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6-1 幻影の闇 カゲロウ

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 カゲロウは萎えていた。
 自分が何かしでかしてしまったせいで、主は姿を消してしまったのか、と。
 
 カゲロウは、敵地での地形調査や兵力把握をする斥候、潜入での情報入手や撹乱、暗殺といった諜報活動については主の部下、つまり自分の同胞の誰よりも優れていた。そんな彼の能力を持ってしても、主の痕跡を辿ることはできなかった。

 「……無念」
 (拙者でも追えないとなると、主はどこに行ったのだろうか……。まさか自分が主になにか……?)

 カゲロウはシュガーの痕跡を追えず、仕える主君を失い、故郷である忍の里に引きこもった。痕跡が消失したことについてはテナに報告してある。彼女に伝えれば、各長達まで伝達するだろうから。
 
 「拙者は存在する意義を失ったのか……」

 途方に暮れ、里にある小屋に帰宅する。シュガーに仕えてから戻ることが無くなっていた小屋は、ずいぶんと塵やほこりが被っており、長年留守にしていた形跡が見て伺える。
「ほこりだらけだ、皮肉にも……拙者の誇りは失ったのに……。さて、これからどうしよう……」

 忍という性なのか、絶望している彼でも、自宅の掃除はてきぱきとこなす。戸棚のほこりを払い、窓を磨き、床を拭く。
 自分の愛用している暗器を整頓している中、ふと、切腹し自害する事まで考える。

「いや……、やめておこ……。ひとまずは静かに生きよう」

 主を失っての毎日は、つまらないものであった。朝は夜明けと共に起床、育てている畑の様子を見た後、山まで赴き昼まで訓練に励む。午後からは数少ない忍びの知り合いがやっている道場にいき、将来の人材育成を手伝っている。

 カゲロウは里で有名な忍の一人である。彼の逸話は忍びの里で語られる中では外せない。
 その一つが、カゲロウの二つ名となる、”幻影の闇 カゲロウ”。

 かつて、ある村は悪質な名のある盗賊団によって脅かされていた。盗賊は夜になると村を襲い、貴重な財宝や食料を奪い去る。村人たちは困惑し、国や周辺の村に救いを求めたが、どんな警備や兵も、その盗賊達を防ぐことができずにいた。その時、族の噂を聞きつけ、腕試しに、と訪れた一人の忍がいる。彼は盗賊に遭遇すると、月明かりの下、影の中を自在に舞い、実態を掴ませない神出鬼没な攻撃で蹂躙していった。その闇は村人たちにも恐怖を植え付け、恐れられた。


 
 そんな、日々変わらず、道場で教え子に指導をしている時だった。里内で普段は感じることがない異様な、でも懐かしい気配を感じた。この気配は間違いない。カゲロウはそう確信する。

「すまん……少し出る……」
 そう言い残し、道場を出た彼は気配を頼りに、街の入り口に向かった。

「……!」
(や……、やはり、主!)

 そこには待ち焦がれた主がいる。だがこれも忍びの性なのか、自分の性格なのか、こちらから声をかける事はできない。暫くどうしたものかと路地の角から背中を見ていると、主は振り返り、声をかけてくれた。

 カゲロウのつまらない毎日は、シュガーの一言だけで昇華されたのであった。

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