キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ

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2巻

2-2

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「うわあ~おいしそう! 本当に僕も食べていいの?」
「もちろんだよ。だけどゆっくりと食べてね。明日からも同じように食べられるから、無理はしちゃ駄目だよ」

 様々なで野菜の上に、薄切りにした肉を茹でて冷ましてから載せ、そこにドレッシングを掛けて温野菜と冷しゃぶの完成だ。
 野菜は茹でた方が生よりも食べやすいし、油を使って炒めるよりもヘルシーなんだよな。

「でも、僕はまだ何もシゲトお兄ちゃん達の役に立っていないのに……」

 なかなか食べ始めないコレットちゃんが、ぽつりと呟いた。

「今日からそういうことは気にする必要ないからね」

 村にいた頃は働かないと食事をもらえなかったのかもしれない。父親が亡くなってからは本当に辛い目に遭っていたんだろうなあ……

「シゲトはそんなことを気にしないので、大丈夫ですよ。私も護衛として全然役に立っていないのですが、毎日食事をいただいておりますから! はあ……」
「ホー?」

 自分で言いながらくらい表情でため息をつくジーナ。以前街に行った時、フー太がさらわれそうになったところを守ってくれたんだけど、それだけじゃ護衛としての仕事はまだ足りないらしい。

「ほら、せっかく今日からコレットちゃんも加わるんだから、ジーナも元気出せって。ジーナは護衛でも役に立っているし、明日頼みたいことがあるから、いっぱい食べていいんだぞ」
「本当ですか!」
「シゲトお兄ちゃん、僕も手伝う!」
「ホー!」
「そうだな。みんなも力を貸してくれ。それじゃあ早速食べよう」

 明日は次の目的地である湖へ向かいつつ、道中でやりたいことがあるから、しっかりと腹ごしらえをしておかないといけない。

「これはすばらしいですね! 茹でて柔らかくなったアツアツの野菜と、薄く切った少し冷たい肉が合わさって、初めて食べる味です! それに上に掛かっている少し酸味さんみのあるこのソースがとてもおいしいです!」
「ホーホー♪」

 相変わらずジーナとフー太はおいしそうに食べてくれる。うん、こちらの世界の野菜は本当においしいから、茹でただけでも十分だ。
 理想を言えばドレッシングや大根おろしのタレなんかが合うんだけれど、今回は以前作った、サラダ油にレモン汁とアウトドアスパイスを混ぜた即席そくせきドレッシングを掛けた。
 うん、これでも十分においしい。
 冷しゃぶといえば、ゴマダレやポン酢で食べることが多いが、俺はいつも大根おろしのタレで食べていた。こちらの世界の大根に近い野菜が見つかれば、出汁だしやポン酢を使って作れる気がするな。今度時間のある時に挑戦してみよう。

「うう……」
「コ、コレットちゃん、大丈夫!? 嫌いな物があったら、無理に食べないで大丈夫だからね!」

 ご飯を食べながら、突然コレットちゃんが泣き出してしまった。

「いえ、とってもおいしいです! なんだか、本当に夢みたいでほっとしちゃって……」
「……うん。もう大丈夫だから、落ち着いてゆっくり食べるといいよ。おかわりもあるからね」
「はい!」

 これまでのコレットちゃんがいかに冷遇れいぐうされていたかがよくわかった。
 少しずつでいいから、俺達と一緒に楽しく旅ができるようになればいいな。


「ご馳走ちそうさまでした。本当においしかったです!」
「満足してくれたようでよかったよ」

 コレットちゃんは遠慮えんりょ気味に一度だけおかわりをした。
 ハーキム村でもらった野菜や、街で買った野菜がまだまだたくさんあるから、遠慮しなくてもいいのだが、今日はこれでいいだろう。

「さて、それじゃあこれからのことを少し話そう。これから北にあるマイセン湖へ向かう予定なんだけれど、カーナビ通りに行くと、距離的にはあと一日あれば目的地に到着できそうかな」

 カーナビの目的地検索機能は、行ったことがある場所でなければ使えないが、手動でピンを留めればそこを目指すことができる。
 街や村で集めた情報から、湖の隣にある村までを試算できた。

「このキャンピングカーという乗り物は本当に速いですよね」
「ホー!」
「フェビリーの滝も本当に綺麗きれいだったし、マイセン湖も楽しみだよね。だけどお肉がなくなってきたことだし、明日一日を使って狩りをしてみようと思っているんだ」

 そう、食事の前に話した、みんなに明日やってもらいたいこととは狩りである。
 ジーナと出会った時に狩ったディアクの肉が、そろそろなくなってきた。
 一応まだ金貨は残っているし、新しい村や街へ行ったら、アウトドアスパイスやコショウ、塩なんかの調味料を売って、そのお金で肉を買うこともできる。
 だけど、せっかく狩りの経験があるジーナとコレットちゃんがいるわけだし、一度このメンバーで肉を確保できるかを確認しておきたい。
 次の目的地へ行く前に、ちょっとだけ寄り道だ。他にも特殊機能の検証と、新しく拡張された機能の確認もしてしまおう。

「狩りなら私に任せてください!」
「ぼ、僕も狩りならお手伝いできます!」
「ホー! ホー!」

 ジーナやコレットちゃんはともかく、フー太もやる気満々らしい。そういえば、元々フクロウはネズミとか小鳥なんかを狩るんだっけ。
 とはいえ、絶対に危険なことはしないつもりだ。できる限り山や森の奥には入らないで獲物を探すとしよう。
 フェビリーの滝を見る時に入った山でも思ったけれど、いざという時にキャンピングカーで逃げられるような開けた場所が良い。
 コレットちゃんは耳がいいから、森の中でも警戒はできそうだが、念には念を入れておくことにしよう。


「それじゃあ明日に備えて早く寝よう。コレットちゃんはジーナと一緒に後ろで寝てね」
「うわあ~とっても柔らかいよ、シゲトお兄ちゃん!」

 最近のキャンピングカーのベッドはかなり快適に寝られるよう進化している。これまでコレットちゃんが寝ていた馬小屋とは天と地ほど違うはずだ。
 このキャンピングカーの最大定員は十人だが、実際に横になって寝られる人数は七人となっている。
 一番後ろのスペースが大きなベッドになっていて、ここで三人まで横になって寝ることができる。そして、普段ソファとして使用している席を変形させてベッドにすることができ、そこで二人が寝られるようになっていて、もう一つシャワーの前にも組み立て式のベッドがある。
 最後にトラックベースのキャブコンによくあるバンクベッドだ。
 キャンピングカーの車体の運転席部分の上にある出っ張った部分は、物を置いたり寝たりするスペースにできる。
 寝心地的には間違いなく後ろのベッドの方がいいけれど、はしごを使って登る秘密基地みたいになっているから、男心がくすぐられる。
 普段俺とジーナは、ソファ席とベッドスペースを交代で寝ていた。今日からはコレットちゃんも一緒になるので、後ろの広いベッドはジーナとコレットちゃんに寝てもらう。

「寝心地もかなりいいと思うよ。寒かったら上に布団を掛けて寝るんだよ」
「うん!」

 ちなみに、寝ようと思えば、前の座席に座って寝るとか、通路にマットと寝袋を敷けば、もっと大人数で寝ることも可能だけれど、せっかくのキャンピングカーで寝袋なんて野暮だろう。
 早速今日の夜は、キャンピングカーを透明化して寝てみるつもりだ。
 先ほど確認したところ、透明化はエンジンを切っても続いていた。再びエンジンを掛けてパネルの点線の〇マークをタッチしたところ、解除することができた。
 もしも時間制限がなく、夜の間中透明化できるのなら、以前よりも遥かに安全性が増すことになる。
 とはいえ、キャンピングカーが透明になって見えなくなっても、実際に触れることはでき、攻撃はそのまま受けることになる。
 そのため、キャンピングカーの周囲一メートルくらいの場所に、この前作ったお手製の鳴子なるこを張り巡らせておく。

「そういえばコレットちゃんは耳が良いって聞いたけれど、このキャンピングカーの外に魔物が現れたら、その気配はわかったりするのかな?」
「えっと、ちょっと待ってね……うん、近くまで来たらわかるよ」

 イヌ耳ならぬ黒いオオカミ耳をピンと立てて、周囲の音を確認するコレットちゃん。なんだかその姿も可愛らしい。

「おおっ、それはすごいね! 一応寝る時には、用心の道具を仕掛けているけれど、今まで以上に安心して眠ることができるよ」
「シゲトお兄ちゃん達の役に立てそうでよかったです!」
「でも、そこまで気を張る必要はないからね。このキャンピングカーはとっても固くて丈夫で、多少の傷なら一日経てば直っちゃう特別製だから、夜はぐっすり寝て大丈夫だよ」

