「了解」

 俺は運転席を立って、後ろへ移動してドアを開けた。

「と、突然シゲトが現れました!」
「なるほど、ドアを開けると見えるようになるのか」

 キャンピングカーのドアを開けると、ジーナと目が合った。どうやら透明化中でも、ドアを開けると効果がなくなるらしい。

「……なるほど、こう見えるのか。あれっ?」


「どうかしました?」
「いや、ジーナからはこのキャンピングカーは完全に消えて見える?」
「は、はい。私には扉の中以外は見えませんが……」

 ジーナには見えないらしいけれど、俺には透けたキャンピングカーが見えて、うっすらと後ろの景色が見える感じだな。
 そして、それは完全に外に出ても変わらなかった。
 そうなると、俺だけがこう見えるのか、透明化した時点でキャンピングカーに乗っていた人は皆こう見えるのかだな。

「そしたらジーナは一度キャンピングカーに戻ってくれ。その後コレットちゃんとフー太が外に出て、このキャンピングカーがどう見えるか確認してみて」
「は、はい!」
「うん、わかった」
「ホホー」

 ジーナに車内へ戻ってもらい、入れ替わりにコレットちゃんとフー太に外へ出てもらった。

「うわあ~ドアの中以外、何も見えないよ!」
「ホーホー!」
「なるほど。どうやら俺以外には、キャンピングカーのドアを閉じていれば完全に消えて見えるみたいだな」

 念のためドアを閉めて確認してみたが、俺にはキャンピングカーが半透明に見えて、コレットちゃんとフー太には見えなかった。
 たぶんキャンピングカーの所有者である俺だけ特別扱いなのだろう。『アイテムボックス機能』も俺しか物を出し入れすることはできなかったしな。
 まあ、俺まで完全に見えなくなったらキャンピングカーを見失ってしまう。説明はないくせに、こういうところは親切な設計である。

「……ほう、透明になっているけれど、ちゃんと触れるみたいだな」
「本当だ! とっても不思議だね!」
「ホー」

 半透明に見えるキャンピングカーを触ってみると、普通に感触がある。コレットちゃんとフー太にも触ってもらうと、二人とも触れることはできるようだ。
 おっ、もしかするとキャンピングカーのエンジン音も消えているのか?

「ジーナ、ドアを閉めるよ。みんな、少しだけ静かにしてくれ。音を確認してみる」
「はい、わかりました」
「うん」
「ホー」

 キャンピングカーのドアを閉めて耳を澄ます。
 ……うん、どうやら透明化している時はエンジン音も消えてくれるようだな。透明化中は完全に気配を消してくれて、魔物や盗賊から姿を隠すことができそうだ。
 この特殊機能は隠密行動に非常に向いているな。
 ぎゅるるるるるる~。

「はうう!?」
「「「………………」」」

 半透明に見えるキャンピングカーの中から、以前にも何度か聞いたジーナのお腹の虫の音が鳴り、そのあとにジーナの声が聞こえた。
 どうやらエンジン音は消えていても、キャンピングカーに乗っている人の声や物音なんかは消えないみたいだ。
 あとは透明化中にキャンピングカーを走らせるとどうなるか、どれだけの時間透明化できるのかなんかは確認しておきたいところだな。
 まあ、日も暮れてきたことだし、検証は明日にしておこう。
 今日は朝から森を歩いてフェビリーのたきを見に行き、そのあとコレットちゃんのこともあったから、いつも以上にお腹が空いている。

「それじゃあ、今日はこのままここに泊まろうか」
「は、はい……」

 ドアを開けるとそこには、顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにお腹を押さえるジーナの姿があった。
 もう今更だから俺は気にしないのだけれどな。

「俺は外で晩ご飯を作っているから、コレットちゃんとジーナは先にシャワーを浴びてね」
「しゃわー?」
「わ、わかりました。私が説明するから大丈夫ですよ」
「頼むよ、ジーナ」

 説明はジーナに任せるとしよう。とりあえず今のコレットちゃんには、シャワーを浴びてすっきりしてもらうのがいいだろう。
 まだ幼いとはいえ、コレットちゃんは女の子だ。こういう時に同性のジーナがいてくれるのはとても助かるな。


「シゲトお兄ちゃん! シャワー、とっても気持ちよかった! あとシャンプーって泡がいっぱい出てきて楽しかったよ!」
「うん、だいぶサッパリしたみたいだね。服は今度街へ行った時に買ってあげるから、しばらくはこっちの服を着てね」
「うん! ありがとう、シゲトお兄ちゃん!」

 コレットちゃんは二セットしか服を持っていなかったのだが、そのどちらもかなり汚れていた。今度街へ行った時に新しい服を買うとして、あの服のままでいるのはちょっと困るから、今はジーナのシャツを着てもらっている。
 二セットの服は洗濯せんたくしておこう。ちなみに俺やジーナの服についてはハーキム村でもらった洗濯板のようなもので洗っている。洗濯機があればだいぶ楽なんだが、さすがのキャンピングカーにも、そんな機能は付いていない。
 今はいいけれど、寒い時は大変そうだよなあ……まあ、水道代を気にせず洗濯できるのはとても助かるけれど。
 そんなわけで今のコレットちゃんはジーナの服を着ているのだが、サイズが大きくてだぼだぼだ。
 ……女の子が大きなシャツを着ている姿を可愛らしく思うのは、俺だけではないはずだ。
 さて、こっちの準備も出来たし、晩ご飯にしよう。
 コレットちゃんは、これまでフェビリー村であまり満足な食事を食べさせてもらえなかったようで、せ気味だ。長いことまともなご飯を食べてないだろうから、いきなりあぶらっこい料理やカロリーが高すぎる料理は胃がびっくりしてしまう。
 今日明日くらいは消化の良い料理を中心にした方が良いと思い、カロリー控えめな献立こんだてにしてみた。それに今日はあまり時間がなかったから、素早くできる料理にした。

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