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第3話 魔王のスキル検証

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「ここまで来れば大丈夫か……うぷっ!」

 空を飛ぶなんて初めての経験だったため、だいぶ気持ちが悪くなってしまった。オッサンはこの年頃になると身体中にいろいろとガタがくるものなんだよ……

「……ふう、まったく俺が何をしたっていうんだか。魔王召喚だかなんだか知らないけど、もっと若いやつを呼び出せよな。……いや、若いからいいってわけじゃあないけどさ」

 馬鹿デカい魔王城っぽい雰囲気の城からだいぶ離れた場所に降りひとりになって、少しだけ冷静になってきた。どうやらここは広い草原のようで、道や人がいそうな集落もなかった。

「この状況で夢ってことはなさそうだ。さあて、これからどうするかな」

 異世界に魔王召喚とか安物の小説みたいな展開だが、どうやら夢ではないらしい。先ほどまでに死ぬかと思った恐怖や空を飛んだ実感がまだ残っている。

「とりあえず今の俺に何ができるかを確認しておかないとな。ステータスオープン!」

――――――――――――――――
西尾 仁にしお じん 37歳
【種族】人族
【職業】魔王
【スキル】
 ■四大元素魔法
 ■空間魔法
 ■障壁魔法
 ■思考加速
 ■魔王威圧
 ■状態異常耐性
 ■身体能力強化
    :
    :
――――――――――――――――

「種族が人族なのに職業が魔王ねえ……」

 あの魔王城にいたやつらはどう見ても人じゃなかったよなあ。そんでもってこのスキルの数はなんなんだよ……

 半透明のウインドウには30個近くのスキルが浮かび上がっている。さっきは冷静に確認する暇なんてなかったが、よく見るとヤバいスキルばかりだ。

 最初に骸骨が撃った麻痺させそうな雷の効果がなかったのは、たぶんこの状態異常耐性スキルのおかげか。そのあとの走馬灯みたいに狼の動きが遅く見えたのは思考加速スキル、ものすごい力で相手をぶん殴れたのは身体能力強化スキルのおかげといったところだろうな。

「ファイヤーボール!」

 異世界ものの定番である火魔法の名前を叫ぶと、俺の手のひらから小さな火の玉が現れ、少しずつ大きくなっていく。

「……って、ちょっと待て待て!?」
 
 発生したファイヤーボールはどんどんと巨大化していき、1m以上の巨大な玉になった。これ以上大きくなるなと念じたところで、巨大化が停止した。

「ただのファイヤーボールでこの大きさか。もっと大きくもできるし、明らかに大きいよな……」

 よくあるアニメや漫画で見かけるファイヤーボールはバスケットボールくらいの大きさのものが多い。このサイズのファイヤーボールは明らかに大きいよな。これも職業が魔王であることに関係しているのかもしれない。

 ちなみにオッサンは漫画やアニメも嗜むぞ。むしろオタク側だと言っても過言ではない。

「四大元素魔法ってことは火、水、風、土の魔法が使えるってことだな。……なるほど、確かにかなりの魔法を使えることができそうだ」

 巨大なファイヤーボールは消えるように意識するとすぐに消えた。これまでに使ってきたスキルや魔法の数々は、意識をすればその使い方が自然と分かるようだ。

 例えるなら、自転車に乗るような感覚と同じで、自然とその乗り方を身体が覚えているみたいな感覚だな。



「確かにこれは魔王の力だ……」

 一通りステータスに浮かび上がっているスキルを試してみたが、どのスキルや魔法もとても強力なものばかりだった。この世界の人がどれほどの力を持っているのかは知らないが、そこらへんにいる者に負けることはないだろう。

 というより、すでに魔王軍四天王とかいうやつを2人を倒しているしな。四天王とかいうくらいなら、結構な強さを持っていたはずだ。

「にしてもこれからどうするかなあ~」

 あいつらの言うことが本当なら、俺が元の世界に帰るためには魔鋼結晶とかいう物質が大量に必要になるらしい。それを集めるためには10年もの歳月が必要となるようだ。

「というか本当に俺は元の世界に帰りたいのか?」
 
 さっきは元の世界に帰らせろと言ったものの、元の世界に特別戻りたいという理由もない。両親はすでに他界しているし、結婚をしたり子供がいるわけでもない。

 友人はいるが、10年もの歳月をかけて元の世界に戻ってまで会いたいと聞かれれば微妙だし、仮に戻れたとしても10年もの歳月が過ぎた元の世界に戻ったところでといったかんじだ。もしかしたら召喚された日に戻るのかもしれないが、そんな保証もない。

「かと言って、異世界ものの定番の冒険者になるのもなあ……」

 よくある異世界ものではチート能力を得たら冒険者や勇者になることが多いが、この歳でそれを目指すのもどうかと思う。

 肉体はとんでもなく強くなっているのかもしれないが、身体が若返っているわけではないし……

「とりあえず人里でも探して今後のことを考えるか」

 この力でできることはある程度把握できた。元の世界に帰る方法を探すにしても、冒険者を目指すにしても、スローライフを目指すにしても、どこかの村か街で情報収集をするのは必須となる。

 それにこれ以上オッサンが草原のど真ん中で、寂しく独り言を話しているのは絵面的にもよろしくない。とりあえずこちらの世界の人に会いに行くとしよう。
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