神の契りは解けない

碧碧

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 追及の手を緩めない母と陸人をなんとか宥め、ようやく食事を終える。食後の片付けを手伝い、風呂も済ませた頃にはすっかり夜も更けていた。

 大和は自分の部屋へと足を向ける。実家に帰るのは久しぶりだったが、随分と使っていないはずの部屋は清潔に保たれていた。母がたまに掃除をしてくれていたのだと思うと、また胸がきゅうっと締め付けられた。

 だが、そんな感謝の気持ちは次の瞬間、霧散する。

 部屋の中央に敷かれた二組の布団。それが、見事にぴったりとくっついていたのだ。

「母さん……っ!」

 まるで「夜伽はこちらでどうぞ」と言わんばかりの布団の配置に、大和はぎゅっと拳を握りしめ、恥ずかしさにぷるぷると震える。

 そんな彼の葛藤など知らないと言わんばかりに、霧生は何の躊躇もなく布団へと潜り込んでいた。昔の大和の寸足らずの服を着て、すでにくつろいだ様子だ。

「何を突っ立っている。早く入れ」

 掛布団の隙間から覗く金色の瞳が、大和を真っ直ぐ見つめている。

「お前なぁ……」

 ため息混じりにぼやきつつも、大和は仕方なく布団に入る。実家の布団はふかふかとしていて、少しお日様の匂いがした。まるで霧生に包まれているようで、どうしようもなく、落ち着く。そして、すぐ隣には霧生がいる。じんわりと伝わってくるその体温に、ふとアパートで一緒に暮らしていたことを思い出す。

「こうやって一緒に寝てたの、すげぇ前みたいに感じるな」

 何気なく呟くと、霧生がわずかに目を細めた。

「色々と、一遍に起こったからな。無理もない」
「ほんとに、嘘みたいなことがいっぱいあったな。お前が転がり込んできて、神だとか狼だとか信じられないことばっかり言って、なぜか一緒に暮らして、倒れて……消えるとか、人間になるとか……っ」

 思い出して、目の奥が熱くなる。またこうして一緒にいられるのが、奇跡のように感じた。

「泣くな」
「泣いて、ない……っ」

 霧生がそっと大和を抱きしめ、指で目元を拭う。

「こうしてまた大和に触れられて、嬉しい。俺を救ってくれてありがとう」
「俺は、別にっ……むしろ、今まで、俺を守ってくれてたのはお前で……」

 そのせいで霧生は力を使いすぎて倒れた。そして今は人間となって神の力を失ってしまった。

「俺は大和と居られるだけでいい。これ以上ない幸せだ」

 霧生の言葉が全身に染み込み、じんわりと身体を温める。

「子どもの大和を神社で初めて見た時、こんなに美しい人間がいるのかと目を疑った」
「……」
「見目も心も美しく、芯の強さがあって、一目で『欲しい』と思った。そしてお前も俺を求めてくれた。その時からずっと、俺には大和だけだ」
「……っ」

 熱烈だった。霧生の真っ直ぐな視線が大和を射抜く。

「お、れは……」

 言わなければ。自分の気持ちを。きちんと伝えなければ。

「俺、は、お前のこと、覚えてなかったけど、なんでか追い出せなくて。ずっとなんか、懐かしくて。で、どんどんお前といるのが心地よくなって」

 顔が熱い。見られたくなくて掛布団を引き上げようとするが、その手を掴まれる。そのうえ顎を指で救い上げられて、至近距離で見つめられた。

「や、め……」
「続けろ」

 大和の瞳に、また涙が滲む。

「……お前が消えるかもって、思ったら、頭真っ白に、なって……っ。霧生に生きててほしくて、霧生を失いたく、なかった……っ」
「ん」
「だから……」

一瞬言い淀んだ後、ぐっと唇を噛み締める。

「昔のこと、思い出す前から、お前のこと、好きになってた……!思い出したら、俺のこと、ずっと守ってくれてたってわかって、もっと、好きになった……っ」
「大和……」
「約束どおり、俺と、ずっと一緒にいろ!」
「ああ。大和は俺のたった一人の愛する伴侶だ。絶対に離れない」
「霧生……!」

 力いっぱい抱きしめ合うと、霧生の鼓動が直接響いてくる。生きている。霧生に包まれている。大和が顔を上げ、自然と二人の唇が重なった。

「ん……」
「大和……っ」

 ここは実家なのに。一階には両親も弟もいるのに。わかっていても止められなかった。忙しくキスの合間に服を脱ぐ。すぐに首筋に顔を埋め、匂いを嗅がれる。この仕草も、懐かしくて涙が出そうだった。

