某国の皇子、冒険者となる

くー

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第3章 定めに抗う者たち

10. 治癒師

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俺たちは転移魔法を使い、師匠の屋敷に帰ってきた。
師が大慌てで扉から飛び出してきた。
「おお――ノアよ、素材が手に入ったのか?」
「いえ、師よ――アルゴグの胆嚢は早くとも一週間後になりそうです」
「一週間――!?彼はそこまで持ちゃせんぞ……」
そんな――……

「はじめまして、魔術師ホルデウム。私はニケと申します」
「うむ……」
「私は治癒師です。ノアたちからおおよその事情は聞き及んでおります。患者の容体を見せていただいてもよろしいでしょうか」


師とニケはエトワールを診察するため、二階の客室に向かった。
俺たちにできることは、エトワールの無事を願って祈ることだけだった。


やがて、居間にふたりが戻ってきた。
俺たちは固唾を飲んで師とニケを見つめる。

「今日より十日間――エトワールは生き長らえられるじゃろう」
「わぁ……!それじゃ……」
「うむ……予定通りアルゴグの胆嚢を手に入れることができ、薬が効けば、彼は助かるやもしれんのう」
「いったいどうやって……!?」

師は横に立つニケに向き直った。
「すべてはこのニケのおかげじゃよ。いやはやこの若さで――彼は治癒師として、わしをとうに凌駕しておるわい」
「恐れ入ります。ホルデウム殿の助力がなければ到底、成し得ませんでした」
「ほっほっほ……そう謙遜するでないわい」
ニケは――すごいな……

「ありがとう、ニケ……っ!」
「ノア…安心するのはまだ早いよ。僕は魔法でエトワールを眠らせて、病状の進行を遅らせる魔法をかけただけ。彼を助けるには、やはり薬が必要だ」
「ああ…わかってる……それでも、きみがいなかったらどうなっていたか……」
「ノアのためなら、お安いご用さ…」

「俺たちは、アルゴグ討伐をがんばらないとね……」
「ああ……」



そして一週間が経ち――

アルゴグ討伐再挑戦の日が訪れた。
ギルドマスターの尽力により、アルゴグの胆嚢は討伐終了後すぐにその場で取り出され、俺たちに渡される手筈になっている。

「行ってくるね、エトワール。必ず薬の素材を獲ってくるから」

エトワールの眠る部屋の扉の傍から遠目に彼を見つめ、眠りを妨げないよう音量を落とした声で呼びかけた。
万が一にも感染してはならないからと、接近はこの位置までと決められている。
夜明け前のわずかな明かりの中だが、遠目にも病による容貌の変化が見てとれた。頬はこけ、肌は土気色になってしまっている。完璧だった美しさは今や、重い病によって損なわれてしまっていた……

かならず助けるから……元気になってね、エトワール――

エトワールにしばしの別れを告げた後――俺たちはアルゴグ討伐のため、ブラウフォンスへ転移魔法で飛んだのだった。


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