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第十一話 王女の毒と、籠の鳥の決断
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嵐の前の静けさとは、まさにこのことだったのでしょう。
エメラルダ王女の帰国パーティーでの騒動から一夜が明け、公爵邸には奇妙なほど穏やかな朝が訪れていました。 窓の外では小鳥がさえずり、朝日が庭の緑を鮮やかに照らしています。
「……ん」
隣で眠るアレクシス様が、わずかに身じろぎをして目を開けました。 長い睫毛が震え、透き通るようなアイスブルーの瞳が私を映します。
「……おはよう、リリアナ」
「おはようございます、アレクシス様」
寝起きの少し掠れた声。 無防備に緩んだ口元。 世界中で私だけが見ることを許された、氷の公爵の素顔。
アレクシス様は、布団の中で私の腰に回した腕を引き寄せ、日課となった「おはようのハグ」をしてくれました。 その体温が心地よくて、私は彼の胸に顔を埋めます。
「……昨日は疲れただろう。体調は大丈夫か?」
「はい、ぐっすり眠れましたから。アレクシス様こそ……」
「私は平気だ。お前という充電器があるからな」
彼は真顔で甘いことを言いながら、私の髪に頬ずりをしました。 最近の彼は、以前にも増してスキンシップが激しい。 「契約の更新」をして以来、タガが外れたように私を愛でてくれます。 それが嬉しくて、幸せで、私はこの時間が永遠に続けばいいと願わずにはいられませんでした。
しかし。 その願いは、朝食の席で脆くも崩れ去ることになります。
「旦那様。……王城より、早馬が到着しております」
セバスチャンが、銀の盆に載せた一通の書状を運んできました。 王家の紋章が入った、重々しい封蝋。 それを見た瞬間、アレクシス様の表情から甘さが消え、瞬時にして冷徹な当主の顔へと戻りました。
「……国王陛下からか」
「はい。昨夜の件について、至急ご説明いただきたいとのことです」
アレクシス様は無言でペーパーナイフを取り、封を切りました。 手紙に目を通す彼の眉間に、深い皺が刻まれていきます。
「……やはり、エメラルダが騒いだか」
彼は忌々しげに手紙をテーブルに置きました。
「リリアナ。……すまないが、私は城へ行かねばならん」
「昨日のパーティーでのこと、ですよね……?」
私が不安げに尋ねると、彼は安心させるように私の手を取りました。
「心配するな。ただの事情聴取だ。エメラルダがお前に難癖をつけたことは多くの貴族が見ている。私が正当防衛を主張すれば、お咎めはない」
「でも……相手は王女殿下です」
「王族とて、法と道理を無視することはできん。……それに、もし理不尽な要求を突きつけられれば、私にも考えがある」
考えがある。 その言葉の響きに、私は一抹の不安を覚えました。 まさか、王家と対立してまで私を守ろうとしているのでは?
「夕方には戻る。……それまで、絶対に屋敷から出るなよ」
彼は念を押すように言い、私のおでこにキスを落とすと、慌ただしく出かける準備を始めました。 軍服に袖を通し、マントを翻して出ていく背中。 それはとても大きく、頼もしく、そして……どこか危ういほどに張り詰めているように見えました。
(ご無事で……アレクシス様)
私は祈るような気持ちで、その背中を見送りました。
***
アレクシス様が出かけてから数時間。 私は図書室で、彼から課題図書として渡された『貴族の心得』という分厚い本を開いていました。 「強くなりたい」と願った私に、彼が選んでくれた教材です。
でも、文字を目で追っても、内容は全く頭に入ってきませんでした。 心臓がずっと早鐘を打っている。 胸騒ぎが消えない。
「奥様、お茶をお持ちしました」
メイドが紅茶と焼き菓子を運んできてくれました。 湯気の立つカップに手を伸ばそうとした、その時です。
ガチャンッ。
手が滑り、カップがソーサーにぶつかって嫌な音を立てました。 紅茶が少しこぼれ、白いテーブルクロスに茶色い染みを作ります。
