無用庵隠居清左衛門

蔵屋

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第十九章

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ー(人相書)ー

 「旦那さんや女将さん達が酷い目にあったらしいことは、物音で分かりました。ですからあたし、その泥棒の顔をよく見て覚えて於いて、お上へ届けようと思ったんです。はい。その男はこっちへ顔を向けたまま、後の二人に色々と指図をしていました。はい‥‥‥あとの二人の顔はよく見えませんでした。」
 およしは、出張って来た酒井や木村に申したてたのであった。
 厠の中のおよしにとっては、随分と長い間であったろうが、実際にはごく短い間だったに違いない。
 さて、こうなると、先ずおよしの申し立てによって、その盗賊の人相描きをつくらねばならない。火付盗賊改方の人相描きを描いているのは幕府御抱えの御絵師黒川宗信の内弟子で、竹垣正信という若い絵師であった。黒川屋敷が火付盗賊改方役宅に近い中坂にあり、正信は師匠の屋敷に住み込んでいたから、万事都合がよかった。
「それでは木村、その少女を役宅へ連れて行き、すぐに正信さんに‥‥‥」と、いいかけて同心・酒井祐助が、「あ、そうか‥‥‥正信さんは故郷へ帰っていたのだな」
 「いや、他にも黒川先生のお弟子は、何人もいますよ」
と、忠吾が言ったときに、深川・今川町に住んでいて仙台原の政七といわれる御用聞きが、「もし、旦那え」
と声を掛けて来た。政七も、東玉庵の現場に出張って来ていたのである。
 「このあたりの人なら、よく知ってますが‥‥‥弥勒寺の近くに石田竹仙先生という絵師がおいでになります。へえ、この先生はなんといいますか、もう達者なものでして、土地の大店の旦那を始め、武家方の御屋敷でも注文が多いと聞いています。」と政七がいう。
 町絵師・石田竹仙は、肖像画が得意で、政七がいうには、「へえ、私も、心行寺の和尚さんの顔を描いたのを見たことがございますが‥‥‥そりゃあもう、見事なものでして‥‥‥」
「そうか。だが、盗人の人相描きだ。やってくれるだろうかなぁ?」
「大丈夫だと思いますよ。なにしろ、気さくな人ですから‥‥‥」
そこで酒井と木村が相談の結果、いずれにせよ、およしを役宅に連れて行くのなら、ちょっと寄り道をして、石田竹仙にたのんでみようかということになったのである。
 正確な人相描きが一枚あれば、それを版木にして何枚も刷ることが出来る。
「では‥‥‥」というので、木村忠吾がおよしを伴い、仙台堀の政七の案内で、弥勒橋の南詰めの北森下町の石田竹仙宅へ出向いたのであった。
 五間堀のながれに沿った竹仙の家は、小ぢんまりとしたものだが、さすがに職業柄瀟洒なつくりであった。
 「ふむ‥‥‥さようか‥‥‥よろしい。そういうことでしたら描きましょう。そりゃあまことに極悪非道の盗賊どもですなぁ。私が描いた人相描きがお役に立ってそ奴等がお縄にかかれば、こんな結構なことはない」と竹仙先生、噂の如くまことに気がおけない。
 およしは、竹仙先生に盗賊の顔の特徴を聞かれながら話したのであった。
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