「君を愛することはない」と言った旦那様が、毎晩離してくれません。 ~白い結婚のはずが、契約書にない溺愛オプションが追加されている件について

ラムネ

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第四話 雷鳴の夜と、あたたかな抱き枕

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執務室での「監視生活」が始まってから、数日が過ぎた。

私の日課は、朝食(という名の強制給餌)を終えた後、アレクシス様の執務室へ出勤することだ。 出勤といっても、私がすることは何もない。 部屋の隅に用意された専用の安楽椅子に座り、図書室から借りてきた本を読んだり、窓の外を流れる雲を眺めたりして過ごすだけだ。

「……暇だ」

私は手元の本から目を離し、小さく溜息をついた。 目の前では、アレクシス様が眉間に深い皺を刻みながら、山のような書類と格闘している。 羽ペンの走る音が、規則正しいリズムで室内に響いている。

時折、彼はふっと手を止め、顔を上げることなく言う。

「……ページをめくる音が止まったぞ。眠いなら寝ていい」

「いえ、眠くはありません。ただ、少し目が疲れまして」

「なら、茶でも飲め。セバスチャンに持ってこさせる」

彼が呼び鈴を鳴らすと、すぐに温かい紅茶とお菓子が運ばれてくる。 まるで、私は籠の中で飼われている珍しいペットのようだ。 衣食住が保証され、外敵から守られ、ただそこにいるだけでいい存在。

かつての実家での扱い――罵倒され、こき使われ、泥水をすするような生活――を思えば、ここは間違いなく天国だ。 感謝しなければバチが当たる。 頭ではそう分かっているのに、なぜだろう。 胸の奥に、小さなトゲが刺さっているような違和感が消えないのは。

(私、本当にここにいていいのかな……)

彼にとって私は、契約上の「飾り」に過ぎない。 それなのに、なぜ彼は、私の指の傷をあんなに必死に手当て(?)したり、こうして目の届く範囲に置こうとするのだろう。 「監視」だと言っていたけれど、私が逃げ出さないように見張るため? それとも、私が何か粗相をして公爵家の名を汚さないように?

チラリと彼の方を見る。 アレクシス様は、書類に没頭しているようでいて、その神経は常に周囲に張り巡らされているようだった。 完璧で、隙がなくて、近寄りがたい「氷の公爵」。

その時、窓の外が急に暗くなった。

ゴロゴロ……。

遠くで、重たい石臼を引くような低い音が響いた。

アレクシス様の手がピタリと止まる。 彼が顔を上げ、窓の方を睨むように見つめた。

「……来るな」

「え?」

「嵐だ。気圧が下がっている」

彼の言葉通り、空は急速に分厚い鉛色の雲に覆われ始めた。 先ほどまで穏やかだった日差しは遮られ、昼間だというのに夕暮れのような薄暗さが部屋を包む。

ピシャッ!

鋭い光が走り、数秒後にドォォォンという轟音が空気を震わせた。

「ひっ……!」

私は思わず肩を跳ねさせ、持っていた本を落としそうになった。 雷だ。

「……なんだ、雷が怖いのか?」

アレクシス様が呆れたようにこちらを見た。

「い、いえ、怖いというわけでは……ただ、少し驚いただけです」

私は強がって見せたが、指先が冷たくなっているのが自分でも分かった。 実は、私は雷が大の苦手だった。

実家の屋根裏部屋は、嵐の夜には地獄と化した。 薄い屋根板を叩く激しい雨音。 隙間風がヒューヒューと不気味な音を立てて吹き込み、雷が鳴るたびに建物全体が軋んで揺れる。 いつ屋根が吹き飛ぶか分からない恐怖の中で、私は破れた毛布を頭から被り、震えながら朝を待ったものだった。

『お前みたいな悪い子は、雷様にへそを取られてしまえばいいのよ!』

継母の嘲笑う声が、記憶の底から蘇る。 暗闇と轟音は、私にとって孤独と恐怖の象徴だった。

ゴロゴロ、ドガァァァン!!

先ほどよりも近くで雷が落ちた。 窓ガラスがビリビリと振動する。

「きゃっ!」

私は反射的に耳を塞ぎ、椅子の上で小さくなった。 心臓が早鐘を打ち、呼吸が浅くなる。 怖い。 ここは頑丈な公爵邸だと分かっているのに、体が勝手に恐怖を記憶しているのだ。

「……リリアナ」

不意に、目の前にアレクシス様が立っていた。 いつの間に席を立ったのだろう。 彼はしゃがみ込み、私の顔を覗き込んだ。

「顔色が悪いぞ。……やはり、怖いんじゃないか」

「も、申し訳ありません……情けないところをお見せして……」

「謝る必要はない。生理的な反応だ」

彼はそう言うと、私の耳を塞いでいた手の上から、自分の大きな手を重ねた。 温かい。 氷の公爵とは思えないほど、その掌は熱を帯びていた。

「……少し、休憩にするか」

彼は私の手を引いて立たせると、執務室の奥にあるソファへと導いた。 そして、自分が座り、その隣に私を座らせる。 密着するほどの距離ではないけれど、彼の体温が伝わってくる距離だ。

「仕事は……いいのですか?」

「あの程度の音では集中できん。それに、お前がガタガタ震えていると、気が散る」

彼はぶっきらぼうに言った。 やはり、私は邪魔なのだ。 申し訳なさで身を縮めていると、彼はふいに使用人を呼び、分厚いカーテンを閉めさせた。 さらに、暖炉に火を入れさせ、部屋の中を明るく暖かくする。

「……これで、光は見えないだろう」

「アレクシス様……」

「音はどうしようもないが、耳栓でも用意させるか?」

「いえ、そこまでは! これだけで十分です。ありがとうございます」

外の景色が遮断され、暖炉の火がパチパチと爆ぜる音だけが聞こえるようになると、私の動悸も少しずつ治まってきた。 彼はそれ以上何も言わず、ただ私の隣で本を読み始めた。 時折、雷鳴が轟くと、彼は本を持つ手を変えるふりをして、さりげなく私の肩に触れたり、背中をポンと叩いたりした。

言葉はない。 けれど、その不器用な優しさが、私の凍えた心をゆっくりと溶かしていくようだった。

          ***

その日の夜。 嵐は勢いを増し、まさに嵐の夜となった。

夕食後、私たちはそれぞれの寝床へと戻った。 いつものように、私はベッド、アレクシス様はソファだ。 しかし、今夜の雷鳴は尋常ではなかった。

ドガァァァン!! バリバリバリッ!!

まるで空が裂けたかのような轟音が、絶え間なく響き渡る。 分厚いカーテン越しにも、稲光の閃光が部屋の中を一瞬白く染めるのが分かった。

「…………」

私はベッドの中で、布団を頭まで被り、ダンゴムシのように丸まっていた。 怖い。 昼間はアレクシス様が隣にいてくれたから平気だったけれど、今は広いベッドに一人きりだ。 アレクシス様は、部屋の反対側のソファにいるはずだが、声をかけるのは憚られた。 これ以上、臆病者だと思われて呆れられたくない。

(大丈夫、大丈夫……ただの音よ。建物は崩れないわ……)

自分に言い聞かせるけれど、雷が落ちるたびに体がビクッと跳ねてしまう。 そのうち、雨音も激しくなり、窓ガラスを叩きつける音がまるで何者かが侵入しようとしているかのように聞こえてくる。

『リリアナ、開けてちょうだい……借金を返せ……』

幻聴まで聞こえてきそうだ。 過去のトラウマが、暗闇の中で増幅されていく。

ガタッ。

不意に、部屋の中で物音がした。 私は息を止めた。 雷の音ではない。もっと近く、部屋の内側からの音だ。

ペタ、ペタ、ペタ……。

足音が近づいてくる。 誰? まさか、幽霊? それとも暗殺者? 私は恐怖で悲鳴を上げそうになり、口を両手で押さえた。

そして、私のベッドの天蓋が、シャッ!と開かれた。

「ひいぃっ!!」

私は声にならない悲鳴を上げて飛び起きた。 そこに立っていたのは、暗殺者でも幽霊でもなく。

枕を小脇に抱え、不機嫌そうな顔をしたアレクシス様だった。

「……うるさい」

開口一番、彼は低く唸った。

「え……?」

「君が、ガサガサと動くからだ。衣擦れの音が気になって眠れない」

「えっ? あ、ご、ごめんなさい! じっとしていようと思ったのですが、どうしても体が震えてしまって……」

「……はぁ」

彼は深い深いため息をついた。 そして、信じられない行動に出た。 抱えていた枕を、私のベッドの空いているスペース――つまり、私のすぐ隣に放り投げたのだ。

「え?」

「詰めてくれ。そこに入る」

「はい!?」

私は耳を疑った。 入るって、どこに? このベッドに? 私と一緒に?

「あ、あの、アレクシス様!? ここは私のベッドで……いえ、もとは旦那様のベッドですが、今は私が使わせていただいていて……」

「ソファは窓際にある。雷の音がうるさくてかなわん。ここは部屋の中央だから、多少はマシだろう」

彼は淡々と言い訳を並べ立てた。 いや、公爵邸の窓は二重ガラスだし、壁も分厚い石造りだ。 ソファの位置とベッドの位置で、そこまで騒音が変わるとは思えない。 それに、もし本当に音が嫌なら、耳栓をすればいいだけではないか。

「それに、君が一人で怯えて震動を伝えてくるのが不快だ。私が隣にいれば、監視もできるし、余計な動きを封じることができる」

「余計な動きって……」

「いいから詰めろ。それとも、私が床で寝れば満足か?」

「と、とんでもないです!」

私は慌ててベッドの端へと寄った。 アレクシス様は、躊躇なくベッドに入り込んでくる。 スプリングが沈み込み、彼の重みと存在感が一気に押し寄せてきた。

心臓が破裂しそうだ。 狭いシングルベッドではない。キングサイズの巨大なベッドだ。 大人二人が寝ても余裕はある。 それでも、同じ布団の下に男性がいるという事実は、免疫のない私には刺激が強すぎる。

「……背中を向けて寝ろ」

彼は私に背を向けさせると、自分も反対側を向いて横になった。 背中合わせの状態。 直接触れてはいないけれど、背後の気配が強烈だ。

「おやすみ」

彼はそれだけ言うと、すぐに規則正しい寝息を立て始めた(ふりをし始めた)。

(ね、寝られるわけないじゃない……!)

私はカチコチに固まったまま、暗闇を見つめた。 雷はまだ鳴り止まない。 ドォォン!と大きな音がするたびに、私は反射的にビクリと体を震わせてしまう。

そのたびに、背後のアレクシス様がピクリと反応するのが伝わってくる。 怒られるだろうか。 「うるさい」と追い出されるかもしれない。

そう思って身を縮こまらせていると。

ゴソッ。

背後で布団が動いた。 そして、大きく温かい手が、後ろから伸びてきて、私の耳を塞ぐように覆った。

「……っ!」

「……じっとしていろ」

アレクシス様の声が、すぐ耳元で聞こえた。 低いけれど、甘く響く声。

「耳を塞いでいれば、少しはマシだろう」

彼は私の背中側から覆いかぶさるような体勢になり、両手で私の耳を優しく包み込んだ。 いわゆる「後ろハグ」の状態だ。 彼の広い胸板が私の背中に触れ、ドクン、ドクンという力強い心音が伝わってくる。

「ア、アレクシス様……これでは、貴方が眠れないのでは……」

「君が震えている方が迷惑だ。……これは、防音壁代わりだ」

防音壁。 随分と人間味のある、温かい壁だ。

彼の手のひらは大きく、私の耳を完全に覆ってくれた。 おかげで、雷の轟音は遠くくぐもった音に変わり、代わりに彼の心臓の音と、私の鼓動の音だけが大きく聞こえるようになった。

