【修正版】おばさん刑事、恋をする! 〜超年下イケメン双子と甘々生活〜

Aoiro-Hakka

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一日目その二「イケメン」

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 駅前の繁華街を少し裏手に入ったところにその本屋はある。
 大手ではないが本以外に文房具、それにかわいらしい雑貨まで幅広く取りそろえてあるので、気に入って時々利用させてもらっている。
 本屋は割と好き。もしかしたら匂いが好きなのかもしれない。『本屋に行くとトイレに行きたくなる』——これはけっこう有名な話だ。紙の匂い成分が関係しているとかどうとか。
 私はその経験はないけれど、なんだか落ち着くので好きなのだ。
 さて、本屋に着いて中に入ろうとしたその瞬間、視界の隅に数人の男性の姿が映る。少し離れた路地裏でなにか大きな声で喋っているようだけど……もしやもめ事? 
 ……であれば素通りはできない。クルリと向きを変えると、その路地裏へと小走りに急ぐ。
 近づいてみるとその男たちは辺りを縄張りとしている銀椿ぎんつばき組の若い連中で、その中でも一番背が高く、金髪をツンツン逆立てた彼の顔は何度か見かけたことがある。

「アナタたち、なにしてるの?」

 声をかけるとその金髪の彼が「あぁんっ?」と振り向き、私の顔を大きくのぞき込む。上から下までジロジロ見た後、突然顔色を変えると慌てた様子でこう言った。

「さ、桜南署のおばさん刑事デカ! ……いえ、その、コメハナ刑事けいじ! お、おつかれさまです!」
「私の名前、コノハナ、ね」
「はいっ、すみません!」

 直立不動で答える彼に少し苦笑いするも、元気に挨拶をしてくれるのはうれしい。前半部分は気になるけど……

「こ、コノハナ刑事! 今日はスーツではありませんね。お休み……ですか?」

 最初の不思議そうな表情は、私の服装がいつもと違うからすぐにはわからなかったらしい。
 ——実は私、事件に関わった人や管轄周辺の人たちからは『おばさん刑事デカ』などと呼ばれている。
 まあ、一般的には四十七歳というおばさん的年齢であること、それプラス……
 身長一四八センチ、少し大きめの赤色ハーフリムのメガネ、後ろでまとめたお団子ヘア、そしていつもの服装は白のインナーに黒のパンツスーツ。
 お決まりのこの姿が印象的らしく、いつからか行く先々で『おばさん刑事デカが来た……』などと、陰でヒソヒソ言われるようになってしまったのだ。
 ……でもぉ! 昔からちょっとは若く見られるしぃ! 童顔だって言われるしぃ! よく行くお弁当屋さんでは『お姉さん、毎度!』って言ってくれるしぃ……!
 はあ……むなしいわね。取りあえず私としては、愛称としてそう呼ばれていると思いたいのだ! くぅっ。

「そう、休みなの。それでそこの本屋に来たんだけど……なにかあった? もめてるみたいね。そちらにいる人は、一般の人じゃあないの?」

 明らかにガラの悪い連中に囲まれるようにして、奥に若者らしき男性がひとり立っている。

「まさかケガなんて、させてないわよね?」

 わざとキツい言い方で彼に尋ねる。

「ち、違います! ああ、いや……ちょっとききたいことがあって、話をしていただけなんです! 本当です! ……な、なあ、お前ら?」

 金髪の彼が慌てて仲間に同意を求めると、一番端にいた小柄で気の弱そうな男が「あの……」と話し出す。

「自分の好きな女が、この男に入れ込んで……それで……貢いだ挙げ句にだまされて……捨てられたって聞いたんで……その話を……していたんです」

 ……うーん、色恋、か。
 一方は付き合っているつもり、もう一方はそのつもりはない。言葉ひとつ、態度ひとつでそれぞれ受け止め方が違うし、実際にだましだまされの場合もあるから……難しいわね。
 まあ、それが痴情のもつれとなって事件に発展していったりもするんだけど……
 とにかく、双方の話を聞いてみないとわからない。

「おにいさん、この子たちこう言ってるけど、どうなの?」

 そう言いながら彼らの間を割って入りのぞき込むと……
 ——そこにはまあ、なんとも見目麗しいイケメン男性が立っていた。
 年齢は二十代後半。身長一七五センチ以上、細身な体つきに長い手足。サラリとした黒髪で、長めの前髪をサイドに軽く流している。そして、なによりその整った顔立ちが目を引く。
 切れ長の目、通った鼻筋、涼しげな口元——スッキリとした顔立ちではあるけれど、それぞれのパーツもちゃんとした存在感があり、なんかモデルさんとかそんな感じに見える。
 服装も白のワイシャツ、黒と白の絶妙な配分のスカジャンに、下はグレー系のワイドパンツ。
 おぉ……若い子の服装はよくわからないけれど、なんだか秋先取りって感じでオシャレだわね。
 すると、そのイケメンな彼がなにやらキョトンとした表情でこちらを見ていると思ったら、いきなり「ぶはっ!」と吹き出す。
 えぇっ⁉︎ 質問しただけだけど……なにか笑うところあったかしら?

