【修正版】おばさん刑事、恋をする! 〜超年下イケメン双子と甘々生活〜

Aoiro-Hakka

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一日前その一「クビ?」

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「バカユリ! なにやってんだ、お前はっ!」
「ひゃい! すみません!」

 ——ここは桜南さくらみなみ署刑事第一課、上川かみかわ課長のデスク前。

 署に戻り、部屋に入った途端課長からお呼びがかかってそれから数分……課長の怒鳴り声が続いている。
 予想はしていたものの、こんなに怒られるのは久しぶりで相変わらずの迫力。そりゃあ、声もひっくり返るってもんよね。

「はあ……前から何度も言ってるよな?」

 課長は少し疲れた様子でため息をつくと、デスクの上にゆっくりと肘を突き、両手を組んで顎をのせる。

「単独で動くんじゃないと。周りをよく見ろと。……一般の皆さんの迷惑になるようなことを、するんじゃないと」
「……はい」
「なのにお前は……毎回俺の話の、いったいなにを聞いてるんだ?」
「……すみません」

 『はい』か『すみません』——こうなるともう、同じセリフの繰り返しだ。
 片方の手を頰づえに切り替え、もう片方の手をデスクに置くと指先でトントンとリズムを刻み始める課長。
 ……はあ、長引きそう。なんとか回避する方法はないかしらん。いつものお決まりの説教に、不謹慎にもそんなことを考える。
 無意識に天井をボーっと見上げれば、メガネの内側のレンズの汚れが目に入る。
 ……ありゃりゃ、さっき落としちゃったしな。キズは……なさそうかしらん? そういえば髪も直してない。まあ、お団子は崩れてないみたいだしいっか。

「ユリ……聞いてるのか?」
「は、はいっ! バッチリ聞いてます!」

 地をはうような低い声に反射的にそう叫ぶと、慌てて視線を戻す。その瞬間、鋭い眼光で下からにらんでいる課長と目が合う。
 バッチリって……なに? しかも聞いてないし。ああ、課長の眉間にくっきりと縦ジワが……

「ち、違うんですよ課長、あのですねぇ……」
「お前はどうしてそう……っ!」

 また雷がくる! そう身構えた瞬間、少し離れた席から関西のやんわり優しいイントネーションが聞こえてくる。

「課長、ええやないですかぁ? 結果、木花このはな刑事のおかげで被疑者の身柄をキッチリ確保できたわけやし」

 島田刑事(通称——シマさんだったりシマやんだったり)から、タイミングよくフォローが入る。
 シマさん! 感謝です! くぅっ。

「島田、コイツを甘やかすんじゃない。お前の到着が少しでも遅れていたら、コイツは刺されていたかもしれないんだぞ?」
「……あー、まあ……そう、やねえ」

 シマさんはそれだけ言うと、なんともアッサリ引き下がっていく。えぇぇ、そんなぁ……
 似た名前の島川刑事(通称——カワさんだったりシマちゃんだったり)が、向かいの席からからかい口調で『ほら、だから言ったろ』と言っているのが聞こえる。ちなみにふたりはシマシマコンビと呼ばれている。
 ああ、せっかくのフォローだったのに……
 でも——……課長の正論に言い訳はできないなあ。

 ——平日の真っ昼間に起こったコンビニ強盗未遂事件。
 客を装った若い男が店員に包丁を突き付け金を要求。店員はバックヤードに逃げたため、男はなにも取らずに逃走した。
 現場にたまたま居合わせた私がすぐに男を追跡、最終的には身柄の確保となったのだが……
 応援を待たずにひとりで追跡——これはまあ仕方がないとして、問題はこの後。
 途中、男に振り切られそうになった私は先回りをして塀からジャンプ! 勇気りんりん男に飛びかかった。しかし……悲しいかな、四十七歳。
 アラフィフってやつの私は、この時点ですっかり体力を使い果たしていたことに気付いていなかった。しかも、身長一四八センチのこの体つき……
 男の抵抗にあっけなく敗れると逆に組み伏せられ、持っていた包丁で危うく刺されそうになったのだ。そこを間一髪、駆け付けたシマさんに辛くも助けられたというわけで……そして、問題はほかにも。
 追跡中、やむなく侵入させてもらった民家の庭——
 最初のお宅で水まきをしていたおじいさんにぶつかると、その衝撃でホースの水がかかってしまったおじいさんはぬれねずみのお姿に……
 そしてあるお宅では寝ていた猫の尻尾を踏んづけ、驚いた猫が暴れて植木鉢を破壊するなど周りを巻き込む大騒ぎに……
 被疑者追跡のためとはいえ、一般の方々に迷惑をおかけしたことについては本当に申し訳ありませんでした!

