某国の皇子、冒険者となる

くー

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第6章 あなたは私の宝物

8. 危急

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陽は沈み宵の帳が下りる頃……俺は急激な眠気を感じ、ソファにからだを横たえた。

気付くと、目の前にイリスがいた。いつもよりも若干距離が近く、深刻な表情をしている。
「ノア……大変です。王都に帝国軍が迫っています」
「え……っ!?もう?早くないか……」
「ええ……それから、あなたによく似た波長の魔力を持つ人の、強い怒りを感じます」
「兄上だ……」
「きっとあなたがここに囚われていることを知ってしまったのね。……ほんとうに、馬鹿な子……」
「それって……」
「ニケのことよ……お願いノア!あの子を……ニケを助けてください」
イリスは跪き、祈るように手を組んだ。目は涙で溢れている。

「私のことなんてどうでもいいの。あの子さえ無事でいてくれるのなら……。ああ……どうして私は眠っているの?あの子に、私のために命を危険に晒すような真似は今すぐやめてもらいたいの。国を出て冒険者として生きてほしい……。ニケにこの国は狭すぎるわ。この子は大きな翼を持っている。冒険者となって、世界をすみずみまで冒険するの。誰も知らないものを見て、新しい発見に感動する毎日を送ってほしい。そして、それはひとりではできないわ。どうかノア――あなたの仲間のひとりに、ニケを加えてあげて?」
「……ニケはほんとに、そうしたいのかな?」
「ええ!あの子のことは私が一番わかっているもの。間違いないわ!ああ……あの子にたくさん伝えたいことがあるのに、どうして私にはそれができないの?ねえノア、伝えてくれる?あの子に……」
「イリス……俺だって伝えてあげたいけど、塔からは出られないし……」
「知っているわ」
「え?」
「塔から出る方法を私、知っているの。教えてあげるからノア……どうか、ニケをお願い……」
「イリス……」

塔を出る方法を知っていたのなら――

どうして今まで教えてくれなかったの?イリス……



目が覚めた。

陽は沈みきり塔の中は闇に包まれ、壁にかけられた魔法の明かりが部屋を淡く照らしている。

ソファで眠ってしまったため、凝り固まったからだを伸ばそうと上体を起こすと、覚えのないブランケットがかけられているのに気付いた。エトワールだろうか……

「ノア、そのブランケットかけたの俺!エトワールじゃないからね」

ソファの背に腕を乗せてこちらを覗き込んでいる得意げなジンの顔を見たら、なんだかほっとしてしまった。

「ありがと、ジン…」
「へへへ…どういたしまして」

「ノア、そろそろうたた寝から目を覚まされるころだと思いましたので、お茶を淹れましたよ。どうぞ、召し上がってください」

さすがエトワール。ジャスミンティーだろうか?やさしくて温かな、心を落ち着けてくれるいい香りが、部屋を満たしている。

「ありがとう、エトワール。でも、ごめん。ゆっくり飲んでる時間はないんだ」
「……どうしたの、ノア?こわい顔して……」
「ノア……?」

「この塔から出る方法がわかった。すぐに準備をして、行かないと……」


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