14 / 27
勇者と魔王
祝して乾杯
しおりを挟む
「ん?あっちはまだ終わってないのか?アイ、少し様子を見に行ってくれないか?」
「心配なの?大丈夫だよ!自分の弟子は信じないと」
「とはいってもなぁ。実戦は久しぶりだろ?」
「それはマスターだけだよっ。みんなは普段、静謐の森で狩りしてるんだから。ギルドハウスの周りはマスターの結界があるから大丈夫なんだけど、少し離れればSS以上のヤツがうじゃうじゃいるんだから」
「そうだった。というか言ってくれれば僕も手伝うんだけど?」
「あーそれは無理!だってあの子たち、“マスターが相手するほどの魔物ではないです!”って言ってたもん」
「はぁ、僕もたまには体を動かしたいけどね。まぁ、いっか。今日は久々に良い運動ができたからね」
ノワールとアイはそれからも今終わったばかりの戦闘の感想などを話し合いながら、ゆっくりとセルリアたちがいる地点まで歩みを進める。戦闘をした後は独特の余韻が残る。これはノワールたちのような圧倒的な強者にのみ許されるものなのかもしれないが、特に今回のような理性を持つ魔物との戦いは心躍るものがある。魔物とは思えないほどの技の冴え。そして生きようとする意志以上の強さを求める武人のごとき執念。敵とはいえあっぱれだった。
そんな余韻にノワールは浸っていたが、それも今日はすぐ覚める。原因は戻ってきた先であほ面を晒している6人だ。
ま、聞きたいだろうことは想像できる。とりあえず戻ってきてもらうためにノワールは声をかけた。
「おい、大丈夫か?僕のほうは終わったからノアたちが終わり次第、転移で帰るからな?」
そう言うと、座り込んでいたセルリアが顔をこわばらせながら、しかしどこか詰問するような口調で話しかけてくる。
「あなたたち、一体何者なんですの?」
「孤立ギルド“幻想”だ。それ以下でもそれ以上でもないが?」
「そう言うことを聞いているんじゃない!あんな力、ありえない!」
「そうだ。俺も聞いたことすらないぞ、あんな力。視認すらできない速度、大地を粉砕する力、おまけに最後のは何だ?空間を切ったのか?そんなことを魔力を一切使わないで行う?ありえないだろう!」
セルリアに続いて、ネネリーとトムまで会話に参加してくる。6人は六大魔法家の次期当主で個人ランクも総じて高く、自分たちのギルドマスターは世界最高ランク。にもかかわらず突如始まった理解不能の戦闘。これで落ち着いていられるのは逆の意味でおかしい。
「君たちが悲観することはないよ!もともとはマスターが受けるはずの依頼だったしね。今回は相手が悪かっただけだから。ランク測定不能が2体。どう考えても君たちが相手なんてできるわけがないよ!Xランクでも一対一は無理だから!」
「ランク測定不能!?だったらどうしてそっちの方は一対一で倒せたんですの!?」
「マスターが強いからに決まってるじゃん。そんなことも理解できないの?大体勝手に付いてきたのはそっちじゃん。うだうだ質問ばっかりして……おかしいよ?」
いままで相当我慢していたらしい。アイが普段使わないような声音で軽蔑したように答えている。ノワールはこの展開を予想していたから最初に予防線を張ったのだ。
「僕たちが何をしても何も聞かないでくれ。君たちの質問には一言も応える気はない」
忘れているようなあので一応言っておく。すると思い出したのか、全員が口を噤(つぐ)む。そして訪れた気まずい雰囲気を払拭するかのような、きれいな音があたりを支配する。
どうやら向こうも終わったみたいだ。
納得がいかなそうな顔をしていたが、ノアの放った一言、「あなたたちが、よわいだけ」という言葉で完全に沈黙し、ノワールは転移で冒険者ギルドマスターの私室に転移した。
♦♦♦
「うお!驚いたじゃねぇか。どうだった?お前さんにしてはずいぶんと時間かかったじゃないか」
突然現れたノワールたちに一瞬だけ驚いたガラクだったが、そもそも転移を使えるのはノワールだけなので対して驚きもせず話しかけてくる。
それにしても今回の依頼は最初決められていた報奨金では割に合わない。Aランクのデミットマターかと思ったら測定不能のリジットだったのだ。
報告を聞いたガラクの顔が面白いように変色していく。確認としてノワールのカードの盗伐履歴を確認して、またも顔色が悪くなるガラク。王都から近い場所でそんな魔物がいるなんて思わないから当然の反応だが。
