時の記憶に触れる者

時々

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勇者と魔王

5年ぶりの王国

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 イステルダム王国。国王である、ゼスティリーア・イステル・ムーアが治める、主に人族が暮らしている国。人族が国のトップとして君臨している国の中では三大王国ともいわれるほど規模の大きい国でもある。
 またこの国の初代国王が武力にて勇名をとどろかせたこともあり、数々の実力のある冒険者が集まった影響からか、冒険者ギルドの支部を束ねる本部がある。また、世界有数の冒険者育成学園も存在する。


「へーい、らっしゃい!らっしゃい!良い薬扱ってるよー!」


「狩りたてのビクトリーボアの串焼き!今日買えば特別価格で売るよー!」


 冒険者ギルド本部へ続く一本道は特ににぎわっている。冒険者の利用者が多いためか、店を構えている人たちも活気にあふれている。
 時刻は早朝。これから依頼を受けるであろう屈強な体格の冒険者が、鎧、またはごつい武器や多くの道具を身にまとい冒険者ギルドの本部へ向かう中、明らかに場違いな雰囲気を放つ5人の少年少女がこれまた同じく冒険者ギルドの本部を目指して歩いていた。


「んー!マスター!このビクトリーボアの串焼き、すごくおいしいの!もう一本食べたいの!」


「姉さん、はしたない。マスターが困っているでしょう。少しはおとなしくしてください。私たちの品まで疑われてしまいます。子供みたいにはしゃぐなら一人でしてください。迷惑です。うるさいです」


「む。そんなこと言ってコハクだって今朝、マスターに体を揺さぶられながら起こされて、そのあと、ずっとあわあわ言いながらうるさかったの!」


「そ、それとこれとは話が違います!あ、あれは……その、マ、マスターが悪いんです!あんな不意打ちするからっ!寝癖もまだあったの……!」


 早朝からテンションがほぼマックスで絶好調な双子の姉ユヅキとそれを毒舌でたしなめるコハク。後半は何か立場が逆転していたような気もしたがこの二人は口ではどんなことを言い合っても基本仲がいい。見た目も判別できないほどそっくりで違いは雰囲気くらいではないだろうか。まさに双子の鏡だ。その二人の後をこのギルドマスターであるノワールを含めて3人が追いかける形で歩いている。
 冒険者に女性がいないというわけではない。が、多くはなく大半が男性でありそれも若くても成人していて20歳は過ぎている。

 そんな中で4人の幼女に囲まれる少年。そしてその少年さえも15歳くらいの見た目でしかない。加えて手ぶら、浴衣にしか見えない服装。どう見ても冒険者がしてもいい恰好ではない。率直にいうと浮きまくっている。


「にぃに。ゆかた……どう?」


「さすがノア。凄くかわいい。髪がきれいな青色だから浴衣も青色にしてよかったな。柄の花模様もとてもよく似合ってるよ」


「マスター、私はどうですか?ちらっ」


「アイよ。コハクの言葉を借りるようで悪いが、はしたないから胸元をはだけさせるのはやめなさい」


「なんかノアちゃんと対応が違いません!?」


 アイは黒色。双子はどっちも薄紫色の浴衣を身にまとっている。双子の浴衣の色は髪の色にそろえてある。
 ちなみに少年は黒を基調としており、ゆったりとした普段着姿である。
 余談だが浴衣は何代目かの勇者が異世界の知識をもとに再現したものらしい。とても高価で主に貴族が趣味で着るものとなっている。


 目立っている。いや本当にものすごく目立っている。が、この中でその自覚があるのは少年だけだったりする。


 少年、ノワールはこの世界に来て、初めて冒険者登録した時を少しだけ思い出した。あの頃は大変だった。この容姿かつ身元不明だったせいもあり、思い出したくもないほどの手続きが必要だった。
 時空魔法の応用で記憶の時間を狂わせ、いわゆる記憶操作もできたりするが、時空魔法は普段封印している。
 ノワールは改めて思う。目的地である冒険者ギルド本部を目にして今更ながら緊張したふりをする。まるで初めて来た新人冒険者のように。孤立ギルドの証である右腕の刻印を隠しながら。当然全員にも隠させた。


 ギィ……


 扉を開ける。朝から酒を飲んでいる冒険者。依頼を受注するために受付嬢のもとに並ぶ冒険者。パーティーやギルド内で依頼内容の確認をしたり計画を練っている者たち。
 懐かしい。この王国を冒険者活動の拠点にしてから2年くらい活動して“静謐の森”に引きこもってしまったからノワールたちにとって5年ぶりの冒険者ギルドだ。何度か見たことのある顔もある。冒険者、受付嬢含めて。


