某国の皇子、冒険者となる

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最終章 死と光

5. 輪舞の列に我を取り巻け

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目を灼くような強い光を防ぐため、腕を顔の前に翳し目蓋をきつく瞑った。

あまりに強く眩い光は、サナトリオルム自身から発せられている。魔法の使える仲間たちは咄嗟に魔法障壁を展開して未知の脅威に備えた。厄介な攻撃魔法であれば、命に関わる……

「皆、無事か!?サナトリウムは――どうなっている!?」

皆、強い光に目が眩んでしまい、状況を把握できないでいた。

「サナトリウムから強い光が発せられる前、奴の身体は我々の総攻撃によって崩れ落ちる寸前でした」
「ああ、私にもそう見えていたが……待て、あれは何だ!?」

兄上が指差した場所には魔石が青く光る杖と、小さな塊が地面に影を作っていた。

「グラヴィス!不用意に近づいては……もう少しすれば目も慣れて……」

ラウルスの制止を聞かず、兄上は謎の物体に向かって歩み寄って行った。


「おお……これは――!」

兄上は、地面からそれを拾い上げた。

――いや、抱き上げた。
それは、赤ん坊だった。

ふぎゃあ、ふぎゃあ――
兄上の腕の中で、赤子は泣き出した。

「よしよし、元気がいいな」

「兄…上……?」
「グラヴィス……あなたは……」
「ノア、ラウルス……!この子をよく見てくれ!ほら!」

兄上は手に持っている赤子を俺たちに見せた。

「これはルクスだ!ラウルス、おまえならわかるだろう?」

ラウルスは赤子に目をやり、そしてまた兄上に視線を戻した。

「グラヴィス……正気ですか?」
「この瞳の青い色、私やノアとそっくりだ!髪も……ふふっ……まだわかりにくいが赤毛だぞ。そして何よりもこの子はルクスの赤ん坊の頃にそっくり……いや、そのものではないか」

ラウルスは首を横に振った。

「たしかに……その赤子はルクスにあまりにも似ています。サナトリオルムが消えた場所に入れ替わりのようにその子は現れた。これが何を示しているか、理解できないあなたではないでしょう」
「……それがどうしたというのだ」
「グラヴィス……」
「私はこの子を育てるぞ」
「何を莫迦なことを……!」
「この子にルクスの魂を感じる。それだけで私には十分だ」


議論は終わり、兄上は宝物のように腕の中の赤子を抱き、サナトリオルムの居城を後にしたのだった。



こうして悪霊は打ち果たされ、厄災は訪れることなく、世界に平和がもたらされた。
報せは世界中にもたらされ、人々は祝い、歌い、喜び合った。

そして、世界の名前はサナトスからルクスに変わることになった。サナトスは古代の言葉で『死』を意味し、ルクスは『光』を意味する。

死の蔓延る世界は光満ちる世界へと、生まれ変わりを遂げたのだった。



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