 コレットちゃんのことだから、無理して寝ずの番とかしちゃいそうだもんな。休む時にはゆっくりと休んでもらわないといけない。

「一日経てば直っちゃうんですか!?」
「うん、だから無理だけはしちゃ駄目だよ」

 たとえ実験でも、自らキャンピングカーに大きな傷を付ける気はないから、今度傷ができたらその時に見せてあげよう。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「……ふあ~あ」
「ホー……」

 朝になって目が覚める。
 いつものように、隣には体の大きくなったフー太が気持ち良さそうに寝ていたけれど、俺と一緒に起きたみたいだ。
 昨日は透明化機能のおかげで、より熟睡じゅくすいできた気がする。

「おはよう、フー太」
「ホホー」
「昨日の結果を確認するけれど、一緒に来るか?」
「ホー!」

 目をこすっている様子は相変わらず可愛らしい。少しして完全に目が覚めたようで、大きな体を縮めていつも通り俺の肩に留まる。
 チラッとだけキャンピングカーの一番後ろにあるベッドを見たけれど、ジーナとコレットちゃんはまだぐっすりと寝ている。
 昨日初めてキャンピングカーの中に泊まることになったコレットちゃんも、ちゃんと寝られたみたいで何よりだ。

「……うん。どうやら一晩中透明化していたみたいだ」
「ホーホー」

 外に出ると、昨日と同じように、俺にはキャンピングカーが半透明に見え、フー太には完全に見えていない。
 今のところだが、この透明化の特殊機能に時間制限はなさそうだ。
 これはかなり便利だな。レベルアップまでの道のりは結構大変だけれど、この透明化のような特殊機能と新しい拡張機能が追加されてより快適になるのなら、次のレベルアップを積極的に目指す価値はある。
 引き続き、まだ通ったことのない道を進んで行こう。

「さて、今日は狩りに出るからな。しっかりとエネルギーを蓄えておくか」
「ホホー♪」

 周囲に異常がないことを確認して、外で朝食を作ることにした。
 とはいえ、護衛であるジーナがまだ寝ているので、キャンピングカーのすぐ隣で作業をする。安全になったとはいえ、油断は禁物だ。


「シゲトお兄ちゃん! 遅くまで寝ていてごめんなさい!」
「おはよう、コレットちゃん。ちょうど朝ご飯の時間だから大丈夫だよ。昨日はよく寝られた?」

 朝食を作っている間にジーナが起きてきた。そして朝食ができてコレットちゃんを起こそうとしたところで、ちょうどコレットちゃんも起きてキャンピングカーの外へ出てきた。

「う、うん! とっても柔らかいベッドと温かいお布団で、ぐっすり眠れたよ!」

 よく眠れたなら何よりだ。

「それはよかったよ。それじゃあ今日は狩りに出掛けるから、途中で動けなくならないように、しっかりと朝食を食べようね」
「うん!」

 たぶんコレットちゃんにはこういう風に言った方が遠慮なく食べてくれるだろう。
 それに狩りに出掛けるのは本当だからな。しっかりと腹ごしらえをしてもらわないと。

「朝食は昨日も食べたホットサンドだけれど、今日は中身が昨日のとは違うからね。それに出来立てで温かいから、もっとおいしいと思うよ」

 やはりホットサンドは温かい状態で食べてこそだ。すでにパンに具材を挟んでいるから、追加でどんどん焼いて、焼き立てを食べてもらおう。
 ホットサンドと一緒にサラダとスープも用意してある。
 俺は万能スープのもとを炒め物の味付けに使うことが多いけれど、当然スープにも使う。

「うわっ!? 温かいと本当に昨日食べたのとは全然違うよ! 外側はザックリとしていて、中から今までに食べたことがない味のお肉が入っているね! それにこっちのお野菜とスープもとってもおいしい!」
「こちらのスープ、味付けがとてもすばらしいです!」
「ホー♪」

 うむ、焼き肉のタレで炒めた肉と野菜のホットサンドも好評。そして、万能スープの素に野菜とコショウを入れた簡単なスープでも、香辛料が高価なこの世界では立派なご馳走に大変身である。
 それに、昨日コレットちゃんが気に入っていた果実のジャムのホットサンドもちゃんと作ってある。
 温かくて甘いジャムのホットサンドには、昨日以上に満足してくれるだろう。
 キャンピングカーのアイテムボックス機能に入れておくと時間が止まるから、アツアツのまま食べられる。何かあった時の非常食にもなるし、多めに作って収納しておこう。