「は、は、大和……いい匂い……」
「ン……っ、人間になっても、わかんのか、よっ」
「わかる。発情している、甘い匂いがする」
「ん、あ……っ」

 ぺろ、と耳の裏を舐められる。ぞくりと背筋が粟立ち、たまらず全身を仰け反らせた。

「や゙、ぁっ!」
「可愛い……大和、可愛い」
「あ゙、ん゙ん゙!声、やば、い……ッ、聞こえるッ」
「我慢しろ」
「ん゙ん゙っ、無理、ぃ」

 力無く首を横に振ると、霧生がキスで唇を塞いでくれる。それでも、胸の突起に指を這わされると、唇の隙間からくぐもった声が漏れた。

「ん゙、ぅっ!ん゙ん゙……っ」
「はぁ、大和、大和」
「きりゅ、ぅっ」

 今までにないくらい身体が昂っている。軽く胸の先を指の腹で擦られているだけで、ガクガクと腰が戦慄いた。大和は霧生に縋るように抱きつき、必死に彼の唇を吸う。愛おしさで身体が弾けてしまいそうだった。

「大和、愛している」

 耳元で囁かれた言葉が、必死に耐えていた大和の背中を押す。コップの水があふれるように、じんわり甘く、ゆっくりと絶頂へと押し上げられた。

「んぁッ、やばい、やば、いッ、ぅ゙ーーー……っ!」

 大和が唇を噛み締めながら、ぶるり、と大きく身体を震わせる。そそり立った陰茎から、どろりと白濁が一筋漏れたのを見て、霧生が息を呑んだ。

「ぁ゙、俺、からだ、へんに、なって、る……っ」
「大和ッ」

 胸への軽い戯れで甘く達した大和に、霧生の理性が崩れた。上から覆い被さり、鎖骨を甘噛みする。そのまま身体中に噛みつき、キスをし、大量の印をつけていった。

「フー……フー……」
「ぁ゙、きりゅ、そこ、やばい、っ」

 少しでも反応したところは霧生にしつこく舐めしゃぶられて、大和は身を捩って快感に抗っていた。大きく脚を広げられ、太ももの付け根や陰嚢の裏まで、顔を埋めて匂いを嗅がれる。恥ずかしくて身体が燃え上がりそうだった。

「そ、なとこ、いや、だぁ……!」
「大和……すごく、いい匂い……」

 温かい舌の感触が鼠蹊部を這い、そのまま陰嚢を通って、しとどに濡れた陰茎に辿り着く。ぬめった口内に迎えられ、大和の腰が大きく反った。まるで離れてほしくないというように、ぎゅっと太ももが閉じる。

「んあっ!そ、れ、だめ、声、が……っ」
「我慢しろ」
「ン゙ッ、ああっ」

 必死に両手で口を押さえ、声を押し殺す。それでも、唇が絞りながら上下し、亀頭を舌全体で覆われると、大和の口から堪えられない嬌声があがった。

 こんな気持ちいいのは知らなかった。甘く達した後で敏感になりすぎている。じゅ、じゅ、と吸われると、脳みそまで溶けていく感じがした。

「きりゅ、も、やばい、やばいからっ」

 すぐに熱が迫り上がってきたのを感じて、口を離させようと腰を捩る。しかし霧生はしっかりと抱え直し、一層深くまで飲み込んできた。

「バカ……っ、も、出そう、なんだってっ!」
「ん、もう少し」
「や、や、無理無理無理ッ!」

 舌のざらざらとしたところで、裏筋を小刻みに扱かれる。かと思えば、甘く吸い上げながら舌先で鈴口を抉られる。その間も唇はしっかりと上下していて、大和の腰も釣られるようにカクカクと動いてしまっていた。

「ぁ゙……やば、い……ッ、も、我慢できな、いッ!来てる、上がってきてる、から!離して、霧生……っ」

 陰嚢がぎゅうっと上がる。押し出されるように、渦巻いていた熱が一点を目指して昇ってくる。尿道口がぽっかりと開いた。それを塞ぐように霧生が舌を強く押し付け、くちゅくちゅと穿る。