 ノワールたちは誰も並んでいない受付嬢のもとへまっすぐ向かうとすぐ目の前まで進んだ。


 5年前にはいなかった受付嬢だ。だからこそ意味がある。知り合いだと成功しない。
 ノワールたちはここに至るまで誰一人として周囲に認識されていない。基本霊術の一つで気配を殺していたからだ。
 その殺していた気配をいきなり何も知らない受付嬢の前で解く。強烈な存在感を一瞬だけ放ちながら。やられた方はさぞ心臓に悪いに違いない。


 「「「「「!!!!!!!???」」」」」


 全員が振り向いた気がする。顔見知りもちらほらと。
 ノワールは周囲の状況をすべて無視して受付嬢にここへ来た目的を話し始める。


「あ!あの……冒険者登録を、したいのですが」


 誰がどこから見ても緊張した声音だ。まだ成人していない子供が精一杯背伸びし、それでも緊張しながら一生懸命冒険者登録しようと頑張っているように見える。後ろにいる少女たちの影響もあって、冒険者にあこがれる子供集団の完成だ。


「あっ、すみません!少しびっくりしてしまいました。えーと冒険者登録でしょうか。その、冒険者はとても危険が多い職業です。親御さんには許しをもらったのかな?」


 受付嬢はそのあまりにも冒険者の姿とは程遠い恰好をした少年たちを見て冒険者になることをやんわりとあきらめるように言う。強く反対できないのは女の子たちが浴衣を着ていたので貴族の子供と判断したからだ。
 ノワールと受付嬢の会話を聞いていた周りの反応はなかなかにカオスだった。
 いきなり強烈な気配を伴って現れた5人の子供集団に呆然とする者、腕に刻まれている孤立ギルドの刻印を見てあからさまに馬鹿にした表情を向ける者、浴衣姿が恐ろしく似合っている少女(幼女)たちに向けて下心満載の表情を晒す者、驚愕する者、顔を恐怖に染める者、懐かしさを覚える者、呆れた表情で顔を横に振っている隣の受付嬢、その周りの反応を見て訝しむ者たち。


 「で、でも私たち本当に冒険者になりたいの!」


 ウルウルと瞳を濡らしながら上目遣いで必死に、冒険者になりたいと訴えるユヅキたち。その言葉に狼狽える新人受付嬢。



 ノワールはその受付嬢を見てなんていじりがいのある人なのだろう、と思った。だから容赦なく追撃しようとしたが見かねたのか、隣の受付嬢が話に割り込んでくる。


「テーオちゃん、代わって。その人たちの相手は私がするから」


「先輩……でも私の担当ですし!迷惑かけるわけには……」


「動転しているのはわかるけど、彼らの腕にある刻印見なさい。」


「えっ、あれ?孤立ギルドの刻印?なんで?冒険者でもないのに?」


「はぁ。彼らは冒険者よ。これは恒例のいたずら。ここ数年なかったから油断してた。巻き込まれるのはいつも新人。全く。さっさとこっちに来て、ノワール君たち!」


 施されるまま移動させられる少年たちを唖然と見送るテーオ。去り際に「また相手よろしく」といった少年の完全に面白がっている表情が印象的だった。


「で?久しぶりに来たと思ったら何しているんですか?何の御用ですか?」


 そう言ってくるのはノワールたちの知り合いの受付嬢。改めて見ると5年たっているのに成長が見られない。年は25歳のはずだが低い身長、少したれ目で小柄な可愛らしい顔だち、ノアたち同様薄っぺらい胸。全く変わってない。まるで時の魔法でもかけられたみたいですね……。


「なーんか、とても失礼なことを考えられている気がします」


「ははは。まさか」


 じとーっとこっちを見てくる懐かしい顔。この顔を見ていると帰ってきた感じがとてもある。
 僕が冒険者活動を休止してから5年。
 冒険者に戻る気なんてなかった。今でも迷っている。頭の冷静な部分が問いかけてくる。また繰り返すのかと。お前は冒険者に絶望したのではなかったのかと。

 僕はそっとポケットから自分の冒険者カードを取り出す。







ノワール ランクX?

年齢 ――

使用魔法――

戦闘方法(使用武器)――

最新履歴……孤立ギルド“幻想”の創設





 ふつうは最新履歴には魔物の盗伐記録が残る。随時更新されながら。だが僕はギルドを創設してからすぐ休止に入った。

 カードを受け取った受付嬢は、相変わらずの意味不明な内容に苦笑しながらお決まりのセリフを言う。


「冒険者活動再開ですね?おかえりなさい。」
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