「あっ、申し訳ありません……!」
「いえ、すぐにお拭きします!」
メイドが慌てて布巾を取り出した瞬間。 部屋の空気が、ふわりと揺らぎました。
冷気ではありません。 熱気です。 甘く、重く、そして肌を刺すような高密度の魔力が、図書室の空間を歪ませたのです。
「……あら、相変わらず不器用なこと」
鈴を転がすような、しかし毒を含んだ声。
私は弾かれたように顔を上げました。 図書室の入り口。 そこに、いつの間にか一人の女性が立っていました。
燃えるような赤髪。 豪奢な深紅のドレス。 そして、見る者を射竦めるような翠玉の瞳。
「エメラルダ……様……!?」
私は息を呑みました。 なぜ? 玄関には衛兵がいるはず。 結界も張られているはずなのに。
「驚いた? アレクシスの氷の結界なら、確かに強固だったわ。……でも、王家の血筋だけが使える『転移の魔道具』には無力なのよ」
エメラルダ様は、手にした古びた懐中時計のようなものを弄びながら、優雅に部屋の中へと歩み入ってきました。 メイドたちが悲鳴を上げそうになるのを、彼女は一瞥で制します。
「下がっていいわよ。……少し、公爵夫人とお話ししたいだけだから」
「で、ですが……!」
「王女の命令が聞けないの?」
彼女の瞳が怪しく光り、揺らめくような炎のオーラが立ち昇りました。 メイドたちは恐怖で顔を引きつらせ、私に助けを求めるような視線を送りました。
「……大丈夫よ。下がっていて」
私は震える声を抑えて言いました。 ここで彼女たちを巻き込むわけにはいきません。
メイドたちが逃げるように退室し、重厚な扉が閉まると、広い図書室には私とエメラルダ様だけが残されました。 静寂。 本棚に囲まれた空間に、彼女のヒールの音だけがカツン、カツンと響きます。
「……何の御用でしょうか」
私は椅子から立ち上がり、努めて冷静に尋ねました。 アレクシス様から教わった通り、堂々とするように心がけて。
エメラルダ様は私の正面まで来ると、ふふんと鼻で笑いました。
「強がっちゃって。足、震えてるわよ?」
「…………」
図星を突かれ、私はドレスの裾を握りしめました。
「単刀直入に言うわね。……アレクシスを解放してあげなさい」
「解放……?」
「ええ。貴女との契約結婚のことよ」
彼女は私の向かいのソファに、許可もなくドカリと腰を下ろしました。 そして、まるで自分の城であるかのようにくつろいだ様子で足を組みます。
「貴女、アレクシスが今、どんな状況に置かれているか分かっているの?」
「……城へ、事情説明に行かれています」
「事情説明? ふふ、おめでたいわね。彼は今、査問会にかけられているのよ」
「さ、査問会……!?」
「昨日の夜会で、彼は王女である私に恥をかかせ、あまつさえ魔法で攻撃した。これは立派な反逆罪よ。通常なら、爵位剥奪、最悪の場合は処刑もあり得る重罪だわ」
処刑。 その単語が、私の頭を殴りつけました。 目の前が真っ白になる。
「もちろん、父上……国王陛下は、アレクシスの能力を高く評価しているから、すぐに処刑とはならないでしょう。でもね、条件が出されているの」
エメラルダ様は身を乗り出し、悪魔のような笑みを浮かべました。
「『身の程知らずの妻を離縁し、王家への忠誠を示せ』とね」
「……っ!」
「彼は拒否しているわ。『リリアナは私の妻だ、誰にも指図は受けない』って。……格好いいわよねぇ、そういう頑固なところも」
彼女はうっとりとした表情を浮かべましたが、すぐに冷ややかな目に戻りました。
「でも、それは彼の破滅を意味するわ。筆頭公爵家と王家の対立。内乱の火種になりかねない。……貴女一人のために、彼は国を敵に回そうとしているのよ」
「私が……彼の……」
「そう。貴女がいる限り、彼は追い詰められる。公爵としての地位も、名誉も、財産も……すべて失うことになるわ」
エメラルダ様の言葉は、一つ一つが鋭い針となって私の心臓に突き刺さりました。 私が、アレクシス様の足を引っ張っている。 私がいるせいで、彼が不幸になる。 薄々感じていた不安が、明確な事実として突きつけられたのです。