「さて、それじゃあ、このあとの予定を話そうか。少し移動して、狩りをするために森の中に入ろうと思っているんだけれど、どうかな?」

 みんなで朝食を食べ、後片付けをしながら今日の予定を話す。
 昨日話していた通り、今日は狩りをして食料を確保する予定だ。
 アイテムボックス機能にどれくらいの容量を保存できるのかはわからないけれど、できるだけ肉を確保しておきたい。
 ディアクの肉はとても旨いのだが、残りは僅かだし、毎日同じ肉というのは飽きてしまうからな。

「うん、頑張るよ!」
「ええ、私も精一杯頑張ります!」
「二人とも期待しているよ。とはいえ、コレットちゃんもジーナも、いつも狩りをしている場所じゃないから気を付けて。まあカーナビのおかげで道に迷うことはないから、離れないようにだけ注意してね」
「わ、わかったよ」
「ええ、絶対に離れないのでご安心ください」

 森の中でキャンピングカーを走らせることはできないけれど、森で迷っても少しひらけたところでキャンピングカーを出して地図を見れば大丈夫だ。
 ジーナが敵わない魔物が出てきた時だけは気を付けないといけないけどな。

「さて、それじゃあ出発しよう」

 何か獲物が取れたらその場で解体して食べられるかもしれないし、昼食は用意しない。
 まずは森へ向かおう。もちろん前世で狩りをした経験なんてないから、楽しみでもある。


 カーナビでマイセン湖方面に向かいながら、ちょうど良さそうな森を探す。
 キャンピングカーを透明化して走るとどうなるかを確認したところ、透明化したまま走れることが確認できた。
 しかも、その際のエンジン音は消えていたので、いつもよりも静かに走ることが可能である。
 しかし、ジーナに外から走っている様子を見てもらったところ、草むらをき分けるところは見えるし、タイヤの跡も残るし、砂利や小石を弾く音も聞こえた。
 まあ、確実に安全性は上がったのだから良しとしよう。
 これで、道ですれ違う人達から変に思われたり、急に攻撃されたりすることは避けられるだろう。


 第二章 狩り


 数時間進んだところに川があった。
 そして、その上流へ進むと大きな森があり、川はその森の中へ続いている。
 ここに川と森があることはすでにカーナビで確認済みだ。
 何も目印がない森の中に入るよりも川を上っていった方が道もわかりやすいし、もしも獲物を狩れた際には解体作業もやりやすくなる。

「それじゃあみんな、気を付けていこうね」
「はい!」
「うん!」
「ホー!」

 いつも通りリュックを背負い、右の腰にはまきを割る用のナタを準備してある。
 戦闘にはあまり貢献こうけんできないかもしれないけれど、何かあった時のためにもナタは持っておかなければならない。
 水辺は見通しがいいから、こちらも奇襲きしゅうはできないけれど、奇襲を受ける心配が少ない方が大事だ。
 コレットちゃんは耳がいいから、魔物が近付いてきてもすぐに気が付いてくれるだろう。そして、ジーナとフー太は目がいいから、索敵についても心配なさそうだ。

「ジーナはロングソードを使うんだよね?」
「はい。それと狩りでしたら、ナイフを投げることもできますよ」
「……ああ、そういえばそうだったね」
「あの時は本当にすみませんでした!」

 ジーナと最初に出会った時、キャンピングカーにナイフを投げられたなあと思い出していたら、ジーナもそれを思い出したようだ。
 あの時はキャンピングカーの車体を強化していなかったから、今思えば結構危なかったよなあ……

「もう気にしていないよ。コレットちゃんはそのナイフか」
「はい。僕はこれしか持っていなくて……」

 コレットちゃんが持っている武器はジーナと同じようなナイフだ。
 しかし、ジーナが持っているナイフとは異なって、だいぶびているうえに、一部が欠けている。狩りの素人である俺が見ても、このボロボロのナイフで獲物を仕留めるのは厳しそうだ。

「こっちのナイフを貸してあげるよ。結構切れ味が良いから気を付けてね」
「う、うん。ありがとう、シゲトお兄ちゃん」

 ナタとは別にある調理用のナイフをコレットちゃんに渡す。少なくともコレットちゃんが持っていたボロボロのナイフよりはいいはずだ。
 それにしても、リアルにボロボロのナイフというものを初めて見たよ。ゲームとかだったら、攻撃力は一とかのやつだろう。よく今までこんな武器で狩りをしていたものだ。

「よし、それじゃあ森へ入ろう」

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