33 / 189
第33話 大魔導士の情報
しおりを挟む「……これは、初めて見ますけれどなんなのでしょう?」
「どれも美しいですな、綺麗な美術品でしょうか」
「ええ、玄関に飾らせていただきましょう」
「いえ、実はこれケーキというお菓子なんです。甘くて美味しいですよ。いろんな種類があるのでどれかひとつ選んでください」
箱に入った色鮮やかなケーキ。ショートケーキにチョコレートケーキ、ミルフィーユにフルーツタルト。こっちの世界なら見た目がいいほうが喜ばれると思って、できる限り色鮮やかなケーキを選んできた。
護衛のアルバイト代という臨時収入も手に入ったことだし、ちょっと奮発してみた。ついでに家には俺と母さんの分もある。
「これは食べ物なんですか!?」
「ほう、これはなんとも美しい!」
「ええ、とても綺麗です! この前いただいたマシュマロというお菓子もとても甘くて美味しかったですよね」
銀紙とか透明なフィルムはこの世界の技術でできるか怪しかったから念のために外しておいた。いつも通りダルガさんとジーナさんが先に味を見てくれる。
「なんとも食べるのがもったいないですな。……こっ、これは!!」
「あっ、甘いです! この前のマシュマロよりももっと甘いだなんて!」
「うっ、じい、ジーナ、私も食べますね!……っつ、美味しい!!」
前回この街の食べ歩きをした時に思ったのだが、どうやらこの世界には甘味が少ないらしい。街の屋台にもなかったし、唯一あったのは屋敷の食事で出たパンとクッキーの中間くらいの食感で少し甘めなお菓子もどきだけであった。そりゃ、マシュマロくらいの甘さでもあれだけ驚かれるわけだよ。
「素晴らしいですな! これほど美しく美味なるものがあるとは。マサヨシ殿、これはどちらで手に入れられたのですか?」
「これはうちの故郷で作られている特別なお菓子で製法や入手方法はちょっと秘密でお願いします」
「このケーキというものは販売しないんでしょうか? 貴族や王族に売れること間違いなしだと思います!」
たぶんそうだろうな。これだけ綺麗で美味しい元の世界のケーキなら売れること間違いなしだろう。
「すみません、販売とかはする気はないんですよ。商売用とかで大量に仕入れることが難しくて」
毎日大量のケーキを仕入れるのも難しいだろうし、日本の円を入手するいい方法もまだ見つけてないから販売は無理だ。
「……そうですか、とても残念です」
サーラさんがとても残念そうな顔をする。
「また、来る時に持ってきますから、楽しみにしておいてください」
「本当ですか! 実は他の種類のものも食べてみたかったのです! お金ならお支払いしますのでぜひお願いします!」
確かにこの数だとひとり一種類しか食べられない。晩ご飯前だし、カロリーも高いから一人ひとつ分しか持ってきていなかった。
「そこまで大したものではないので大丈夫ですよ。ジーナさんにはお願い事もしてありましたしね。また次回も持ってくるので、残りの二つはちゃんとあの時一緒に護衛していた2人にあげてくださいね」
「あ……そうですね、わかりました」
余った二つのケーキも食べられると思っていたのだろう、サーラさんがまた残念そうな顔をする。また持ってくるから今回は我慢してください。
「それではマサヨシ様、こちらが以前にご依頼されておりました、私が知る限りの大魔導士様の情報です」
ドサッ
分厚っ!! A4くらいの用紙にびっしりと文字が書かれた紙の束が目の前に置かれた。
「えっと、こんなにあるんですね」
「はい、大魔導士様が今までになされてきた偉業、大魔導士様が行ったことのある国や場所、大魔導士様の子孫の情報、大魔導士様が使うことのできる魔法などできる限りまとめたつもりです!
本来であればこの5倍くらいの量になるのですが、私の力不足で時間の関係上ここまでまとめる他ありませんでした。もう少しお時間をいただけましたら残りの分もまとめさせていただきますが?」
「いえ、これで本当に十分です! また何かわからない部分があったら、改めて聞きますから大丈夫です!」
すでに200枚くらいあるんですけど! この5倍とかもらっても読みきれないから!
俺としては大魔導士がどんな魔法を多用していたのかと、子孫の情報くらい聞ければよかったのだが、思っていた何十倍も頑張ってくれたらしい。さすがにここまでしてくれたんだし、今度ジーナさんにお礼を持ってこよう。
「本当にありがとうございます。今度何かお礼をしますね」
「いえ、大魔導士様を尊敬する者として当然のことをしたまでです。マサヨシ様も大魔導士様の教えをぜひこの世に広めてくださいね。大魔導士様を信じる者は救われます」
宗教かよ! やっぱり大魔導士のことになるとジーナさんはちょっと怖い。
「え、ええ。本当に助かりました」
収納魔法でもらった紙の束を仕舞う。また家に戻った後でゆっくりと読むとしよう。
「それではこれでお暇しますね。いろいろとありがとうございました。またすぐに遊びにきます」
「もう帰られてしまうのですか? このあと一緒に晩ご飯でもいかがでしょうか? そのまま屋敷に泊まってくださっても全然構いませんよ」
「すみません、今日はもう帰らないといけないので。またすぐに遊びきますよ」
「そうですか……残念ですが承知しました。お待ちしておりますのでいつでも来てくださいね!」
「ええ、またケーキも持ってきますね! では!」
たった数百円のケーキであれだけ喜んでくれて何よりだ。サーラさんに会いに来る時はまた何か持ってこよう。
25
あなたにおすすめの小説
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました
御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。
でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ!
これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる