トンネルを抜けると、そこはあやかしの駅でした。

アラ・ドーモ

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生と死のキズナ

4-2

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「村雨、ちょっと話がある」
 先輩とあれこれ話している時だった。少し開いた駅長室のドアから、こいこいって手招きが。

「なんだよ、今度は俺?」と、先輩はぶつくさとボヤく。
「なんなんですかね?」「知らね」
 朝ラッシュは終わったので、駅窓口には当分の間はお客さんが来るとこはない。とは言っても、僕は今日は非番で私服だから、何かあった時僕が応対しちゃうのもマズいし……

 それに、先輩と駅長が何を話しているのかも少し気になった僕は、そっと駅長室のドアで耳をそば立てて聞いてみた。

ーすまんな村雨。代務ついでで悪いが、今夜臨時で案内番やってもらえるか?

ーはあ……俺の方は一向に構わないけど、臨時ってどんな内訳です?

ー見送りじゃ。女性が1名。でもってそこから先はいつも通りお主に任せる。

ー見送り……ね。毎度のことながら気が重くなるわ。

ー他の連中は出払っておるし……今夜はお主だけが頼りじゃ。

ー了解。深夜の手当てはおまけしといてくれよな。

ーうむ。わかっておる。よろしく頼むぞ村雨。

 案内番……そういえば、以前ここの駅の勤務表を見たときに、そんな番が書いてあったっけ。
 それも僕以外……いや、僕と時雨先輩以外は全員だったかな。
 しかし臨時で、夜中に案内っていうのも……おかしな話だ。

 駅長室から出てきた先輩に、僕はそこのとこをさり気なく聞いてみた。

「村雨先輩、勤務表見てて気になってたとこがあったんですが、案内番っていうのはどんなお仕事するんですか?」
 軽くため息ひとつ。「駅長との話、聞いてたんだろ?」って。
 バレてたか……このまますっとぼけようかなとも思ったけど、これで印象悪くされるのも嫌だし、きちんと「聞こえてました」と答えることにした。

「案内番はな……お前にはまだ無理な職種だ」
 村雨先輩は外を眺めながら、素っ気なく僕に話した。
 職種……駅の仕事というのは、本来なら仕事内容はかなり細分化されているんだ。
 列車の監視や線路、ポイントの点検を専門に行なっている職種もあれば、毎日の売り上げ計算をひたすらに行う職種もある。
 もちろん、窓口でのお客さん応対をメインにしたものも。
 でもこの駅は小さいし、電車の本数だって上下合わせて数えるほどしかない。お客さんの乗降も少なければ、無論ICカードみたいな電子化もされていない。だから、必然的に僕らは毎日、これら全て含まれたオールマイティな仕事をしているんだ。

「無理ってことは……やはり、試験とかしないとなれないタイプ……ってやつですか?」
 要はそれしかない。それなりに国家資格やらライセンスが必要な職種も少なからず存在するとは、以前の駅でちょこっと聞いていたし。
「うーん……試験はやらねーけどな。でもこればっかりはちょっと説明すんのが難しいんだよな」
「でも深夜に案内って……しかも女性」
突然、僕の方にポンと誰かが手を置いた。

「昨晩言うたであろうが正月。覚える順番ってものがあるということを」
 駅長だった。全然気配がなかったから驚いた……
「いずれこれに関してもきちんと教えてやる。お前が今やらなければいけないことは、傷を早く癒すこと。それだけじゃ」
「ぷっ、やっぱ親子そのものだよなー」
「よいではないか。わしにとっては社員はみな子供同然じゃ」
 今度は村雨先輩のイヤミを軽くかわしてくれた。駅長ナイス。

 でも、やっぱり気になってしまう……深夜に女性1人の案内をするだなんて。それも見送り。
 ここの駅周辺は観光するところもほとんど皆無な田舎だし、かと言って自分が仕事をしている時に、そんなお客さんが来たという記憶もないし。

 となったら、今夜……こっそり見てみようかな。先輩の案内とやらを。
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