「……おい、聞いてるのか?」
「はいぃっ! 聞、い、て……ます?」

 再び地をはう声……ああ、またもや聞いていなかった。これはやってしまったな。

「……正直に言え。聞いてなかったろ?」
「へへ、はい」
「……へへ、じゃなーい!」
「はいっ! 申し訳ありません!」

 開き直ったところで結果は同じ。背筋をピンっとしたまま静止する。
 長い沈黙の後、課長は私のほうを見ながら何度目かの大きなため息をつくと、デスクから私を追いやるように手でシッシとジェスチャーをした。
 
「調書作っとけよ。それから……済んだら声をかけろ。いいな」

 背中越しにそう言われると、やっと私も小さく息を吐いた。


   * * * * * *



「お前、明日から二日間有休を取れ」

 調書を作り終え報告にいくと、課長は開口一番にそう言った。

「へっ? ……な、なんでですか? いきなり……」
「なんでもだ。二日間有休で土日もそのまま休め。いいな」

 デスク上のパソコンに目を向けたまま、淡々と話すその様子にイヤな予感しかしない。
 ……いやいや、おかしいでしょ。えぇ……私クビ?

「ちょっと待ってください! ちゃんと説明してくださいよ! なんでそうなるんですか? 私……クビってことですか⁉︎」

 デスクに手をつき思わずそう詰め寄ると、その勢いでメガネがずれる。
 ヘマをやらかしたばかりだもの。とりあえず休ませて、その後クビにされるのかもしれない。

「……はぁ、んなわけあるか。なに言ってんだ、お前は」

 軽いため息とともに視線がこちらに向き、いつもと変わらぬその口調に少し安心はするものの……でも、じゃあどうしていきなり休めなんて?
 メガネを直して見てみれば、課長は腕を組み、口をへの字に曲げた難しい表情に変わっている。

「……なにか、あったんですか?」

 気付けば周りのみんなも少し距離を置き、こちらのやりとりを見守っているような空気感になっている。
 すると、沈黙していた課長が重い口を開く。

「成田管理官」
「⁉︎」

 ——突然出されたその名前に、一瞬で体がこわばる。

「明日からの二日間、視察に来ることが決まった」
「……」

 言葉が、なにも出てこない。……なんで? 彼がどうして……? 
 頭の中では同じ疑問がグルグルしている。冷静にならなきゃ……そう思っても、今度は心臓がドクンっと鳴り始める。

「ユリ? 大丈夫か?」

 課長の問いかけにハッとわれに返るとコクンとうなずく。小さく息を吸って呼吸を整え『大丈夫、落ち着け』と自分に言い聞かせる。

「視察って……一体なんなんですか? そんなの今までなかったですよね?」
「現場の把握——より良い職場環境改善の目的で、何人かの管理官が同様にいくつかの署に行くらしい……表向きはな」
「なにか、裏があるってことですか?」

 明らかに含みのある言い方にすぐに切り返すと、課長の口からまた意外な名前が飛び出す。

「内藤部長の指示らしい」

 ——内藤部長。
 捜査一課での手腕を買われ、ノンキャリアでありながら異例の本庁部長職に就いた人物——実際にお会いしたことはなく、いかつい顔の大男としか知らないけれど……
 その内藤部長の指示で春……いや——成田管理官が、ここに……来る?
 いろいろ急な展開に頭が回らない。いつの間にか目の前には課長が立っていた。

「……今朝、本決まりになってな。署長と副署長が、バタバタしてる」

 黙ったままの私を気遣ってか、申し訳なさそうに課長は言った。

「明日になればセイさんも有休明けで戻ってくる。今日の事件も、犯行を素直に認めているから問題ないだろう。後のことはここに居る連中でなんとか手が回る。だからお前はなにも考えずに……ゆっくり休むんだ、いいな」
「……は、い」

 そう返事はしたものの、成田管理官——そして内藤部長の名前まで出てきて考えがまとまるわけでも、なにかを考えたいわけでもなく……
 ただボンヤリと立っている私の頭に、課長の手がポンっとのせられる。
 顔を上げれば、怒鳴り声を上げていたときとはまるで別人のような穏やかなほほ笑みがそこにある。

「それからユリ……お前をクビにするわけないだろう? いいかげん、もっと自分に自信を持て。……まあなんだ、トラブルを呼び込む体質は正直困りモノだが……お前を頼りにしてるんだからな」

 その笑顔と優しい言葉に安堵し思わず泣きそうになる。

「課長ぉ……」
「……大丈夫だ。なにも心配するな」

 課長はそう言うと、置いた手で私の前髪をクシャっとした。

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