不思議なことに、あれほど怖かった雷への恐怖が、嘘のように消えていった。 背中から伝わる彼の体温が、冷え切っていた私の心を芯から温めてくれる。 誰かに守られているという安心感が、これほど心地よいものだとは知らなかった。

「……ありがとうございます」

私は蚊の鳴くような声で呟いた。

「……礼には及ばん。契約上の義務だ。商品に傷がつかないように管理しているだけだ」

彼は素っ気なく答えたが、耳を塞ぐ手は少しも緩められなかった。 むしろ、その腕に込められた力は、言葉とは裏腹に、私を何者からも守ろうとする意志に満ちているように感じられた。

雷雨の夜。 私は、世界で一番安全で、温かい場所で、泥のように深い眠りへと落ちていった。

          ***

翌朝。

チュンチュン……。 小鳥のさえずりが、嵐の去った爽やかな朝を告げていた。 窓の隙間から差し込む光が、まぶたを優しく叩く。

「んぅ……」

私は心地よいまどろみの中で目を覚ました。 昨日の嵐が嘘のように、静かで穏やかな朝だ。 そして何より、体がポカポカと温かい。 最高級の羽毛布団に包まれているからだろうか。いや、それにしては重みと弾力があるような……。

私はゆっくりと目を開けた。

目の前には、白かった。 白いシルクのシャツの布地が、視界いっぱいに広がっている。 そして、その下にある硬く引き締まった筋肉の感触。 トクトクと規則正しく打つ鼓動の音。

(……え?)

視線を少し上にずらすと、そこには綺麗な鎖骨と、喉仏があった。 さらに上には、整った顎のライン。 そして、閉じられた長い睫毛。

アレクシス様だ。

現状を把握するのに、私の寝起きの頭は数秒を要した。

私は、アレクシス様の腕の中にいた。 完全に、抱き枕のように抱きしめられていた。

彼の左腕は私の首の下にあり(いわゆる腕枕)、右腕は私の腰をがっしりとホールドして、逃げ場を塞いでいる。 私の顔は彼の胸板に埋もれ、私の足は彼の太ももの間に絡まっていた。

(きゃああああああああああああ!!??)

私は心の中で絶叫した。 なんだこれは。 どうしてこうなった。

昨夜は確かに、彼は背後から耳を塞いでくれただけだったはずだ。 それがどうして、朝になったらこんな密着度120%の体制になっているの!?

動けない。 彼の腕の力は強く、私が身じろぎすると、無意識にさらに強く抱きしめてくる。 彼の体温、匂い、息遣い。 すべてがダイレクトに伝わってきて、私は全身が沸騰しそうだった。

「……ん」

頭上から寝息混じりの声が漏れ、アレクシス様がゆっくりと目を開けた。 アイスブルーの瞳が、ぼんやりと宙を彷徨い、やがて目の前にある私の存在に焦点を結んだ。

「…………」

「…………」

見つめ合うこと数秒。 時が止まったかのような静寂。

アレクシス様の瞳が、徐々に見開かれていく。 そして、自分の腕の中にいる私と、自分の腕の状態を認識し、顔が一気に朱に染まった。

「わ、わわ、私は……っ!」

彼は弾かれたように私を離し、ベッドの端まで転がるように後退した。 その動きは、「氷の公爵」というよりは、純情な少年のようだった。

「ご、ごめんなさい! 私が勝手にくっついてしまったのでしょうか!?」

私も慌てて起き上がり、謝罪した。 寝相の悪さには自信がない(実家では寒くて丸まっていただけだが)。 きっと私が暖を求めて、彼にしがみついてしまったに違いない。

「ち、違う! そうじゃない!」

アレクシス様は、乱れた髪を手で押さえながら、顔を背けて叫んだ。

「これは……不可抗力だ!」

「不可抗力……ですか?」

「そうだ。昨夜は寒かった。人間は睡眠中、無意識に熱源を求める習性がある。だから、これは生物学的に避けられない現象だったのだ!」

彼は早口でまくし立てた。 昨夜は暖炉をつけていたので、室内は十分に暖かかったはずだが、そこを突っ込むのは野暮というものだろう。

「それに、君が……君が苦しそうにしていたから、気道を確保するために体勢を整えてやっただけだ!」

「き、気道の確保……ありがとうございます……?」

抱きしめることが気道確保になるのかは不明だが、彼がそう言うならそうなのだろう。 私は素直にお礼を言った。

アレクシス様は、咳払いを一つして、努めて冷静さを装おうとした。 だが、その耳はまだ真っ赤だ。

「……と、とにかく。昨夜のことは忘れろ。誰にも言うなよ」

「はい、承知いたしました。私の胸だけにしまっておきます」

「……うむ」

彼は気まずそうにベッドを降り、逃げるようにバスルームへと向かった。 その背中を見送りながら、私は自分の胸を押さえた。 心臓がまだバクバクといっている。

(不可抗力……)

彼の言葉を反芻する。 嘘でもいい。言い訳でもいい。 あの温もりと、守られている安心感は本物だった。 「愛さない」と言いながら、彼は私の恐怖を取り除き、朝までそばにいてくれたのだ。

もしかして、この人は、私が思っているよりもずっと……。

期待してはいけないと分かっていても、私の心の中に芽生えた小さな「何か」は、確実に育ち始めていた。

          ***

嵐の夜が明けてから、アレクシス様の態度は少し変わった。 以前のような冷徹な威圧感は影を潜め、どこか私を気遣うような、それでいて視線が合うとすぐに逸らすような、ぎこちない態度になった。 いわゆる「挙動不審」である。

そして、そんなある日。 夕食の席で、アレクシス様が唐突に切り出した。

「リリアナ。来週、王城でデビュタント(舞踏会)が開かれる」

「はい。……えっ?」

私はスープを飲む手を止めた。 デビュタントといえば、社交界デビューの場であり、貴族たちが一堂に会する華やかなイベントだ。

「我が家にも招待状が来ている。……お前も連れて行く」

「わ、私をですか!?」

私は仰天した。 公爵夫人として社交の場に出ることは義務かもしれないが、私は没落男爵家の娘で、礼儀作法も怪しいし、何より着ていくドレスがない。 それに、アレクシス様は「私を愛さない」「白い結婚だ」と公言しているのに、わざわざ二人で公の場に出るなんて。

「無理です! 私ごときが公爵様のパートナーとして隣に立てるわけがありません! 恥をかかせてしまいます!」

「誰が恥をかくと言うんだ」

アレクシス様は、ナイフを置いて私を真っ直ぐに見た。

「お前は私の妻だ。オルブライト公爵家の夫人だ。誰にも文句は言わせない」

その瞳には、強い意志が宿っていた。

「それに……いつまでも『隠し妻』のように思われるのも癪だ。お前が私のものだと、周囲に知らしめる必要がある」

「えっ……?」

私のもの。 その言葉の響きに、心臓が跳ねた。 それは所有物としての意味なのか、それとも……。

「明日、衣装部屋へ来い。お前のためにドレスを用意させた」

「用意……させた?」

いつの間に? 私のサイズなんて測っていないのに。 いや、そういえば、寝ている間に抱きしめられた時、彼は私の体のサイズ感を把握したのかもしれない……なんて想像をしてしまい、私はまた顔を赤くした。

「最高級のものを揃えた。……覚悟しておけ」

彼はニヤリと、不敵な笑みを浮かべた。 それは「氷の公爵」の冷たい笑みではなく、獲物を狙う肉食獣のような、自信に満ちた男の笑みだった。

嵐の夜を経て、私たちの関係は次のステージへと進もうとしていた。 社交界という名の戦場へ。 そこで待ち受けるのは、称賛か、それとも嘲笑か。 そして、アレクシス様が用意した「最高級のドレス」とは、一体どんなものなのか。

私の心は、不安と、少しの期待で震えていた。
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