無用庵隠居清左衛門

蔵屋

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第四章

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ーーー前回までのあらすじーーー

前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として寛政の改革かんせいのかいかくを実施した。
第8代将軍徳川吉宗によって実施された享保の改革きょうほうのかいかく天保の改革てんぽうのかいかくと合わせて幕政改革の三大改革という。
松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い逼迫ひっぱくした幕府の財政で苦しんでいた。
幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。
この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。

そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は、隠居生活に入ったのである。

ある日、北町奉行所与力の渡辺格之進が
清左衛門の所へやって来た。
「奥方、清左衛門殿はご在宅かな?」
「はい。在宅しております。只今、呼んで参りまする」
「奥方、かたじけない」
しばらくすると、家の奥から清左衛門がやって来た。
「おう。これは、渡辺殿ではござらぬか」
「やあ。清左衛門殿、突然、押し掛けて申し訳ない」
「いかがなされた?」
「実は清左衛門殿。聞いてくだされ。昨日薬種問屋近江屋伊三郎が何者かによって惨殺されたのだ。現在、我々北町奉行所は一丸となって探索をしておるところでございます」
「それはなんとしたこと。何故、薬種問屋の近江屋伊三郎が殺されたのでありましょうか?店の者はなんと言っておりますか?」
「伊三郎の女房を始め、番頭や丁稚奉公のものに聞いても、何もわからないのであります。心当たりがまったくないと申すのであります」
「で、商売上のいざこざは、なかったのでありましょうか?」
「それもまったくないようなので、町方もくまなく探索しているところであります」
「分かり申した。拙者がもう一度探索することにいたしましょう」
「おお、それは、かたじけない」
こうして、清左衛門は近江屋の取引関係を探索するのであった。

近江屋伊三郎が惨殺されてから10日後のある日、丘八が清左衛門宅にやって来た。
「奥方、緒方殿はご在宅でしょうか?」
「はい。奥に居ますので、そのまま、お待ちを」
「へい」
しばらくすると、清左衛門が奥の間からやって来た。
「丘八、いかがした?」
「へい。緒方殿、近江屋の一件で面白い話しを聞いて参りました」
「おう。そうか!でかした。どんな話しじゃ」
「ヘイ。伊三郎の女房の幸のことでございます」
「ほう、いったいどのようなことなんじゃ」
「ヘイ。伊三郎の女房幸には好いていた男がいたようでして」
「ほう。好いた男がのう。いったいどのような男じゃ?」
「北町奉行所与力の東斬九郎とぬもうす男でございます」
「東斬九郎か?」
「ヘイ。緒方殿はご存知で?」
「いや、知らぬ」
「そうでございますか」
「で、幸との関係はどうじゃ」
「ヘイ。チョイチョイ、両国の船宿で会っていたようでして」
「で、その船宿におぬしは行ったのか?」
「いえ、まだ、でございます」
「そうか。すまんがその船宿で二人の関係を聞いてはくれまいか?」
「へい。お易いごようで」
「お、そうか!そうか!あいすまぬ。丘八、頼んだぞ」
「ヘイ、あっしに任せておくんなさい」
こう言って丘八は探索の為両国へ向かったのである。

ーー前回までのあらすじENDーーー

翌日、清左衛門の家に丘八がやって来た。
清左衛門は家の庭の花や草木に手桶で差し水をしていた。
「緒方殿.水やりですか」
「おー。これは丘八ではないか」
「緒方殿、聞いてきましたぜ」
「そうか。座敷で話しを聞こうか」
「ヘイ」
清左衛門は丘八をつれて中座敷に案内した。
「おーい.千歳。丘八が来た。茶菓子と茶を頼む」
「はい。分かりました」
しばらくすると、台所から千歳が茶菓子と茶を持って来た。
「どうぞ、お召し上がり下さい」
「これはどうも。勿体ないことで。頂きます」
そう言うと丘八は茶菓子を口の中に入れ、美味しそうに食べ始めた。
「奥方様、この茶菓子、甘くて美味しいお味て。ありがとうございます」
「よかった。丘八さんに喜んでもらえて(笑い)」
そう言うと千歳は台所へ向かった。
清左衛門も茶菓子を食べ、お茶を飲んでいた。
「で、丘八、どのような話しであったのじゃ」
「ヘイ、実は伊三郎が殺される前日に幸と斬九郎が船宿で、密会しておりました」
「そうか。それは丘八、でかしたそ。
おそらく、伊三郎の惨殺は斬九郎が関係していると思うぞ」
「緒方殿。聞くところによると斬九郎は剣の達人でして、そうそう北町奉行所内でも、斬九郎は好き放題のことをしておりまして、
誰も注意しないらしいんで」
「お奉行も見て見ぬふりなのか?」
「ヘイ。その通りでございます」
「ほう。それはちと厄介じょのう」
「ヘイ、厄介です」
「確か、北町奉行所と南町奉行所は毎月当番制の取締りであったのう」
「ヘイ、その通りであります」
「で、伊三郎が殺された時はどちらの奉行所が取締りをしていたのじゃ」
「ヘイ。北町奉行所です」
「そうか!それで謎が解けたぞ。ワッハハ!」
清左衛門は声を出して笑った。
「で.来月師走は北町奉行所は非番じゃな」
「ヘイ。その通りでやす」
「丘八、師走じゃ!師走!仕掛けるぞ!」
「ヘイ、緒方殿」
「わしに考えがある。お前は女房の幸を見張るのじゃ。そうじゃ。その船宿を見張るのじゃ。船宿の見張ることが出来る場所を借りるのじゃ。場所の費用はわしが負担する。お金のことは心配するなよ!」
「緒方殿、しかし斬九郎は剣の達人ですぜ!」
「大丈夫ですか?」
「まあ。斬り合いになればお互い五分と五分じゃ。恐らく一瞬で決まるであろうよ。しかし斬九郎を見逃す訳にはいかぬ。丘八、この意味分かるな?」
「ヘイ、よく分かります」
「わしは元旗本である。斬九郎のような悪人を見逃す訳にはいかぬのじゃ」
「ヘイ、よく分かります」
「そうか。分かってくれるか」
「ヘイ」

清左衛門は丘八と幸と斬九郎の始末を師走と決めて準備をするのであった。

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