「お前たちが冒険者に復帰していて本当に助かった!冒険者ギルドマスターとして感謝する。ありがとう」
「今回の遭遇は偶然とは言えないな。武人気質の知能ある魔物、奴らは強い奴を探してただけだろう。自分より弱い奴に襲い掛かるほど知性も低くはなかった。僕たちがあの場にいなくても何も起きなかったはずだ。時々いる、面白
い奴らだった」
「そんなこと言えるのはお前たちくらいだと思うがな」
「価値観は人それぞれで違う。ま、だからといって報酬には色を付けてもらうぞ。本来の依頼とは違ったが、そちらにしてみればそれ以上の活躍をしたことになったはずだろう?」
「分かっている」
「後日ギルド預かりとして振り込んでおいてくれ」
そう言うとノワールたち5人は転移して静謐の森にあるギルドハウスへ帰っていった。
♦♦♦
「さぁ、お前たちもご苦労だったな。感謝する。報酬は後日渡すことにする」
ガラクは目の前で推奨しきっている6人にも話しかける。彼女たちも目にしたのだろう、あの子たちの力を。しかもランク測定不能との戦いなんてものも見たらしい。なまじ実力があるから受け入れがたいのもあるだろう。
態度がでかく、指名依頼の横取り、もとい無理やり同行していくという礼儀知らずの態度からあまり彼女たちをよく思っていないガラクだったが、今は同情しか湧かない。今日一日で一体いくつもの常識を破られたのだろう。魔法の使わない戦闘なんて見たことすらなかったに違いない。
とある事件によって5年前からこの王都にいる冒険者はノワールたちの強さ、常識のなさを知っているが、公にはなっていない。伝えようとしたものもいたが、実際見たもの以外は信じなかったからだ。戦闘において、ノワールたちにとっては何気ない動作すべてが理解を超えたものになる。そんなものを口だけで伝えるには限度がある。
「上には上がいるということだ。ノワールに限ってはXランク二人と同時に戦ってもおそらくノワールのほうが強いからな。それも圧倒的に」
「何者なんですの?彼らは」
「さぁな。だがこの王都にいる冒険者なら知っている。世界最強のギルドは“幻想”だってな。というか嬢ちゃんたちのマスターは確かXランクのミレイ・トパーズだろ?ノワールのことは知っているはずだがな」
「なっ。そう言うことですの。お母さまが言っておりました。この依頼に行くのだったら六大魔法家すべての跡継ぎを連れていくように、と」
「なるほどな。確かにノワールたちについていけば貴重な経験もできるしな。しかし、今回だけだろうな。もう、合同依頼は受けてくれないだろう。ま、そう言うわけだ。今日はもう帰りな。疲れているだろう?」
「そうですわね。では私たちもこれで失礼しますわ」
ガラクは去っていく彼女たちを適当にねぎらいながら帰らせた。ないがしろにはできないのだ。彼女たちのギルドも、世界2大ギルドの一つなのだから。
♦♦♦
「ふぅ。ちょっと疲れたな」
「にぃに、だいじょうぶ?」
「お疲れでしたら、先にお風呂に入っていてください」
「そうするといいの。私たちも後から行くの!みんなで入った方があったまるの!」
「うんうん、それがいいよ!洗いっこしよー!」
「……お前ら、入ってくる気かよ」
「おせなか、ながしてあげる。にぃには、なにもしなくていいよ?のあたちに、みをまかせてくれればいい、よ?」
「ノアちゃんの言う通りなの!特に私たち双子のコンビネーションはばっちりなの!コハクと一緒に左右からギュ―ってしてあげるのなの!」
「姉さん、それではマスターの疲れが取れません。そこはやさしく、ですね……もっとこう、おしとやかに……ごにょごにょ」
「コハクは相変わらずかたいのなの。脳内ピンクのくせになの」
「なっ。姉さんは、はしたなすぎます!街中でも遠慮なくべったりとマスターにくっついて。少しは周りの目を気にしたらどうですか!」
「あんなこと言っているのなの。アイはどう思うなの?」
「相変わらずユヅキちゃんとコハクちゃんは仲いいねー。コハクちゃんはもっと素直になればいいのにー」
「わかったわかった。もう一緒に入っていいから俺は先に行くぞ。裸で来るなよ。バスタオル巻いてこい」
