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生と死のキズナ
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案の定、村雨先輩は僕の顔を見て笑い転げていた。
「ちょ、おま、なにその顔!ぶはははは!」
「村雨……笑いすぎにもほどがあるぞ」
後ろでは駅長が呆れ顔でつぶやいていた。本来なら僕は今日は出勤する日なんだけど、駅長の判断で大事を見て村雨先輩が代理勤務することになったんだ。
「つーかなんだよそのでっけー絆創膏、なんかマンガみてーだし、ぐははは!」
「いい加減黙れ村雨!」
ぱっかーん! と、先輩の脳天に時刻表の分厚い背表紙がクリーンヒットした。あれめっちゃ痛いんだよなあ……
さてさて、僕が事務所へきたのは他でもない。昨日の一件の報告書と、ケガした場所の経過報告だ。
レポートを書くなんて高校の時以来なので、きちんと書けているかどうか不安。
「うん……いいじゃろう。今回の一件に関してはわしも居合わせておるしの。ほぼこれで大丈夫じゃ」
「え、マジか。菖蒲ちゃんにやられたのかよ、あいつなかなかやるなあ」
いつの間にか村雨先輩が隣からのぞき込んでいる。菖蒲さんのこと知っているみたいだ。
「ここからちょっと離れた高校に通ってるんだ。いつもは自転車なんだけど、うちの電車に乗ってくこともよくあるんだぞ」
村雨先輩とは顔なじみらしいけど、僕はまだ通学する彼女とは出会ったことがなかった……そう。面識があれば、昨日みたいな不審者呼ばわりされることもなかったのに。これもまた運ってことかな。
ちなみに彼女、高校では空手部に所属しているとのこと。あの蹴りは本物だったんだ。
「どれ正月、顔を見せてみい、ひどくなってなければよいがの」
いわれるがままに僕は絆創膏をはがして、駅長に見せた。まだ半日しか経ってないので腫れは全然引いてないけど。
「痛みはないか? 息苦しくはないか? きちんと眠れたか? 食事はとれたか?」と駅長は矢継ぎ早に僕に聞いてきた。
しかしいくらチェックとはいえ、ここまでされるのってちょっと……
そういえば、今日の駅長は人間の姿だ。
そして、昨日は鼻がダメで全然感じなかったけど、駅長の肌ってすごくきれい。例えるならば……陶器みたいな白く澄んだような。
それに、近づいてみて分かったんだけど、とても優しい花の香りがする。
ちょうどこの時期に咲く花の……なんだっけ。
「なんかさ、こうやって見てると、駅長と正月ってまるで親子みたいじゃね?」
「「な……⁉︎」」駅長の頬が瞬時に赤くなった。
「ばばば馬鹿なことを言うんじゃないわ! わしはここの最高責任者であるが故にな、事故に遭った部下の面倒を見るのは当然のことであろうが!」
駅長、めっちゃ動揺してるんだけど⁉︎
僕の方はといえば……うん、なんか分かる。こうやって親身になってくれるなんて、ここまできちゃうともう本当に母さんみたいだ。
「未来の婿の顔を傷ものにされたら、そりゃあわしだって……」
「え、婿……?」
「あ、いや、今のはほんの例え話じゃ。真に受けとらんでよろしい」
そう言うなり、駅長は逃げるようにそそくさと駅長室へ戻ってしまった。
でも、唐突に婿だなんて……ちょっと気になって、僕は村雨先輩にいろいろ聞いてみた。
「そういえば駅長って、結婚されているんでしょうか?」
「いや、してねえよ。ずっと独身」
そうなのか……とはいえ、先輩たちの方が駅長と付き合いは長いはずだし。
と言うわけで再度チャレンジ。
駅長はいつからこの駅に来たのか、年齢はどれくらいか、どこに住んでるのか……。
でも残念ながら、ほぼ全部「わからねー」だった。
唯一答えられたのが、寝泊りは全てここでしているとの事。
つまりは、この駅こそが白妙駅長の家であり、そして勤め先でもあるというわけだ。
はあ……社長の件にしろ、昨日の子供たちのことにしろ、とにかく仕事するたびに謎が増えてくる。