「……でも、アレクシス様は、私を選んでくださいました」
私は必死に反論しました。
「私を守ると……言ってくださいました」
「ええ、言うでしょうね。彼はそういう男だもの」
エメラルダ様は冷ややかに切り捨てました。
「彼は『氷の公爵』。一度交わした契約は、死んでも守り抜く。それが彼の矜持であり、呪いでもあるわ」
「呪い……?」
「彼は貴女を愛しているから守っているんじゃない。……『契約したから』守っているのよ」
ドクン。 心臓が止まりそうになりました。
「貴女も聞いたでしょう? 彼が最初に言った言葉。『君を愛することはない』って」
「……っ」
「あれが彼の本音よ。彼は幼い頃の両親の不仲を見て育ったから、愛なんて信じていない。だから契約結婚を選んだ。……貴女はただの『責任の対象』に過ぎないの」
違う。 アレクシス様は、私を抱きしめてくれた。 熱を出した時、ずっと手を握っていてくれた。 「一生そばにいろ」と言ってくれた。
「……彼は、契約を更新してくださいました。一生、と」
「ふふっ、本当に単純ね」
エメラルダ様は憐れむように私を見ました。
「それこそが、彼の優しさという名の残酷さよ。貴女みたいな身寄りのない、可哀想な子を放り出すのが寝覚めが悪いから、『一生面倒を見てやる』と言っただけ。……ペットを飼うのと同じ感覚ね」
ペット。 その言葉が、胸の奥底にあった劣等感を抉り出しました。 衣食住を与えられ、可愛がられ、ただ大人しくしていればいい存在。 それはまさに、飼われている動物と同じではないか。
「考えてみなさい。貴女に何ができるの? ピアノも弾けない、ダンスも踊れない、外交もできない、魔力もない。……公爵夫人としての務めが果たせるの?」
「それは……これから勉強して……」
「これから? そんな悠長な時間、彼にはないのよ!」
エメラルダ様が声を荒らげました。
「彼は筆頭公爵。国の柱よ。彼の隣に必要なのは、彼を支え、共に戦い、王家とも渡り合える力を持ったパートナーなの。……私のような、ね」
彼女は胸を張りました。 圧倒的な自信。 そして、それは悔しいけれど正論でした。 私には何もない。 彼に守ってもらうことしかできない。
「貴女が彼を本当に愛しているなら……彼のために何ができるか、分かるわよね?」
エメラルダ様は立ち上がり、私の耳元で毒のように甘く囁きました。
「彼を解放してあげなさい。……貴女が身を引けば、すべて丸く収まるわ。私が父上にとりなして、彼の罪も不問にしてあげる」
「…………」
「彼からは言い出せないのよ。契約があるから。……だから、貴女が終わらせるの」
彼女は私の手に、一枚の羊皮紙を押し付けました。 それは、離縁状のひな型でした。
「書きなさい。そして、消えなさい。……それが、彼への最後の愛よ」
エメラルダ様は満足げに微笑むと、再び転移の魔道具を取り出しました。
「夕方までには決断なさい。……彼の未来は、貴女のペン先にかかっているわ」
光と共に、彼女の姿がかき消えました。 残されたのは、手の中の離縁状と、絶望的な静寂だけでした。
***
夕方。 窓の外が茜色に染まる頃、アレクシス様が帰宅しました。
私は執務室で彼を待ちました。 いつもなら玄関まで迎えに行くけれど、今日は足が動かなかったのです。
「……リリアナ」
扉が開き、アレクシス様が入ってきました。 その姿を見た瞬間、私は息を呑みました。
「アレクシス様……そのお顔……」
彼の顔色は土気色で、ひどく疲弊していました。 いつも整っている髪も乱れ、軍服には埃がついています。 何より、その瞳には深い疲労の色が濃く滲んでいました。
「……ああ、少し長引いてな」
彼は力なく微笑み、私に近づいてきました。 そして、いつものように私を抱きしめようと腕を伸ばし――。
ガクッ。
膝から崩れ落ちました。
「アレクシス様!!」
私は慌てて彼を支えました。 彼の体は、驚くほど冷たくなっていました。 魔力を使いすぎた時の症状です。