このやり取りは何回目だっけ?しばらく終わりそうにないので、ノワールはそっと風呂に向かって歩き出した。
ちゃぽん…………
ノワールは一足先に風呂を堪能していた。このギルドハウスはすべてノワールが設計し、建てたもの。向こうの世界にいた時に培った知恵もすべてつぎ込んであるのだ。特に風呂には力を入れてある。風呂とは一日の疲れを流すために必要なものであり、おろそかにしてはいけないものであると瀬奈にみっちりと教え込まれたのも要因の一つであろうが。とにかくこのギルドハウスにはこの世界のどこを探しても見つからないほどの高級宿も裸足で逃げだすような、もはや温泉と呼ぶべき風呂があるのだ。
「ふぅー、気持ち良い。このまま、寝ちゃってもいいくらいだなぁ」
露天風呂。大きな岩に囲まれた熱い湯に肩までつかり見上げた空には、きれいな星たちが己の存在を主張するかのように堂々と輝いている。手を空にかざしてみると、今にもつかめそうな錯覚に陥る。
遠い、果てしなく遠い。あの世界も、僕の目に映る星たちの中に存在するのだろうか。
♦♦♦
「……お酒をお持ちしました」
背後からノワールにかかる声。どうやらみんな来たらしい。どうせ―
「やっぱり裸か」
ノワールが後ろに振り向くと、白くあどけない穢れを全く知らないような柔らかさをはらんだ肢体が4つ目に飛び込んでくる。
「マスターは、見慣れてるのなの。今更どうってことないのなの」
双子もアイもノアも、特に気にした様子もなく湯に入ってきた。ちゃんと入る前に体を洗ったようだから別にいいが。こいつらは本当に小さい時から面倒見てるから、家族みたいな認識。だからといって一斉に囲まれるとドキドキするとは、男って悲しい生き物だなぁ、と感じる。
コハクは湯につかってから持っていた桶も湯の上にそっと浮かべた。見ると桶の中には酒瓶が一つ、お猪口が五つ。
余談だが、この酒瓶とお猪口の文化は、何代目か前の勇者によってもたらされたものだ。
「コハク、ずいぶんとしゃれた真似するじゃないか」
風呂でこのようなことをするのは初めてだ。ノワールは珍しく思い、ユヅキに思わず問いかける
「その、今日は冒険者活動を復活した記念日ですので」
少し顔を赤く染めながら座り込んでいる足を内またにしてうつむくコハク。それから少し慌てたように桶をみんなに受け渡し始める。
いつも積極的な行動をするのは、ユヅキやアイ、ノアなので少し恥ずかしいようだ。ただ、ノワールも今回のことは謝らなくてはならないだろう。それと同時に感謝しなくては……。
「みんな、ごめんな。僕のわがままで冒険者であることをやめたのに」
「「「「…………」」」」
「ただ、謝られるだけは嫌だろうから、感謝の気持ちを一言。ありがとう」
僕についてきてくれて。こいつ等だけだから、僕を一人置いて逝かないでくれるのは。僕と一緒にいることを肯定してくれる人はいた。僕を好きだと言ってくれる人もいた。だけど結局、みんな僕を置いて逝く。もう慣れた、慣れてしまって何も感じなくなったときこいつらに出会った。
「ん。にぃには、わかってる。ごめんなさいは、いらない。ただ、にぃにには、いつもわらっていてほしい」
「私たちは、マスターに謝らせるためにこのようなことをしたわけではありません。ただ、お祝いしようと、しただけで」
「コハク、恥ずかしがらないの。ほら、マスターにお酒を注ぐ大役、任せてあげるのなの。今日だけなの」
「うぅ、私もしたーい。次、譲ってコハクちゃん!」
星の数ほどいる冒険者。だけど僕にとって冒険者とは特別なものだ。僕は冒険者をやめるときどんな顔をしていただろう。みんなの隠し切れない喜びようを見ている限り、心配をかけてしまっていたらしい。
ノワールが右手に持っているお猪口にお酒を注ぐため近くに寄ってくるコハク。首をノワールの肩に預け両手に持った酒瓶を傾けるコハク。
艶のある薄紫の髪がノワールの鼻孔をくすぐる。女の子らしい匂いがふわりと漂ってきて不覚にもドキッとしてしまう。
「マスター、どうしましたか?」
「いや、別に」
それから全員分のお猪口に酒がいきわたったのを確認し、乾杯の掛け声をノワールは上げた。
そのあと、適度に火照った体に本来備わっていたあどけなく白い肌で、猫みたいに抱き着いて体全体で甘えてくるほろ酔いのノアたちに対して理性を保ち続けたノワールは、自分で自分をほめたたえるのだった。
