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第8章 呪われた世界
1. 嘘のような現実
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「俺は冒険者になるんだから」
従者として城で仕えていた頃から、さんざん聞かされてきた、きみの夢――
その夢をついに叶えて、さあこれから――というのに……
ノアは昨日、俺たちに一方的な別れを告げたあと、すぐに意識を失ってしまった。
ひとまず隣の寝台に寝かされたが、それから丸一日が経った今でも目を覚まさない。
俺は眠るノアの青白い横顔を、じっと見つめていた。
鮮やかな赤い髪がリネンの枕の上に散らばり、長いまつ毛はそばかすの残る頬に濃い影を落としている。血の気の失せた整った顔は、よくできた人形のようだった。
『俺は元々、この世界の人間じゃない――』
ノアが倒れる間際に言っていたのは、耳を疑うような突拍子もない話だった。
だが、ノアは嘘を吐いてはいなかった。俺にはわかる。
それに、少し気にかかることがあった。
九年前――ルクスが高熱を出して寝込み、一カ月近く会えない時期があった。
ひと月ぶりにあったルクスは、どことなくよそよそしかったのを、かすかに覚えている。
だからといって、まさかそんなことが起こっていたなんて――……
「ノアはまだ、目を覚ましませんか……」
眠っているノアのそばには、仲間たちが集っていた。
「すべて、私の責任だ。私が生きながらえていたばかりに……」
閣下の呪いはノアが倒れてから数時間後、跡形もなく消え去っていた。
ノアが何かしてくれたのだろうが、一体全体何が起こったのか、詳しいことは何もわかっていない。
「いいえ……あなたは少しも悪くない。もとはと言えば僕が……」
ニケはずっと、自分を責めていた。きみのせいじゃない、という言葉を受け入れてはくれない。
「ニケもラウルス殿も、ご自身を責めないでください……私たちは邪悪なドラゴンに謀られたのです」
「ドラゴンか……藁にもすがる思いで頼ってきた人間を、まんまと騙しやがって……報酬……貴重な杖を渡したって言うのに……」
ジンが怒りを露わにするのも無理はない。あの杖は、帝国が保有する中でも特に貴重なものだった。
「昔読んだ書物に、ドラゴンは人間を家畜や奴隷のように扱っていた時代があると書かれていました。彼らにとって我々は取るに足らない存在なのでしょう」
「そうなんだろうな……」
何もできない自分が情けなく、歯がゆかった。
「ノア……ほんとうに、こうするしかなかったの?」
ニケは手を祈るように手を組んでいる。
「クソっ……俺たちじゃどうすることもできないのかっ!」
ジンは憤るあまり、拳で壁を叩きつけた。
「ノア……俺たちにはおまえが必要なんだ。どうか目を覚ましてくれ……」
願いに応える声はなかった。
三日後――
まさか……このままノアが目を覚まさなかったら……
不穏な予感が脳裏に過ぎり始めた頃――
ノアの目が開き、宝石のように鮮やかな青い瞳が現れた。
「ノア!」
「大丈夫ですか!?」
「よかった……っ!ノア!」
「ノア、ノアって……うるさいなあ……ぼくの名前はルクスだよ?」
苛立たし気な声で、彼は応えた。
「……ルクス?ノア……何を言っているんだ?」
ルクスは、重たげな動きで上体を起こした。
「ノアはもういないよ。消えちゃった……みんな、残念だったね」
「では……あなたは、誰なのですか?」
「ぼくはルクス・ベルムデウス。ぼくが本物のルクスだ」
「ルクス……?どういうことなんだ?」
「今まで、ぼくは『ノア』に体を乗っ取られていたんだ。まったく……ひどいやつだよ」
従者として城で仕えていた頃から、さんざん聞かされてきた、きみの夢――
その夢をついに叶えて、さあこれから――というのに……
ノアは昨日、俺たちに一方的な別れを告げたあと、すぐに意識を失ってしまった。
ひとまず隣の寝台に寝かされたが、それから丸一日が経った今でも目を覚まさない。
俺は眠るノアの青白い横顔を、じっと見つめていた。
鮮やかな赤い髪がリネンの枕の上に散らばり、長いまつ毛はそばかすの残る頬に濃い影を落としている。血の気の失せた整った顔は、よくできた人形のようだった。
『俺は元々、この世界の人間じゃない――』
ノアが倒れる間際に言っていたのは、耳を疑うような突拍子もない話だった。
だが、ノアは嘘を吐いてはいなかった。俺にはわかる。
それに、少し気にかかることがあった。
九年前――ルクスが高熱を出して寝込み、一カ月近く会えない時期があった。
ひと月ぶりにあったルクスは、どことなくよそよそしかったのを、かすかに覚えている。
だからといって、まさかそんなことが起こっていたなんて――……
「ノアはまだ、目を覚ましませんか……」
眠っているノアのそばには、仲間たちが集っていた。
「すべて、私の責任だ。私が生きながらえていたばかりに……」
閣下の呪いはノアが倒れてから数時間後、跡形もなく消え去っていた。
ノアが何かしてくれたのだろうが、一体全体何が起こったのか、詳しいことは何もわかっていない。
「いいえ……あなたは少しも悪くない。もとはと言えば僕が……」
ニケはずっと、自分を責めていた。きみのせいじゃない、という言葉を受け入れてはくれない。
「ニケもラウルス殿も、ご自身を責めないでください……私たちは邪悪なドラゴンに謀られたのです」
「ドラゴンか……藁にもすがる思いで頼ってきた人間を、まんまと騙しやがって……報酬……貴重な杖を渡したって言うのに……」
ジンが怒りを露わにするのも無理はない。あの杖は、帝国が保有する中でも特に貴重なものだった。
「昔読んだ書物に、ドラゴンは人間を家畜や奴隷のように扱っていた時代があると書かれていました。彼らにとって我々は取るに足らない存在なのでしょう」
「そうなんだろうな……」
何もできない自分が情けなく、歯がゆかった。
「ノア……ほんとうに、こうするしかなかったの?」
ニケは手を祈るように手を組んでいる。
「クソっ……俺たちじゃどうすることもできないのかっ!」
ジンは憤るあまり、拳で壁を叩きつけた。
「ノア……俺たちにはおまえが必要なんだ。どうか目を覚ましてくれ……」
願いに応える声はなかった。
三日後――
まさか……このままノアが目を覚まさなかったら……
不穏な予感が脳裏に過ぎり始めた頃――
ノアの目が開き、宝石のように鮮やかな青い瞳が現れた。
「ノア!」
「大丈夫ですか!?」
「よかった……っ!ノア!」
「ノア、ノアって……うるさいなあ……ぼくの名前はルクスだよ?」
苛立たし気な声で、彼は応えた。
「……ルクス?ノア……何を言っているんだ?」
ルクスは、重たげな動きで上体を起こした。
「ノアはもういないよ。消えちゃった……みんな、残念だったね」
「では……あなたは、誰なのですか?」
「ぼくはルクス・ベルムデウス。ぼくが本物のルクスだ」
「ルクス……?どういうことなんだ?」
「今まで、ぼくは『ノア』に体を乗っ取られていたんだ。まったく……ひどいやつだよ」
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