まあ、いちばんの謎は駅長の存在なんだけど。
「ちょ、おま、なにその顔!ぶはははは!」
「村雨……笑いすぎにもほどがあるぞ」
後ろでは駅長が呆れ顔でつぶやいていた。本来なら僕は今日は出勤する日なんだけど、駅長の判断で大事を見て村雨先輩が代理勤務することになったんだ。
「つーかなんだよそのでっけー絆創膏、なんかマンガみてーだし、ぐははは!」
「いい加減黙れ村雨!」
ぱっかーん! と、先輩の脳天に時刻表の分厚い背表紙がクリーンヒットした。あれめっちゃ痛いんだよなあ……
さてさて、僕が事務所へきたのは他でもない。昨日の一件の報告書と、ケガした場所の経過報告だ。
レポートを書くなんて高校の時以来なので、きちんと書けているかどうか不安。
「うん……いいじゃろう。今回の一件に関してはわしも居合わせておるしの。ほぼこれで大丈夫じゃ」
「え、マジか。菖蒲ちゃんにやられたのかよ、あいつなかなかやるなあ」
いつの間にか村雨先輩が隣からのぞき込んでいる。菖蒲さんのこと知っているみたいだ。
「ここからちょっと離れた高校に通ってるんだ。いつもは自転車なんだけど、うちの電車に乗ってくこともよくあるんだぞ」
村雨先輩とは顔なじみらしいけど、僕はまだ通学する彼女とは出会ったことがなかった……そう。面識があれば、昨日みたいな不審者呼ばわりされることもなかったのに。これもまた運ってことかな。
ちなみに彼女、高校では空手部に所属しているとのこと。あの蹴りは本物だったんだ。
「どれ正月、顔を見せてみい、ひどくなってなければよいがの」
いわれるがままに僕は絆創膏をはがして、駅長に見せた。まだ半日しか経ってないので腫れは全然引いてないけど。
「痛みはないか? 息苦しくはないか? きちんと眠れたか? 食事はとれたか?」と駅長は矢継ぎ早に僕に聞いてきた。
しかしいくらチェックとはいえ、ここまでされるのってちょっと……
そういえば、今日の駅長は人間の姿だ。
そして、昨日は鼻がダメで全然感じなかったけど、駅長の肌ってすごくきれい。例えるならば……陶器みたいな白く澄んだような。
それに、近づいてみて分かったんだけど、とても優しい花の香りがする。
ちょうどこの時期に咲く花の……なんだっけ。
「なんかさ、こうやって見てると、駅長と正月ってまるで親子みたいじゃね?」
「「な……⁉︎」」駅長の頬が瞬時に赤くなった。
「ばばば馬鹿なことを言うんじゃないわ! わしはここの最高責任者であるが故にな、事故に遭った部下の面倒を見るのは当然のことであろうが!」
駅長、めっちゃ動揺してるんだけど⁉︎
僕の方はといえば……うん、なんか分かる。こうやって親身になってくれるなんて、ここまできちゃうともう本当に母さんみたいだ。
「未来の婿の顔を傷ものにされたら、そりゃあわしだって……」
「え、婿……?」
「あ、いや、今のはほんの例え話じゃ。真に受けとらんでよろしい」
そう言うなり、駅長は逃げるようにそそくさと駅長室へ戻ってしまった。
でも、唐突に婿だなんて……ちょっと気になって、僕は村雨先輩にいろいろ聞いてみた。
「そういえば駅長って、結婚されているんでしょうか?」
「いや、してねえよ。ずっと独身」
そうなのか……とはいえ、先輩たちの方が駅長と付き合いは長いはずだし。
と言うわけで再度チャレンジ。
駅長はいつからこの駅に来たのか、年齢はどれくらいか、どこに住んでるのか……。
でも残念ながら、ほぼ全部「わからねー」だった。
唯一答えられたのが、寝泊りは全てここでしているとの事。
つまりは、この駅こそが白妙駅長の家であり、そして勤め先でもあるというわけだ。
はあ……社長の件にしろ、昨日の子供たちのことにしろ、とにかく仕事するたびに謎が増えてくる。
まあ、いちばんの謎は駅長の存在なんだけど。
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