「心配なの?大丈夫だよ!自分の弟子は信じないと」
「とはいってもなぁ。実戦は久しぶりだろ?」
「それはマスターだけだよっ。みんなは普段、静謐の森で狩りしてるんだから。ギルドハウスの周りはマスターの結界があるから大丈夫なんだけど、少し離れればSS以上のヤツがうじゃうじゃいるんだから」
「そうだった。というか言ってくれれば僕も手伝うんだけど?」
「あーそれは無理!だってあの子たち、“マスターが相手するほどの魔物ではないです!”って言ってたもん」
「はぁ、僕もたまには体を動かしたいけどね。まぁ、いっか。今日は久々に良い運動ができたからね」
ノワールとアイはそれからも今終わったばかりの戦闘の感想などを話し合いながら、ゆっくりとセルリアたちがいる地点まで歩みを進める。戦闘をした後は独特の余韻が残る。これはノワールたちのような圧倒的な強者にのみ許されるものなのかもしれないが、特に今回のような理性を持つ魔物との戦いは心躍るものがある。魔物とは思えないほどの技の冴え。そして生きようとする意志以上の強さを求める武人のごとき執念。敵とはいえあっぱれだった。
そんな余韻にノワールは浸っていたが、それも今日はすぐ覚める。原因は戻ってきた先であほ面を晒している6人だ。
ま、聞きたいだろうことは想像できる。とりあえず戻ってきてもらうためにノワールは声をかけた。
「おい、大丈夫か?僕のほうは終わったからノアたちが終わり次第、転移で帰るからな?」
そう言うと、座り込んでいたセルリアが顔をこわばらせながら、しかしどこか詰問するような口調で話しかけてくる。
「あなたたち、一体何者なんですの?」
「孤立ギルド“幻想”だ。それ以下でもそれ以上でもないが?」
「そう言うことを聞いているんじゃない!あんな力、ありえない!」
「そうだ。俺も聞いたことすらないぞ、あんな力。視認すらできない速度、大地を粉砕する力、おまけに最後のは何だ?空間を切ったのか?そんなことを魔力を一切使わないで行う?ありえないだろう!」
セルリアに続いて、ネネリーとトムまで会話に参加してくる。6人は六大魔法家の次期当主で個人ランクも総じて高く、自分たちのギルドマスターは世界最高ランク。にもかかわらず突如始まった理解不能の戦闘。これで落ち着いていられるのは逆の意味でおかしい。
「君たちが悲観することはないよ!もともとはマスターが受けるはずの依頼だったしね。今回は相手が悪かっただけだから。ランク測定不能が2体。どう考えても君たちが相手なんてできるわけがないよ!Xランクでも一対一は無理だから!」
「ランク測定不能!?だったらどうしてそっちの方は一対一で倒せたんですの!?」
「マスターが強いからに決まってるじゃん。そんなことも理解できないの?大体勝手に付いてきたのはそっちじゃん。うだうだ質問ばっかりして……おかしいよ?」
いままで相当我慢していたらしい。アイが普段使わないような声音で軽蔑したように答えている。ノワールはこの展開を予想していたから最初に予防線を張ったのだ。
「僕たちが何をしても何も聞かないでくれ。君たちの質問には一言も応える気はない」
忘れているようなあので一応言っておく。すると思い出したのか、全員が口を噤(つぐ)む。そして訪れた気まずい雰囲気を払拭するかのような、きれいな音があたりを支配する。
どうやら向こうも終わったみたいだ。
納得がいかなそうな顔をしていたが、ノアの放った一言、「あなたたちが、よわいだけ」という言葉で完全に沈黙し、ノワールは転移で冒険者ギルドマスターの私室に転移した。
♦♦♦
「うお!驚いたじゃねぇか。どうだった?お前さんにしてはずいぶんと時間かかったじゃないか」
突然現れたノワールたちに一瞬だけ驚いたガラクだったが、そもそも転移を使えるのはノワールだけなので対して驚きもせず話しかけてくる。
それにしても今回の依頼は最初決められていた報奨金では割に合わない。Aランクのデミットマターかと思ったら測定不能のリジットだったのだ。
報告を聞いたガラクの顔が面白いように変色していく。確認としてノワールのカードの盗伐履歴を確認して、またも顔色が悪くなるガラク。王都から近い場所でそんな魔物がいるなんて思わないから当然の反応だが。
