光を失ったある女性の物語 25才の恋

蔵屋

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第三章

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翌日、愛菜は大阪府吹田市山田丘の大阪大学医学部附属病院の眼科待合室にいた。
愛菜は診察の受付を済ませて9時からの診察開始を待っているのだ。
待合室には30人程患者達が診察を待っている。
診察のお目当ては田野教授である。
午前9時の診察開始時間になった。
「あしやまな様、あしやまな様」
「はい」
愛菜は受付に行った。
看護師は愛菜を田野教授の診察室に案内した。
「芦屋愛菜さま、診察室1診にお入り下さい」
「よろしくお願いします」
「今日はどうされましたか?」
「近所の医院で実は網膜色素変性症と診断されました。心配になり専門医の診察を受けようと思いまして」
「分かりました。それでは診察しましょう。」
愛菜は田野教授にすべてを任せて診察に臨ぞんだ。
「芦屋さん。いつ頃から見づらくなりましたか?」
「約一年前からです」
「ええ!一年も、前からですか」
「はい」
「やはり網膜色素変性症ですね。光を感じる網膜に異常が見られる遺伝性なんですよ。進行性の病気でもありまして国が指定する難病なんです。日本では人口10万人に対して18.7人の患者がいると推定されていますよ。
症状とすれば、暗いところで物が見えにくいいわゆる夜盲と言う症状です。
視野が狭くなる、あるいは視力低下の3つが特徴的な症状なんですよ。
初めに暗いところで、見えにくくなるのが症状として現れると思います。
続いて、視野が狭くなって物がだんだん見えなくなったり、消えたりするようになります。
物にぶつかりやすくなったりすると言う症状も現れてきます。
さらに病状が進行すると、視力低下を自覚するようになります。
ただし、この順序には個人差があり、最初に視力低下が現れる人もいるんです。
病状は数年、あるいは数十年をかけてゆっくり進行します。
症状の進行度も順序同様に個人差がありますよね。 
網膜色素変性症では、白内障の合併も早期から見られ場合があります。
芦屋の場合は、白内障は関係ないと思います。まだ、若いので。
原因として考えられるのは、遺伝性の病気です。半数近くの人は親族にこの病気の人がいません。
遺伝的と言われるけど、実際には親族に発症者がいない例が多いのです。
網膜色素変性症の原因となる遺伝子は、これまでに40種類以上が報告されています。
これらが当てはまるのは、患者のごく一部です。
ほとんどの患者ではいまだに原因となる遺伝子が不明なんですよ。
検査は眼底検査を中心にしていきます。
眼底自発傾向などが、必要に応じて見られます。
治療としては、残念ながら現在のところ確立された治療法はありません。
しかしながら、眼病の中でも進行の遅い病気です。個人差はありますが。今のは一般的な話しです。
視力や視野が良い状態の後、進行速度を知ることが重要となります。
ロービジョンケアによって、社会生活を送りやすくする工夫が必要です。
残っている網膜の機能を最大限に活用し、見づらさを和らげて見やすくする。 
遮光性しゃこうせいのメガネがあります。
活字を見やすくするルーペや拡大鏡などもあります。
病状に合わせて使っていきましょう。
一応病状の様子を見ましょう。
これには治療をするとかそういった方法はないんですね。
病状の経過観察で目の状態がどのようになっていくかと言うことをまぁ一緒に考えてみましょう。
この病気は気長にやるしかないです。
もし目が見えなくなるんであれば、一気に見えなくなりますよ。
今のところ進行性の症状は見られませんので、ある意味ではしばらく様子を見ないとわからないと言うことになりますよね。
ちょっと気の長い話かもわかりませんけど
精一杯お手伝いさせてください。
残念ながら手術をする方法はありません。
いかに今の進行が遅くなるように経過観察で見守っていくしかないですね。
薬剤を投与して治るとか、そういった問題じゃないんですよ。
ある意味悪化すればあっという間に光を失うことになります。
その覚悟だけはしておいてください。
いずれ光を失うことになるかも分かりませんよ。
それがこの病気の怖さなんです。
1週間に1度診察に来てください。私が責任を持って診察をさせていただきますので。
ただし、言っときますけど、これの治療法は確立していませんので、あくまでも診察による経過観察だけですよ。
悪くなったからといってドタバタしても仕方ありません。
むしろ悪くなっていく方が良いのかもわかりませんよね。
まぁ今日はこの辺で診察終わりましょう
頑張ってくださいね」
愛菜は田野教授の診察を終えた。
愛菜は最早治す術はないと、素人ながらに判断した。
光を失うかもしれない。
恋人の流星に本当のことを言うべきか?
あるいは見えなくなる寸前まで、内緒にしておこうか?
愛菜は心の中で格闘するのであった。
『黙っていろ!』と悪魔が囁く。
『流星に本当のことを早く伝えて、一緒に考えるべきよ!』と天使の声が聞こえて来る。
悪魔の囁きを取るべきか!
天使の言葉を聞くべきか!
悪魔が、天使の声か!
愛菜は悩んでいた。

次回 愛菜の決断 をお楽しみに。



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