「だ、大丈夫ですか!? 一体、城で何を……」
「……なんでもない。……少し、説教を食らっただけだ」
彼は私の肩に額を預け、荒い息を吐きました。 説教だけで、こんなになるはずがありません。 エメラルダ様の言っていた通り、彼は王家と、そして貴族たちと、たった一人で戦ってきたのです。 私を守るために。
「……リリアナ」
「はい」
「……帰りに、花屋を見かけたんだが……」
彼は懐から、くしゃくしゃになった小さな包みを取り出しました。 中に入っていたのは、一輪の白い薔薇でした。 少し花びらが傷ついてしまっていますが、凛と咲いています。
「……お前に似ていると思って、買ってきた。……本当は花束にしたかったんだが、店が閉まっていてな……」
「アレクシス様……」
こんなにボロボロになっても、私のことを考えてくれていた。 その優しさが、今は何よりも痛い。 鋭い刃物のように、私の胸を切り裂きます。
(私がいるから……貴方はこんなに傷つくのね)
エメラルダ様の言葉がリフレインします。 『貴女がいる限り、彼は追い詰められる』 『貴女はただの責任の対象』
もし、私が最初からいなければ。 彼は王女様と結婚して、もっと強大な権力を手に入れて、誰も彼に逆らえないような地位に就いていたかもしれない。 少なくとも、こんなふうに疲弊して、床に倒れ込むようなことはなかったはずだ。
「……ありがとうございます。とても綺麗です」
私は震える手で薔薇を受け取りました。 涙がこぼれないように、必死で奥歯を噛みしめます。
「……少し、眠る。……夕食までには起きるから……」
アレクシス様は、安心したように目を閉じ、そのまま深い眠りに落ちてしまいました。 私の膝を枕にして。 その寝顔は、少年のように無防備で、そしてどこか悲しげでした。
私は彼のアイスブルーの髪を、そっと撫でました。
(……大好きです)
心の中で呟きます。
(誰よりも、何よりも愛しています。……だから)
決断の時でした。 私は、彼が目覚める前に、すべてを終わらせなければなりません。
彼を重い毛布で包み、ソファに寝かせると、私は自分の机に向かいました。 手には、エメラルダ様から渡された離縁状。 そして、ペン。
インク壺にペンを浸し、震える手で文字を綴ります。 「愛している」なんて書けない。 そんなことを書けば、彼はきっと私を探し出してしまう。 彼に私を諦めさせるには、もっと冷たく、もっと残酷な言葉が必要だ。
『公爵様へ』
『短い間でしたが、お世話になりました。 夢のような生活をありがとうございました。 でも、私は疲れました。 貴族としての生活も、王家との争いも、私には荷が重すぎます。 私はやはり、身の丈に合った静かな暮らしがしたいのです。 契約は、ここで終了とさせてください。 私のことは探さないでください。 さようなら』
嘘ばかりの手紙。 紙の上が、涙で滲んでいきます。 ごめんなさい。ごめんなさい。 本当はずっとそばにいたい。 貴方の腕の中で眠りたい。 貴方の作ってくれる冷たい氷枕も、不器用なキスも、全部全部大好きだった。
でも、貴方の未来を守るためなら、私は悪者にでもなります。
書き終えた手紙と、記入済みの離縁状をテーブルの上に置きました。 その横に、彼がくれた白い薔薇と、彼に買ってもらったあのミッドナイトブルーのドレスに合うサファイアのネックレスを並べます。 私がこの屋敷から持ち出すものは、何もありません。 着てきたボロボロの服に着替え、小さな荷物だけを持って。
「……さようなら、私のアレクシス様」
眠る彼の頬に、最後のキスを落としました。 涙が一滴、彼の頬に落ちてしまいましたが、彼は気づかずに寝息を立てています。
私は音もなく立ち上がり、執務室の扉を開けました。 振り返ってはいけない。 振り返ったら、もう二度と歩き出せなくなる。
私は夜の闇の中へと、一人で歩き出しました。 嵐が来る。 そんな予感を背中に感じながら。
そして、私が姿を消した翌朝。 オルブライト公爵邸は、文字通り「凍てつく地獄」へと変貌することになります。 眠りから覚めた獅子が、最愛の伴侶を失ったことに気づいた時。 その咆哮は、国中を震え上がらせるのです。