「お前たちが冒険者に復帰していて本当に助かった!冒険者ギルドマスターとして感謝する。ありがとう」
「今回の遭遇は偶然とは言えないな。武人気質の知能ある魔物、奴らは強い奴を探してただけだろう。自分より弱い奴に襲い掛かるほど知性も低くはなかった。僕たちがあの場にいなくても何も起きなかったはずだ。時々いる、面白
い奴らだった」
「そんなこと言えるのはお前たちくらいだと思うがな」
「価値観は人それぞれで違う。ま、だからといって報酬には色を付けてもらうぞ。本来の依頼とは違ったが、そちらにしてみればそれ以上の活躍をしたことになったはずだろう?」
「分かっている」
「後日ギルド預かりとして振り込んでおいてくれ」
そう言うとノワールたち5人は転移して静謐の森にあるギルドハウスへ帰っていった。
♦♦♦
「さぁ、お前たちもご苦労だったな。感謝する。報酬は後日渡すことにする」
ガラクは目の前で推奨しきっている6人にも話しかける。彼女たちも目にしたのだろう、あの子たちの力を。しかもランク測定不能との戦いなんてものも見たらしい。なまじ実力があるから受け入れがたいのもあるだろう。
態度がでかく、指名依頼の横取り、もとい無理やり同行していくという礼儀知らずの態度からあまり彼女たちをよく思っていないガラクだったが、今は同情しか湧かない。今日一日で一体いくつもの常識を破られたのだろう。魔法の使わない戦闘なんて見たことすらなかったに違いない。
とある事件によって5年前からこの王都にいる冒険者はノワールたちの強さ、常識のなさを知っているが、公にはなっていない。伝えようとしたものもいたが、実際見たもの以外は信じなかったからだ。戦闘において、ノワールたちにとっては何気ない動作すべてが理解を超えたものになる。そんなものを口だけで伝えるには限度がある。
「上には上がいるということだ。ノワールに限ってはXランク二人と同時に戦ってもおそらくノワールのほうが強いからな。それも圧倒的に」
「何者なんですの?彼らは」
「さぁな。だがこの王都にいる冒険者なら知っている。世界最強のギルドは“幻想”だってな。というか嬢ちゃんたちのマスターは確かXランクのミレイ・トパーズだろ?ノワールのことは知っているはずだがな」
「なっ。そう言うことですの。お母さまが言っておりました。この依頼に行くのだったら六大魔法家すべての跡継ぎを連れていくように、と」
「なるほどな。確かにノワールたちについていけば貴重な経験もできるしな。しかし、今回だけだろうな。もう、合同依頼は受けてくれないだろう。ま、そう言うわけだ。今日はもう帰りな。疲れているだろう?」
「そうですわね。では私たちもこれで失礼しますわ」
ガラクは去っていく彼女たちを適当にねぎらいながら帰らせた。ないがしろにはできないのだ。彼女たちのギルドも、世界2大ギルドの一つなのだから。
♦♦♦
「ふぅ。ちょっと疲れたな」
「にぃに、だいじょうぶ?」
「お疲れでしたら、先にお風呂に入っていてください」
「そうするといいの。私たちも後から行くの!みんなで入った方があったまるの!」
「うんうん、それがいいよ!洗いっこしよー!」
「……お前ら、入ってくる気かよ」
「おせなか、ながしてあげる。にぃには、なにもしなくていいよ?のあたちに、みをまかせてくれればいい、よ?」
「ノアちゃんの言う通りなの!特に私たち双子のコンビネーションはばっちりなの!コハクと一緒に左右からギュ―ってしてあげるのなの!」
「姉さん、それではマスターの疲れが取れません。そこはやさしく、ですね……もっとこう、おしとやかに……ごにょごにょ」
「コハクは相変わらずかたいのなの。脳内ピンクのくせになの」
「なっ。姉さんは、はしたなすぎます!街中でも遠慮なくべったりとマスターにくっついて。少しは周りの目を気にしたらどうですか!」
「あんなこと言っているのなの。アイはどう思うなの?」
「相変わらずユヅキちゃんとコハクちゃんは仲いいねー。コハクちゃんはもっと素直になればいいのにー」
「わかったわかった。もう一緒に入っていいから俺は先に行くぞ。裸で来るなよ。バスタオル巻いてこい」
このやり取りは何回目だっけ?しばらく終わりそうにないので、ノワールはそっと風呂に向かって歩き出した。
ちゃぽん…………
