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第49話 温泉まんじゅう

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「温泉まんじゅう?」

「茶色いお菓子ですか、初めて見ましたね」

「俺の故郷の温泉宿だと大抵は置いてあるお菓子だな。お店で売っていて店頭でそのまま食べられる宿もあるし、お土産として売っている温泉宿もあるんだ」

 温泉の土産と言えば、まず第一にこの温泉饅頭が上がるだろう。少なくとも有名な温泉地では間違いなく売っているお土産だ。

 しかし、温泉饅頭とはそもそもなんぞやと思う人も大勢いるだろう。饅頭を蒸し上げるのに温泉の蒸気を利用している? それとも温泉のお湯を饅頭の皮に加えている? 答えは温泉地で売られていたら、温泉の成分が一切入っていなくても温泉饅頭と呼べるのである。

 最近ではむしろ温泉の成分が一切ない温泉饅頭ばかりである。うちの温泉宿で売っていた温泉饅頭も別の地域の工場で作られていた者だったしな。実際のところ温泉の蒸気で蒸したりするのにはだいぶ時間もかかるから、手作業で作るのは本当に大変なのである。

 それに効能の強い温泉というものは人体にとって有害だったりするから、温泉饅頭に入れるもそこまで良くないのである。

 ストアでは温泉饅頭は購入することができなかったので、材料を購入して一から作ったのだ。

「生地の中に餡を包んで蒸した饅頭というお菓子だ。まだ少し温かいから、冷めないうちに食べたほうがおいしいよ」

 温泉饅頭、またの名を利休饅頭、黒糖饅頭という複数の呼び名があるが、すべて同じ饅頭である。作り方はとても簡単だ。お湯に黒糖を溶かし、重曹と薄力粉を混ぜて作った皮に餡子を入れて、蒸し器で10分ほど蒸し上げたらそれで完成なのである。

 皮が白い温泉饅頭と黒い温泉饅頭の2種類あるが、お湯に溶かす砂糖を白砂糖にするか黒砂糖にするかで皮の色が変わるのだ。

 簡単な分、量をたくさん作ってみたので、来週の晩ご飯のデザートに出したり、この温泉宿に泊まったお客さんへお土産として販売しようとしている。フィアナの収納魔法さえあれば、大量に作っても保存をしておくことができるからな。

「うわあっ! 外側はとっても柔らかくて、中に甘いものが入っていて本当においしいよ!」

「こちらの皮の方も少し甘いのですね。これほど甘くておいしいお菓子は初めて食べました」

 天界は知らないが、こちらの世界の砂糖はかなり高価な嗜好品として扱われているので、これだけ甘い餡子というものはさすがに初めてなのだろう。

「おお! こっちのほうは外側がカリッとしておって、あっちの饅頭とは違う味なのじゃな!」

 そして今回作ったのはこの温泉饅頭だけではない。この温泉饅頭を200度くらいの油にしばらく浸してあげると、外側がカリカリの食感になるのだ。最近では揚げ饅頭とか、かりんとう饅頭と言う名前で販売されているが、実際にはこの温泉饅頭を揚げたものなんだよね。

 手間ではあるが油で揚げると皮がカリカリとなって、普通の温泉饅頭とは一味違った味になる。これはこれでとてもおいしいのである。個人的にはどっちも同じくらい好きだな。というか甘いお菓子はだいたい好きなんだよね。

「こっちのは温泉饅頭を油に浸して揚げているんだよ。フィアナに聞きたいんだけれど、パーティーとかでこういうお菓子って食べたことある?」

 フィアナは元勇者で様々なパーティーに強制的に参加させられていたらしい。さすがに貴族が参加しているような豪華なパーティーならデザートなんかはありそうなものだが、さすがに餡子みたいなものはないと思うんだけどな。

「いや、こんな甘くておいしいお菓子は食べたことがないよ。こんな形や食感をしたお菓子は始めて見たし、パーティで出る甘いデザートだと、焼いたお菓子とか果物なんかが多いね」

「なるほど」

 少なくともフィアナは見たことがないか。それなら十分に商品としての需要はありそうだ。

「むむ、もうなくなってしまったのう……」

「僕もだよ……ひとり4個は少ないんじゃないかな?」

「いや、ラーメンも大盛にしたんだぞ。それに甘いものは太りやすいからこれくらいにしておいたほうがいいって」

 前回のカニしゃぶのように大皿に盛ると喧嘩を始めそうだから、今回はひとり4個ずつお皿に乗せて出している。

 晩ご飯のラーメンも多く食べると思って麺を2人前も茹でたのにまだ食うのか……しかも今回は揚げた温泉饅頭も2個あるからカロリーはそこそこ高い。お菓子はそこそこにしておかないとな。

 たくさん作ったから、残りはフィアナの収納魔法に保存しておいてもらおう。温めなおす必要もないし、収納魔法はとても便利である。

 さて、今のうちに明日の夕方ごろにやってくる神様を迎える準備をしておこう。この1週間の営業で、新しくあったほうがいい物にもある程度目星がついたし、追加でいくつか設備を設置しておくことにしよう。
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