作品の裏話や日記

巴雪緒

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ただの日記(あと思ったこと)

卒業旅行

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2.3月頃『卒業旅行』としてどこかへ行くというのは、よく聞く話だと思う。でも大半は友人と最後の思い出作りや記念ということが多いだろう。

そんな自分も今年の3月で大学を卒業することもあって、最後にと2泊3日で旅にでることにした。
昼行便で3時間、揺られながら旅は始まった。
サブスクリプションに登録しているお気に入りの音楽と、窓ガラス越しに見える風景が相棒であった。たった3時間でも、自分にとっては無くてはならないものだった。

初日に着いた先では電車に乗り、ファーストフード店に駆け込んだ。注文の品は好きな作品に登場する好きなキャラクターの好物のものだ。自分の柄ではない品だったが、ひと口食べたらそのキャラクターが好きな理由も理解できた。

目的地にはキッチンカーと大きな観覧車が設置されていた。周囲が友人や恋人らしき人と共に乗車しているのに対し、自分は1人で乗り込んだ。
観覧車に乗るのは、本当に何年振りだっただろうか。
遊園地に行ったとしても絶叫マシンばかりに乗っていて、ゆったりしたアトラクションは見向きもしなかったため、正直覚えていなかった。
車内から聴こえるBGMと、窓から見える風景をぼんやりと眺めながら「来てよかった」と思っていた。

観覧車を降りる頃には小腹が空いており、何か食べようと建物の中を歩いていた。すると昔好きだった作品のコラボカフェがあったので入ることにした。設置されてあるパネルや店内の雰囲気は、推していた当時とはまた違ったものとなっており、懐かしさやほんの少しの寂しさを感じてしまった。
注文の品はパフェとカフェオレ。
どちらも好きなキャラクターのものだ。
味に満足すると同時に、時の流れの早さや変化に驚くばかりであった。

それからは、性風俗店やブティックホテルが軒並み建っている街をただただ歩いていた。この時はまだ昼間だったから雰囲気を楽しむことが出来たが、夜になってからは近寄れる自信はなかった。

散々歩き倒した後、カラオケに行こうか迷っていたが、遠出してもネットカフェに篭っていた。
荷物を整理したかったというのもあるが、やっぱり長時間の徒歩移動による足の痛みには勝てなかった。またネットカフェには観覧車が閉まるギリギリの時間まで居続けた。

夜には2回目の観覧車に乗車すると、夜景を堪能していた。昼とはまた違った雰囲気であり、窓から見える景色に釘付けとなった。
だが同時に、ここに来ることはしばらく不可能であることを少し寂しく感じていた。

2回目の観覧車から降りると、振り返ることなくその場を後にした。

次の日の予定も決まっていたため、急いで電車に乗るとまた別のネットカフェのシャワー室へと直行した。2回目の観覧車を乗る前に入れば良かったと、入る前にも後にも何度思ったことだろう。おかげで余計な出費が増えてしまった。

シャワーを終えてネットカフェを後にすると、次は夜行バスでの移動が待っていた。
だが思っていたよりも集合時間ギリギリの到着で、慌てて乗り場まで走ることとなってしまった。
集合場所の広場には、自分と同じように待ち人で溢れかえっており、そこを謝りながら前に進んで、転がり込むようにしてバスへと乗り込んだ。
こうして、ひとり旅1日目が終了した。


2日目着いた先は東京の新宿駅だった。
午前4時頃、空はまだ暗く街灯に照らされていた。
好きな曲の歌詞に「昼過ぎ新宿でも行こうか」とあるのを思い出し、急いでイヤホンをつけてリストを開く。
そしてマスクを外して、大きく息を吸った。

このなんとも言えない空気感が堪らなかった。

時間が時間なため、電車もなく徒歩しか移動手段はない。折角新宿にいるので、歌舞伎町へと向かうことにした。そういっても、時間帯が時間帯なため大回りして覗くだけだ。

駅からかなり歩いて『歌舞伎町一番街』とデカデカと書かれたアーチが見えてきた。ぐるっと1周する頃にはまだ夜明けだというのに、人でごった返していた。酒の飲み過ぎからかふらついている女性を、黒いスーツを着た男性が支えていたのが何気に印象に残っている。
そして、その場にいた人間は一斉に駅の方へと歩いていった。その頃になると電車は動いており、人混みに押し潰されながら乗り込むこととなった。
電車から降りると空は淡い青色で、空気がほんの少し冷たかった。その場所が絡んだ曲を聴きながら、またもやネットカフェへと流れ着くこととなった。そこでほんの少し仮眠をとることにした。

ネットカフェを後にすると、街へと繰り出し催し物や水族館を満喫した。食事も美味しく非常に満足しており、空気感も含め幸せを噛み締めていた。
だからこそ、ここまでの費用のことは考えないようにしていた。
夕方からの水族館は人も少なく、また昼間に来るのとは違った楽しみ方が出来た。しかしスマートフォンで写真を撮り続けていたため、枚数がとんでもないことになってしまっていた。
次の日も東京に要件があったため、予約していたカプセルホテルへと移動した。

ひとり旅をする際、基本車中泊かネットカフェだったため、カプセルホテルは初めてで新鮮だった。だが何かをするたびに物音をたてがちの自分にとっては、少し窮屈に感じてしまった。シャワーを終え、布団に入ると気がついたら意識を手放しており、こうして2日目は終わりを迎えた。


3日目、目が覚めると低い天井が真っ先に入ってきた。頭をぶつけないようにゆっくり出ると、手短に支度をしカプセルホテルを後にした。

この日は、他の人と会う約束をしていた。
動画サイトに投稿される企画動画の撮影のためだ。詳細は言えないが、結果としては参加して良かったと思う。

楽しい時間はあっという間に過ぎていき、気がつけば夜となっていた。別れると電車に乗り継ぎバス乗り場の最寄駅へと向かった。
シャワーを浴びるため、またネットカフェに寄ると集合時間ギリギリまで居座った。

ネットカフェから出ると急に寂しくなった。
元々頻繁に来れる場所などではなく、また4月からは就職も決まって自由が殆ど無くなるからだった。その為、来るとしても早くて半年だろうと思っていた。

バス乗り場へと向かうエレベーターから景色を眺める。
街灯や店の看板の光が眩しくて、思わず目を細めてしまいそうになった。
景色を目に焼き付けて、ぽそり呟いた。

「ありがとう、また来るよ」

そして夜行バスに乗って、2泊3日の卒業旅行は終わりを迎えた。


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