ノワールは一足先に風呂を堪能していた。このギルドハウスはすべてノワールが設計し、建てたもの。向こうの世界にいた時に培った知恵もすべてつぎ込んであるのだ。特に風呂には力を入れてある。風呂とは一日の疲れを流すために必要なものであり、おろそかにしてはいけないものであると瀬奈にみっちりと教え込まれたのも要因の一つであろうが。とにかくこのギルドハウスにはこの世界のどこを探しても見つからないほどの高級宿も裸足で逃げだすような、もはや温泉と呼ぶべき風呂があるのだ。
「ふぅー、気持ち良い。このまま、寝ちゃってもいいくらいだなぁ」
露天風呂。大きな岩に囲まれた熱い湯に肩までつかり見上げた空には、きれいな星たちが己の存在を主張するかのように堂々と輝いている。手を空にかざしてみると、今にもつかめそうな錯覚に陥る。
遠い、果てしなく遠い。あの世界も、僕の目に映る星たちの中に存在するのだろうか。
♦♦♦
「……お酒をお持ちしました」
背後からノワールにかかる声。どうやらみんな来たらしい。どうせ―
「やっぱり裸か」
ノワールが後ろに振り向くと、白くあどけない穢れを全く知らないような柔らかさをはらんだ肢体が4つ目に飛び込んでくる。
「マスターは、見慣れてるのなの。今更どうってことないのなの」
双子もアイもノアも、特に気にした様子もなく湯に入ってきた。ちゃんと入る前に体を洗ったようだから別にいいが。こいつらは本当に小さい時から面倒見てるから、家族みたいな認識。だからといって一斉に囲まれるとドキドキするとは、男って悲しい生き物だなぁ、と感じる。
コハクは湯につかってから持っていた桶も湯の上にそっと浮かべた。見ると桶の中には酒瓶が一つ、お猪口が五つ。
余談だが、この酒瓶とお猪口の文化は、何代目か前の勇者によってもたらされたものだ。
「コハク、ずいぶんとしゃれた真似するじゃないか」
風呂でこのようなことをするのは初めてだ。ノワールは珍しく思い、ユヅキに思わず問いかける
「その、今日は冒険者活動を復活した記念日ですので」
少し顔を赤く染めながら座り込んでいる足を内またにしてうつむくコハク。それから少し慌てたように桶をみんなに受け渡し始める。
いつも積極的な行動をするのは、ユヅキやアイ、ノアなので少し恥ずかしいようだ。ただ、ノワールも今回のことは謝らなくてはならないだろう。それと同時に感謝しなくては……。
「みんな、ごめんな。僕のわがままで冒険者であることをやめたのに」
「「「「…………」」」」
「ただ、謝られるだけは嫌だろうから、感謝の気持ちを一言。ありがとう」
僕についてきてくれて。こいつ等だけだから、僕を一人置いて逝かないでくれるのは。僕と一緒にいることを肯定してくれる人はいた。僕を好きだと言ってくれる人もいた。だけど結局、みんな僕を置いて逝く。もう慣れた、慣れてしまって何も感じなくなったときこいつらに出会った。
「ん。にぃには、わかってる。ごめんなさいは、いらない。ただ、にぃにには、いつもわらっていてほしい」
「私たちは、マスターに謝らせるためにこのようなことをしたわけではありません。ただ、お祝いしようと、しただけで」
「コハク、恥ずかしがらないの。ほら、マスターにお酒を注ぐ大役、任せてあげるのなの。今日だけなの」
「うぅ、私もしたーい。次、譲ってコハクちゃん!」
星の数ほどいる冒険者。だけど僕にとって冒険者とは特別なものだ。僕は冒険者をやめるときどんな顔をしていただろう。みんなの隠し切れない喜びようを見ている限り、心配をかけてしまっていたらしい。
ノワールが右手に持っているお猪口にお酒を注ぐため近くに寄ってくるコハク。首をノワールの肩に預け両手に持った酒瓶を傾けるコハク。
艶のある薄紫の髪がノワールの鼻孔をくすぐる。女の子らしい匂いがふわりと漂ってきて不覚にもドキッとしてしまう。
「マスター、どうしましたか?」
「いや、別に」
それから全員分のお猪口に酒がいきわたったのを確認し、乾杯の掛け声をノワールは上げた。
そのあと、適度に火照った体に本来備わっていたあどけなく白い肌で、猫みたいに抱き着いて体全体で甘えてくるほろ酔いのノアたちに対して理性を保ち続けたノワールは、自分で自分をほめたたえるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる