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勇者と魔王
世界を砕く(照らす)太陽
しおりを挟む『勇気の物語』
これは本の題名だ。飾りっ気も何も感じられない本。ページ数は結構あり、大人でも読み終わるのにそれなりに時間を費やすだろう。
主な登場人物は、勇者と魔王。
このような本は、何冊も発行しており、小さな子供に大人気だ。教育の一環として子供に読み聞かせる親も多い。絵がド派手に描かれており勇者が悪いことをするヤツを仲間とともに倒していく描写が非常に痛快で、子供は誰しもが勇者に憧れる。
対してこの『勇気の物語』。絵は描かれておらず、どのページも文章でびっしり埋まっている。
この本の冒頭は次の通りである。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
たった数日間の出来事。
しかし、人々の記憶に残るには十分だった。
そして、さらに時を経て誰もが忘れてしまっても、
その記憶は国に刻まれ決して消えることはない。
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この本はとある一国でしか売られていない。作者は不明。
そこには、真実が書かれていた。
♦♦♦
闘技大会当日。
どこまでも見渡せる青い空に燦燦と光り輝く太陽が浮かんでいる
収まることのない喧噪の中、香ってくる金属の臭い。使い古された武具特有のにおいがあちこちからただ寄ってくる。様々な人種が入り乱れているせいで少なくない衝突も起きているみたいだが、大会参加資格の剥奪を恐れてか大事にはなっていないみたいだ。
ここは参加者のみが入ることができる大広場。今から30分後に地面に仕込んである転移魔法陣にて無傷結界内に飛ばされ、バトルロワイヤルが始まる。
有名な冒険者に集まる視線。特にランクXが率いる“六魔の覇者”には多くの視線が集まっている。
しかし、同じくらい注目を集めている者たちがいた。
「……きもちわるい。なんでみんな、こっちみる?」
「そりゃ、見るだろうよ」
幼いながらも人形のように整った容姿、透き通るような声音からは想像すらできないほど嫌悪感にまみれているノアの独り言に突っ込むノワール。その近くに集まっているノアにも全く劣らない容姿を誇るアイ、ユヅキ、コハク。どこからどう見ても超絶かわいい美少女4人に囲まれているノワールに周囲から突き刺さる視線。伝わってくるのは、嫉妬、怒り、怯え、驚愕。
嫉妬は主に男性から。理由もわかる。僕も逆の立場だったら向けている……かもしれない。
怒りは女性から。これも、まぁわかる。危険な大会に幼い少女を連れていることをよく思っていないのだろう。ぶっちゃけ余計なお世話だ。自分たちの心配を先にしていろ、といいたい。
怯えと驚愕の視線は、この国の冒険者、及び六魔の覇者の面々からだ。これもなんとなく理由はわかるが、穴が空くほど凝視しなくてもいいと思う。
そんなことを頭の隅で考えていたノワールだったが、呑気な思考とは裏腹にその体には僅かながら強張っている。この広場に来てから感じた気配。様々な気配が存在する中、桁違いの気配が1つ、いや2つか。この場には勇者とやらを一目見に来ただけでさっさとリタイヤすることも視野に入れていたノワールだったが、思惑が最初からずれたことに気づいた。
深呼吸を一つ。意識を変えていく。
ノワールの体から極僅かに漏れ出る覇気。普通なら全く気付くことすらできないものであっても弟子たちがそれに気づかないわけがない。
周囲では様々なギルドが作戦を立てている。広大なフィールドでどうやって敵をあぶりだすか。遭遇したらどう対処するのか。要注意ギルドはどこなのか?
ノワールとノアたちは周囲の雑音を遮断するかのように目を閉じる。不意に左腰に感じる重み。小さい時からなじんでいるその感触は戦いの記憶を感じさせる。
”それでは張り切っていこう!マスター!”
どこか面白味を含んだアイの声を聴き、顔に少しの苦笑を浮かべたノワールも意を示す。
「「「決着をつけてやる」」」
ノワールがそう言った瞬間、足元の転移魔法陣が輝き増し眩い光が全身を包み込む。
数舜前ノワールは誰かと声が重なった気がした
♦♦♦
高ランクギルド同士の高度な戦略戦が売りの闘技大会バトルロワイヤル。
無傷結界内には砂漠エリア、海岸エリア、山岳エリア、密林エリアなどが存在しており、さながら一つの世界になっている。この結界内で死ぬようなことがあったら強制的に先の広場に転移され、傷などは完治しているという規格外のアーティファクトだ。
アーティファクトとは現在再現不可能とされる古代遺産のことであるが、とにかく無傷結界内は一つの世界といっても過言ではない。
最初は盛り上がった。やはり六魔の覇者を中心とした高ランクギルドが目立ち、派手な魔法と高度な連携で次々と参加者を脱落させていく様に、モニターで観戦していた観客、王族、貴族は娯楽の一環として楽しんでいた。
白熱する戦いに興奮気味の実況の声もわずかに届いてくる。
「冒険者ランクX、最高峰の力を持つミレイ・トパーズ様率いる六魔の覇者に食い下がる勇者パーティー!おぉーっとここで勇者のもつ剣、エクスカリバーが強く輝きだしたー!これは大技が来るのか、どうする!?六魔の覇者―!!!!」
「僕には会いたい子たちがいるのでね、これで終わらせていただきます!」
「さすがに勇者といわれるだけはあります。しかし、Xランクという誇りにかけて負けません!」
最高峰レベルの戦い、開始数時間で成り立った今回優勝候補同士の戦い。上位魔法の応酬、鳴り響く剣戟音、この日のために用意されていた両者の戦術のぶつかり合いは知らず知らずに見ている者の興奮を引き出す。結果外ではかつてないほどの声援が怒号のように鳴り響きこの戦いを中継しているモニターから目を離す者はいなかった。
だから、だろうか―?
誰も気づかない。大気中に染み渡るように広がる闘気とその出所に。
参加者が各々戦いや探索に精を出すその上空に、一つの影が現れた。
超然と空中に佇む男の姿からは、濃密な殺気と闘気が放たれている。膨れ上がった筋肉と高めの身長に加え、短くそろえたツンツンしている金髪に猛獣のようにぎらつく黒目はその存在感だけで周囲に威圧を放つ。
「ここで動くのか」
「にぃに、どうする?」
「あれはまずいなの!さっさと逃げるべきなの!」
「姉さん、落ち着いてください、といいたいところですが、確かにあれを食らうのは勘弁したいですね。」
”私も嫌だよ!あんなの斬るの!”
「ノア、ユヅキ、コハクは俺の後ろに下がって破壊されるであろう結界内の修復の準備をしておけ。それとアイ、お前は武器なんだから嫌がってどうする?半端な気持ちであれに挑むと、折れるぞ……根元から」」
弟子たちの返事を聞く前にノワールの耳にははっきりと聞こえた。
「ここからは俺たちの時間だぜ?誰にも邪魔はさせねぇ。だからさっさと雑魚共は、消えちまえ。“ 世界を砕く太陽”」
男がゆっくりと右手を上段から振り下ろす。その瞬間、箱庭の世界を消し去る偽りの太陽が世界を照らす。
“世界を砕く太陽”それは龍魔法の中でも上位にあたる魔法。この世界において龍と竜は別の存在を現す。竜とは言語を理解し、高い戦闘力を誇るが基本的に穏やかな性格をしている存在であり、竜人族はこの竜と同じく竜属性の固有魔法を使えることに誇りを持ち竜をあがめている。
しかし、龍は現象である。そこに意思はなく、ただ存在している。その存在を目にしたことがある者は皆無であろうが、目にした者は死を認識しなくてはならない。龍とは戦えない。龍は世界のシステム上存在するルールそのもの。龍が異分子の破壊を目的に動いたら破壊されるだけ。その際、龍が使用するのが龍魔法。異次元の破壊を司るその魔法に対抗手段などなく、龍に逆らう者など世界そのものに逆らうことと同義であるというのが常識だ。
空から落ちてくる破壊の太陽を見つめながらノワールは思う。常識はあくまで常識でしかないと。自分たちにできないことが他人もできないなどと決めつけるのは傲慢なのではないのか、と。事実、殺してみせた。この太陽の後ろに超然と立っている男は龍を殺してみせた。何回死を覚悟したのか、何年戦い続けたのか知らないが、ただ強いものと戦いたいというその願望だけで世界のシステムに挑み、そして絶無に近しい勝利を己が手におさめた。それが龍神と呼ばれる男。
ノワールとて一人の男に過ぎない。本当に幼い時は強い父の後ろ姿に憧れた。人々の生活を脅かす魔物と初めて対峙した時は恐怖より己が磨き上げた技がどこまで通用するのか試したくなった。
強さを求めるのに、“大切な人を守るため”といった理由を付けることもいいだろう。しかし強さを求めることに理由がいるか、といわんばかりの龍神の姿に初めて会った時には忘れていた高揚を感じたのを覚えている。
故に龍をも倒し、人間の身でありながら龍魔法の極地までたどり着いた男に敬意を持って戦うことを誓う。
「……いくぞ、龍神!!!」
迫りくる太陽の熱気に呼応するかのように熱を持ったノワールの声が、神の領域の戦いの火蓋を切る。
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