「アナタ……あの、どうしたの?」
「くっくっ……アンタ刑事なの⁉︎ そんなんで? うそだろっ⁉︎ マジで? 信じらんねーっ!」
「……⁉︎」

 彼は拳にした右手を口元に当て、笑いをこらえながら次々と失礼なことを言っていく。
 ぐ、ぐぬぅ……信じらんないのはアナタだよ! 人が助けに入ったっていうのに、なんなのこの態度? 
 周りを見れば金髪の彼を始め、ほかの子たちもなんだか笑いをこらえているような微妙な雰囲気。『そうそう、そうだよな』……そんな言葉が聞こえてきそうなんだけど?

「あ、アナタねえ、人が真面目に話をしているのに……」
「くっくくっ」

 笑い続けるその姿に、まずは失礼なイケメンへの説教を早々に諦めると「コホン」と軽くせき払い。続いて口角を上げニコっと笑い、周りでひそかにニヤついている子たちの顔をゆっく~りと見回す。
 そして最後にちょっとだけ、キツい目線で『ギっ!』とにらみ付ける。するとみんなの表情は一変、すぐさま一斉にシャキっとしたのだった。……フン、だ。
 さて、静かになったところで再びイケメンの彼に同じ質問をする。

「いーい? もう一度きくわよ? この子たちがあなたが女性をだましたって言ってるけど、どうなの? 心当たりはあるの?」

 イケメンの彼は私の態度からなにかを察したのか、スッと笑うのをやめてこう言った。

「だからねーよ、そんなもん。さっきからコイツらに何度も言ってるよ」

 んんん……ずいぶんとけんか腰。きっと同じようなやりとりをしてたのね。さて、どうしたものかしら? 
 するとすぐ横で、先ほどの小柄な男がいきなり声高に叫び出す。

「ふざけんなテメー! 証拠は挙がってんだぞ! クラブ愛華のリリカちゃんだ! ハタチのっ! Fカップのっ! プルンップルンのボヨンッボヨンだぞっ! 言い寄ってきたのをいいことにー、金貢がせてー、ヤルだけヤッてー、さっさと捨てただろうがっ! それを忘れたってのかーっ!」

 F、カップ……?
 プルンップルンの、ボヨンッボヨン……?
 ○☆◆※□……

「……はっ‼︎」

 いかんいかん! 自分では想像できないランクのアルファベットに、一瞬思考が止まるもすぐに自分を取り戻す。
 しかしその間にも小柄な男は、最初の気の弱そうな感じとは打って変わってひどく興奮し、今にもイケメンの彼に飛びかかりそうな怖い形相をしている。

「あー……キミキミ? とりあえず落ち着いて話を……ね?」

 すると、なだめる間もなく男の腕がイケメン彼の胸元へと伸びていく。

「知らねーとは言わせねーぞ! このヤローがっ」
「ちょ! ちょっと待って、あーもう……ほら! あなたたちも止めて!」

 金髪の彼にそう言うと、慌てて数人が小柄な男を押さえにかかる……が、その瞬間。
 イケメンの彼が追い打ちをかけるひと言をクールに言い放つ。

「だいたい……言い寄ってくるオンナなんて、多すぎていちいち覚えてねーよ」

 ——……その場が一瞬凍り付いた気がした。
 『モテるイケメンの一番言っちゃいけないセリフ』……三位以内に入りそうなセリフ、言っちゃったんだけど?
 すると小柄な男だけでなく、金髪の彼も含めたここにいる全員が「ふざけんなテメー!」などとおのおのが怒りだし、どうにも収まらない雰囲気になってきた。
 うぉいっ、イケメンのアナタっ! なに火に油を注いでくれちゃってんの⁉︎ 
 当の本人はどこ吹く風。その態度がさらにみんなを熱くさせている。
 ヤバい! ヤバいわよー、これは。とにかくみんなを落ち着かせなくちゃ!

「ちょっと、アナタたち、落ち着いてっ! ねっ、みんな、いったん落ち着こうっ!」

 イケメンの彼の前に立ち、なんとかみんなを止めようと必死に声を出す。しかしすでに興奮状態の……特に血の気の多いこやつらに私の声は届かない。
 「おんどりゃあ!」「スカしてんじゃねーぞ、ごらあっ!」など頭の上で飛び交う怒号たち。
 ねえ、みんな! 私のこと、見えてる? 見えてないわよね⁉︎
 体格の小さい私が果たしてかなうわけもなく、もみくちゃにされ、押しつぶされそうになったその瞬間——
 突然体がフワッと浮いたかと思うと、イケメンの彼の顔がすぐ近くにあった。

「チッ、しっかりつかまってろよ」

 耳元でささやかれた甘い声にドキッとしながらも、言われたとおりに「はい……」と彼の首にギュッとしがみ付く。
 わぁ……まつげながーい、キレイ……
 近くで見た彼の顔は、遠目で見ていたよりもはるかに上だった。
 そんな不謹慎なことを私が思っているなどとはつゆ知らず、彼は私を抱きかかえたまま大通りに向かって素早く走り出す。
 彼のスカジャンや髪の毛をつかもうとする手をかわしながら走る姿は、さながらラグビーボールを抱えた日本代表選手のよう……かどうかはわからないけれど、とにかくなんとかその場を脱し、飛び交っていた怒号もいつの間にか遠ざかっていったのだった。

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