エメラルダ王女の帰国パーティーでの騒動から一夜が明け、公爵邸には奇妙なほど穏やかな朝が訪れていました。 窓の外では小鳥がさえずり、朝日が庭の緑を鮮やかに照らしています。
「……ん」
隣で眠るアレクシス様が、わずかに身じろぎをして目を開けました。 長い睫毛が震え、透き通るようなアイスブルーの瞳が私を映します。
「……おはよう、リリアナ」
「おはようございます、アレクシス様」
寝起きの少し掠れた声。 無防備に緩んだ口元。 世界中で私だけが見ることを許された、氷の公爵の素顔。
アレクシス様は、布団の中で私の腰に回した腕を引き寄せ、日課となった「おはようのハグ」をしてくれました。 その体温が心地よくて、私は彼の胸に顔を埋めます。
「……昨日は疲れただろう。体調は大丈夫か?」
「はい、ぐっすり眠れましたから。アレクシス様こそ……」
「私は平気だ。お前という充電器があるからな」
彼は真顔で甘いことを言いながら、私の髪に頬ずりをしました。 最近の彼は、以前にも増してスキンシップが激しい。 「契約の更新」をして以来、タガが外れたように私を愛でてくれます。 それが嬉しくて、幸せで、私はこの時間が永遠に続けばいいと願わずにはいられませんでした。
しかし。 その願いは、朝食の席で脆くも崩れ去ることになります。
「旦那様。……王城より、早馬が到着しております」
セバスチャンが、銀の盆に載せた一通の書状を運んできました。 王家の紋章が入った、重々しい封蝋。 それを見た瞬間、アレクシス様の表情から甘さが消え、瞬時にして冷徹な当主の顔へと戻りました。
「……国王陛下からか」
「はい。昨夜の件について、至急ご説明いただきたいとのことです」
アレクシス様は無言でペーパーナイフを取り、封を切りました。 手紙に目を通す彼の眉間に、深い皺が刻まれていきます。
「……やはり、エメラルダが騒いだか」
彼は忌々しげに手紙をテーブルに置きました。
「リリアナ。……すまないが、私は城へ行かねばならん」
「昨日のパーティーでのこと、ですよね……?」
私が不安げに尋ねると、彼は安心させるように私の手を取りました。
「心配するな。ただの事情聴取だ。エメラルダがお前に難癖をつけたことは多くの貴族が見ている。私が正当防衛を主張すれば、お咎めはない」
「でも……相手は王女殿下です」
「王族とて、法と道理を無視することはできん。……それに、もし理不尽な要求を突きつけられれば、私にも考えがある」
考えがある。 その言葉の響きに、私は一抹の不安を覚えました。 まさか、王家と対立してまで私を守ろうとしているのでは?
「夕方には戻る。……それまで、絶対に屋敷から出るなよ」
彼は念を押すように言い、私のおでこにキスを落とすと、慌ただしく出かける準備を始めました。 軍服に袖を通し、マントを翻して出ていく背中。 それはとても大きく、頼もしく、そして……どこか危ういほどに張り詰めているように見えました。
(ご無事で……アレクシス様)
私は祈るような気持ちで、その背中を見送りました。
***
アレクシス様が出かけてから数時間。 私は図書室で、彼から課題図書として渡された『貴族の心得』という分厚い本を開いていました。 「強くなりたい」と願った私に、彼が選んでくれた教材です。
でも、文字を目で追っても、内容は全く頭に入ってきませんでした。 心臓がずっと早鐘を打っている。 胸騒ぎが消えない。
「奥様、お茶をお持ちしました」
メイドが紅茶と焼き菓子を運んできてくれました。 湯気の立つカップに手を伸ばそうとした、その時です。
ガチャンッ。
手が滑り、カップがソーサーにぶつかって嫌な音を立てました。 紅茶が少しこぼれ、白いテーブルクロスに茶色い染みを作ります。
「あっ、申し訳ありません……!」
「いえ、すぐにお拭きします!」
メイドが慌てて布巾を取り出した瞬間。 部屋の空気が、ふわりと揺らぎました。
冷気ではありません。 熱気です。 甘く、重く、そして肌を刺すような高密度の魔力が、図書室の空間を歪ませたのです。
「……あら、相変わらず不器用なこと」
鈴を転がすような、しかし毒を含んだ声。
私は弾かれたように顔を上げました。 図書室の入り口。 そこに、いつの間にか一人の女性が立っていました。
燃えるような赤髪。 豪奢な深紅のドレス。 そして、見る者を射竦めるような翠玉の瞳。
「エメラルダ……様……!?」
私は息を呑みました。 なぜ? 玄関には衛兵がいるはず。 結界も張られているはずなのに。
「驚いた? アレクシスの氷の結界なら、確かに強固だったわ。……でも、王家の血筋だけが使える『転移の魔道具』には無力なのよ」
エメラルダ様は、手にした古びた懐中時計のようなものを弄びながら、優雅に部屋の中へと歩み入ってきました。 メイドたちが悲鳴を上げそうになるのを、彼女は一瞥で制します。
「下がっていいわよ。……少し、公爵夫人とお話ししたいだけだから」
「で、ですが……!」
「王女の命令が聞けないの?」
彼女の瞳が怪しく光り、揺らめくような炎のオーラが立ち昇りました。 メイドたちは恐怖で顔を引きつらせ、私に助けを求めるような視線を送りました。
「……大丈夫よ。下がっていて」
私は震える声を抑えて言いました。 ここで彼女たちを巻き込むわけにはいきません。
メイドたちが逃げるように退室し、重厚な扉が閉まると、広い図書室には私とエメラルダ様だけが残されました。 静寂。 本棚に囲まれた空間に、彼女のヒールの音だけがカツン、カツンと響きます。
「……何の御用でしょうか」
私は椅子から立ち上がり、努めて冷静に尋ねました。 アレクシス様から教わった通り、堂々とするように心がけて。
エメラルダ様は私の正面まで来ると、ふふんと鼻で笑いました。
「強がっちゃって。足、震えてるわよ?」
「…………」
図星を突かれ、私はドレスの裾を握りしめました。
「単刀直入に言うわね。……アレクシスを解放してあげなさい」
「解放……?」
「ええ。貴女との契約結婚のことよ」
彼女は私の向かいのソファに、許可もなくドカリと腰を下ろしました。 そして、まるで自分の城であるかのようにくつろいだ様子で足を組みます。
「貴女、アレクシスが今、どんな状況に置かれているか分かっているの?」
「……城へ、事情説明に行かれています」
「事情説明? ふふ、おめでたいわね。彼は今、査問会にかけられているのよ」
「さ、査問会……!?」
「昨日の夜会で、彼は王女である私に恥をかかせ、あまつさえ魔法で攻撃した。これは立派な反逆罪よ。通常なら、爵位剥奪、最悪の場合は処刑もあり得る重罪だわ」
処刑。 その単語が、私の頭を殴りつけました。 目の前が真っ白になる。
「もちろん、父上……国王陛下は、アレクシスの能力を高く評価しているから、すぐに処刑とはならないでしょう。でもね、条件が出されているの」
エメラルダ様は身を乗り出し、悪魔のような笑みを浮かべました。
「『身の程知らずの妻を離縁し、王家への忠誠を示せ』とね」
「……っ!」
「彼は拒否しているわ。『リリアナは私の妻だ、誰にも指図は受けない』って。……格好いいわよねぇ、そういう頑固なところも」
彼女はうっとりとした表情を浮かべましたが、すぐに冷ややかな目に戻りました。
「でも、それは彼の破滅を意味するわ。筆頭公爵家と王家の対立。内乱の火種になりかねない。……貴女一人のために、彼は国を敵に回そうとしているのよ」
「私が……彼の……」
「そう。貴女がいる限り、彼は追い詰められる。公爵としての地位も、名誉も、財産も……すべて失うことになるわ」
エメラルダ様の言葉は、一つ一つが鋭い針となって私の心臓に突き刺さりました。 私が、アレクシス様の足を引っ張っている。 私がいるせいで、彼が不幸になる。 薄々感じていた不安が、明確な事実として突きつけられたのです。
「……でも、アレクシス様は、私を選んでくださいました」
私は必死に反論しました。
「私を守ると……言ってくださいました」
「ええ、言うでしょうね。彼はそういう男だもの」
エメラルダ様は冷ややかに切り捨てました。
「彼は『氷の公爵』。一度交わした契約は、死んでも守り抜く。それが彼の矜持であり、呪いでもあるわ」
「呪い……?」
「彼は貴女を愛しているから守っているんじゃない。……『契約したから』守っているのよ」
ドクン。 心臓が止まりそうになりました。
「貴女も聞いたでしょう? 彼が最初に言った言葉。『君を愛することはない』って」
「……っ」
「あれが彼の本音よ。彼は幼い頃の両親の不仲を見て育ったから、愛なんて信じていない。だから契約結婚を選んだ。……貴女はただの『責任の対象』に過ぎないの」
違う。 アレクシス様は、私を抱きしめてくれた。 熱を出した時、ずっと手を握っていてくれた。 「一生そばにいろ」と言ってくれた。
「……彼は、契約を更新してくださいました。一生、と」
「ふふっ、本当に単純ね」
エメラルダ様は憐れむように私を見ました。
「それこそが、彼の優しさという名の残酷さよ。貴女みたいな身寄りのない、可哀想な子を放り出すのが寝覚めが悪いから、『一生面倒を見てやる』と言っただけ。……ペットを飼うのと同じ感覚ね」
ペット。 その言葉が、胸の奥底にあった劣等感を抉り出しました。 衣食住を与えられ、可愛がられ、ただ大人しくしていればいい存在。 それはまさに、飼われている動物と同じではないか。
「考えてみなさい。貴女に何ができるの? ピアノも弾けない、ダンスも踊れない、外交もできない、魔力もない。……公爵夫人としての務めが果たせるの?」
「それは……これから勉強して……」
「これから? そんな悠長な時間、彼にはないのよ!」
エメラルダ様が声を荒らげました。
「彼は筆頭公爵。国の柱よ。彼の隣に必要なのは、彼を支え、共に戦い、王家とも渡り合える力を持ったパートナーなの。……私のような、ね」
彼女は胸を張りました。 圧倒的な自信。 そして、それは悔しいけれど正論でした。 私には何もない。 彼に守ってもらうことしかできない。
「貴女が彼を本当に愛しているなら……彼のために何ができるか、分かるわよね?」
エメラルダ様は立ち上がり、私の耳元で毒のように甘く囁きました。
「彼を解放してあげなさい。……貴女が身を引けば、すべて丸く収まるわ。私が父上にとりなして、彼の罪も不問にしてあげる」
「…………」
「彼からは言い出せないのよ。契約があるから。……だから、貴女が終わらせるの」
彼女は私の手に、一枚の羊皮紙を押し付けました。 それは、離縁状のひな型でした。
「書きなさい。そして、消えなさい。……それが、彼への最後の愛よ」
エメラルダ様は満足げに微笑むと、再び転移の魔道具を取り出しました。
「夕方までには決断なさい。……彼の未来は、貴女のペン先にかかっているわ」
光と共に、彼女の姿がかき消えました。 残されたのは、手の中の離縁状と、絶望的な静寂だけでした。
***
夕方。 窓の外が茜色に染まる頃、アレクシス様が帰宅しました。
私は執務室で彼を待ちました。 いつもなら玄関まで迎えに行くけれど、今日は足が動かなかったのです。
「……リリアナ」
扉が開き、アレクシス様が入ってきました。 その姿を見た瞬間、私は息を呑みました。
「アレクシス様……そのお顔……」
彼の顔色は土気色で、ひどく疲弊していました。 いつも整っている髪も乱れ、軍服には埃がついています。 何より、その瞳には深い疲労の色が濃く滲んでいました。
「……ああ、少し長引いてな」
彼は力なく微笑み、私に近づいてきました。 そして、いつものように私を抱きしめようと腕を伸ばし――。
ガクッ。
膝から崩れ落ちました。
「アレクシス様!!」
私は慌てて彼を支えました。 彼の体は、驚くほど冷たくなっていました。 魔力を使いすぎた時の症状です。
「だ、大丈夫ですか!? 一体、城で何を……」
「……なんでもない。……少し、説教を食らっただけだ」
彼は私の肩に額を預け、荒い息を吐きました。 説教だけで、こんなになるはずがありません。 エメラルダ様の言っていた通り、彼は王家と、そして貴族たちと、たった一人で戦ってきたのです。 私を守るために。
「……リリアナ」
「はい」
「……帰りに、花屋を見かけたんだが……」
彼は懐から、くしゃくしゃになった小さな包みを取り出しました。 中に入っていたのは、一輪の白い薔薇でした。 少し花びらが傷ついてしまっていますが、凛と咲いています。
「……お前に似ていると思って、買ってきた。……本当は花束にしたかったんだが、店が閉まっていてな……」
「アレクシス様……」
こんなにボロボロになっても、私のことを考えてくれていた。 その優しさが、今は何よりも痛い。 鋭い刃物のように、私の胸を切り裂きます。
(私がいるから……貴方はこんなに傷つくのね)
エメラルダ様の言葉がリフレインします。 『貴女がいる限り、彼は追い詰められる』 『貴女はただの責任の対象』
もし、私が最初からいなければ。 彼は王女様と結婚して、もっと強大な権力を手に入れて、誰も彼に逆らえないような地位に就いていたかもしれない。 少なくとも、こんなふうに疲弊して、床に倒れ込むようなことはなかったはずだ。
「……ありがとうございます。とても綺麗です」
私は震える手で薔薇を受け取りました。 涙がこぼれないように、必死で奥歯を噛みしめます。
「……少し、眠る。……夕食までには起きるから……」
アレクシス様は、安心したように目を閉じ、そのまま深い眠りに落ちてしまいました。 私の膝を枕にして。 その寝顔は、少年のように無防備で、そしてどこか悲しげでした。
私は彼のアイスブルーの髪を、そっと撫でました。
(……大好きです)
心の中で呟きます。
(誰よりも、何よりも愛しています。……だから)
決断の時でした。 私は、彼が目覚める前に、すべてを終わらせなければなりません。
彼を重い毛布で包み、ソファに寝かせると、私は自分の机に向かいました。 手には、エメラルダ様から渡された離縁状。 そして、ペン。
インク壺にペンを浸し、震える手で文字を綴ります。 「愛している」なんて書けない。 そんなことを書けば、彼はきっと私を探し出してしまう。 彼に私を諦めさせるには、もっと冷たく、もっと残酷な言葉が必要だ。
『公爵様へ』
『短い間でしたが、お世話になりました。 夢のような生活をありがとうございました。 でも、私は疲れました。 貴族としての生活も、王家との争いも、私には荷が重すぎます。 私はやはり、身の丈に合った静かな暮らしがしたいのです。 契約は、ここで終了とさせてください。 私のことは探さないでください。 さようなら』
嘘ばかりの手紙。 紙の上が、涙で滲んでいきます。 ごめんなさい。ごめんなさい。 本当はずっとそばにいたい。 貴方の腕の中で眠りたい。 貴方の作ってくれる冷たい氷枕も、不器用なキスも、全部全部大好きだった。
でも、貴方の未来を守るためなら、私は悪者にでもなります。
書き終えた手紙と、記入済みの離縁状をテーブルの上に置きました。 その横に、彼がくれた白い薔薇と、彼に買ってもらったあのミッドナイトブルーのドレスに合うサファイアのネックレスを並べます。 私がこの屋敷から持ち出すものは、何もありません。 着てきたボロボロの服に着替え、小さな荷物だけを持って。
「……さようなら、私のアレクシス様」
眠る彼の頬に、最後のキスを落としました。 涙が一滴、彼の頬に落ちてしまいましたが、彼は気づかずに寝息を立てています。
私は音もなく立ち上がり、執務室の扉を開けました。 振り返ってはいけない。 振り返ったら、もう二度と歩き出せなくなる。
私は夜の闇の中へと、一人で歩き出しました。 嵐が来る。 そんな予感を背中に感じながら。
そして、私が姿を消した翌朝。 オルブライト公爵邸は、文字通り「凍てつく地獄」へと変貌することになります。 眠りから覚めた獅子が、最愛の伴侶を失ったことに気づいた時。 その咆哮は、国中を震え上がらせるのです。
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