 大和はたまらず大きく身体を仰け反らせ、亀頭を喉奥に突き込んだ。

「ぁ゙……ッ!ゔ、ぐ……ッ!ん゙ーーーッ!」

 勢いよく精液が飛び出し、霧生に飲み込まれていく。嚥下されるたびに吐精させられ、身体が何度も痙攣と硬直を繰り返した。

「ぁ゙、っふ、っふ、はああっ」

 ぬぽ、とゆっくり喉奥から抜かれ、そのまま残滓も吸い上げられる。蕩けて脱力しきっている大和に、霧生がそっとキスをした。射精後の気怠さの中でそれに応えながら、大和は霧生の下肢に手を伸ばす。そこは見事に天を突いて勃ち上がり、先端から滲んだ蜜で下着の色が変わっていた。少し滑る先を指先で擦りながら、大和はごくりと唾を飲み込む。

(俺、男なのに、これ、欲しくなってる……。)

 後孔が勝手にきゅんきゅんと収縮していた。大和は自分の浅ましさに顔を赤く染め、横を向く。しかし霧生に顎を掬われ無理矢理視線を合わせられた。

「大和、好き。大和と番いたい」
「番うって……?」
「交尾して、伴侶になることだ」
「う、ぇ……っ?!」

 自分も同じことを求めていたのに、こうもはっきりと言葉にされると居た堪れない。それでも身体は正直で、陰茎からあふれた先走りがぽたりと糸を引いた。

「ぁ、えと、でも、霧生、ここじゃ……」

 うろうろと目を泳がせながら大和が言い淀むと、霧生の剛直が一回り太くなる。

「大和、俺と交尾するの嫌じゃないんだな?」
「えぇ……っ?!」
「大和、脚開け」
「うわ、バカ!」

 思い切り両脚を広げられ、全てを晒け出す格好にされた。必死に手で股関を隠しつつ、大和は慌てて首を振る。

「霧生、無理!」
「なぜ拒む!こんなに想いあっているのに、大和は番いたくないのか?!」
「うわ、違う違う!俺だって、お前と、その……番いたい、け、ど……」

 自分がいかに恥ずかしいことを言っているのか実感が湧いてきて、大和の声がどんどん小さくなっていく。霧生は拒まれた怒りから眉間に深くしわを寄せていたが、首まで真っ赤にしている大和を見て、少しだけ表情を緩ませた。

「クッソ、ヤりてぇのがお前ばっかりだと思うなよ!でもここ実家だし、なんも準備してねぇし、だから無理ってだけだから!」
「本当か……?」
「なんで嘘吐かなきゃなんねぇんだ!あんなこっ恥ずかしい告白までしたんだぞ!」

 とうとう無理やり布団を被ってしまった大和に、霧生がその布団ごと抱きしめる。

「大和は俺のことが好きか?」
「……当たり前だ」
「ちゃんと言ってくれ」
「す、好きに決まってんだろ!じゃなきゃこんなの、許してない……」

 大和の広げられた両脚の間には、また上を向いて蜜を滴らせている陰茎があった。霧生が太ももをさすると、太ももも陰茎もぴくりと震える。すぐにでも奥まで挿入して揺さぶって種を付けたい。そんな本能が湧き上がってくるのに抗いながら、霧生は大和の内腿に何度も吸い付いた。

「ひゃっ」
「フー……フー……」
「ああもう!ちょっと待て!」

 大和が勢いよく起き上がり、そのまま四つん這いの姿勢になる。ぎゅっと太ももを閉じ、霧生に顔を向けて睨みつけた。

「今は入れらんねぇけど、ここ、挟んでやる、から……っ」

 情けなさと恥ずかしさでどうにかなりそうだ。自分から尻を向けて、まるでねだるみたいに。

 霧生は無言のまま大和に覆い被さった。後ろから太ももの隙間に陰茎を差し込む。適度に筋肉がついたそこは、熱い杭に驚いたのかぶるりと震えた。

 大和の陰茎の下に霧生のものがぴったりとくっつく。それは激しく脈を打ち、蜜を滴らせていた。霧生は低く呻きながら背中にたくさんのキスをしてくる。

「ぅ……霧生……っ」
「やま、と……動かすぞ」
「はああっ」

 ずるり、と引き抜かれたかと思うと、すぐに激しい抽送が始まった。肉のぶつかる音が部屋に響く。会陰から亀頭まで、霧生のもので擦り上げられている。見れば、大和の太ももの間から霧生の亀頭が飛び出したり引っ込んだりしていた。二人の蜜が絡んで、ねちゃねちゃと白く泡立った糸が引いている。

(こんなの、もう、セックスじゃねぇか……っ!)

「うぁッ!ん゙ん゙、ん゙、ぐッ」
「はあっ、大和も、気持ちいいか?」
「ん゙、ん゙、……もち、い……っ」

 霧生のもので裏筋を擦られ、たまらず太ももに力が入る。みちみちと締まったそこをこじ開けながら陰嚢を突き上げられると、つま先まで痺れるほどの快感がよぎった。霧生も堪えられないというように、喉の奥から低い呻き声を絞り出している。その気持ち良さげな声が、大和の思考を霧がかかったようにぼやけさせていく。

「霧生、ッ、好きだ、ぁ」
「ゔ……ッ!ぐぅぅぅ!」
「ぁ゙、ん゙、気持ちい……っ、きりゅ、霧生、好き、大好きッ」
「はああッ!大和、まずい、もう……っ」

 大和が、涙と涎でぐちゃぐちゃになった顔で霧生に愛を囁く。その目はとろんと蕩け、愛慕と悦楽に溺れているのが見てとれた。霧生のピストンが一気に加速する。

 大和がそっと下肢に手を伸ばし、パンパンに膨れ上がった霧生の亀頭を優しく手のひらで包んだ。そのままくちゅり、くちゅりと捏ね始める。

「ゔ、ぉ゙……ッ」
「きりゅ、の、すご……どろどろ……」
「~~~~ッあ゙!もう出る、出、る……っ」

 霧生は大きく腰を振って、太ももをこじ開け大和の手の中に陰茎を押し込む。一番奥まで突き上げると、まるで褒めるように亀頭を揉まれ、下肢がびくびくと痙攣した。腰が止まらない。大和が大きく震え、太ももに力が入る。霧生は目の眩むような快感に、天を見上げ喉元を晒した。

「お゙……ッ、ゔ、ゔ、ゔッ」
「はあああッ!ん゙ん゙っ、ん゙、ぁ……っ」

 大和の手の中に霧生の大量の精液が迸る。大和自身も達したらしく、陰嚢が何度もしゃくりあげるように押し上がっていた。

 最後まで出させようと、大和の手が射精直後の陰茎を絞り上げる。ぶるぶると腰を痙攣させながら、霧生は耐えられず大和のうなじを噛んだ。

「痛、ぁ゙っ」
「ぐ、ゔううう!ぅ゙、あ゙!」
「すご、まだちょっと出てる……」

 大和の人差し指が鈴口を割り、こちょこちょと擽るようにそこを抉る。霧生は背後からきつく大和に抱きつきながら、腰を激しく振り立てた。

「やま、と……ッ!ゔ、ゔ!ゔーーーッ」

 立て続けに二度目の射精が始まった。大和はその光景を熱に浮かされたような目で見つめながら、射精中のそこを指の輪っかで上下に扱いてやる。カリ首を重点的に引っ掛けてやると射精の勢いが増すのがわかった。獣のような声をあげながら、何度も精液を噴き上げる霧生に、大和の後孔がきゅんきゅんと疼いた。

 最後の一滴まで搾り出し大和の手が離れると、霧生はどさりと布団に倒れ込んだ。やや虚な目でふうふうと息を吐いている。

 大和もティッシュで汚れを拭き取り、霧生に並んで布団に横になった。冷静になると、とんでもなく恥ずかしいことをした自覚が湧いてくる。じっとしていられず、寝返りを打って霧生に背を向けた。

「大和……」
「ファッ!」

 すぐに背中が暖かくなり、抱きしめられたのだと気づく。そのままうなじの匂いを嗅がれ、ぺろりと舐め上げられた。

「こ、ら……!」
「大和、足りない。もっとしたい」
「これ以上はダメだっつの!バカ!」
「……」

 霧生は拗ねたように甘噛みをしてくる。霧生に触れられたところが痺れ、ぞくぞくとしたものが背筋を通るのがわかった。このままでは本当にまた始まってしまうかもしれない。

「……続きは……ウチ帰ってから、な……」
「……!」

 もごもごと消え入りそうな声で呟いて掛け布団を頭まで被った。顔から火が出るとはこういう感覚を言うのだろう。耳も首も、手先までじんじんと熱い。

「帰ったらすぐ交尾する」
「~~~っ!その、交尾ってのヤメロ!なんか生々しい!」
「間違ってない」
「そう、だけど……っ」

 甘えるようにぐりぐりと頭を擦り付けられて、髪の毛が擽ったい。どうしようもなく恥ずかしいのに、この暖かさから離れたくなかった。前に回された霧生の手に自分の手をそっと重ねる。

「ほらもう寝るぞ」
「ん……」
「おやすみ」
「おやすみ……大和……」

 散々体力を使った後で、少し高い霧生の体温に包まれ、大和はすぐにうとうとと眠りに落ちた。久しぶりに感じるこの安心感。なんだかいい夢が見られそうな気がした。

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