『「恋がしたい」ならどうぞ。私は復讐がしたいのです ――』

ラムネ

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24話 跪く男

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昼の休廷時間。 私は控室から出て、人気のない長い廊下を歩いていました。 午後の審理で判決が出るまでの、短い休息です。

「……セラフィナ!」

角を曲がったところで、待ち伏せしていた人物に呼び止められました。 ユリウス殿下です。 先ほどまでの傲慢さは消え失せ、髪は乱れ、目は血走り、まるで幽霊のような形相でした。

「お待ちしておりました、殿下。 まだ何か言い訳がございますか?」

私が足を止めると、殿下はドサリと床に膝をつきました。 プライドの高い彼が、衆目こそないものの、私の前で土下座をしたのです。

「頼む……助けてくれ!」

殿下は私のドレスの裾を掴もうとしましたが、私は一歩下がってそれを避けました。

「助ける? 何をです?」

「裁判を取り下げてくれ! このままだと僕は廃嫡されてしまう! 王太子でなくなったら、僕はただの罪人だ……何も残らない!」

「自業自得ですわ」

「違う! 全部、リディアが悪いんだ!」

殿下は顔を上げ、信じられないことを口にしました。

「あいつが唆(そその)かしたんだ! 『恋は自由だ』って、『王太子なら何でもできる』って! 僕は騙されていただけなんだ! 本当は、セラフィナ、君だけを愛していたんだ!」

見苦しい。 あまりにも見苦しくて、吐き気がするほどです。 つい数時間前まで「リディアこそ運命」と叫んでいた口で、今度は彼女に全ての責任を押し付け、私に愛を乞うている。

「思い出してくれ、セラフィナ。 昔はあんなに仲が良かったじゃないか。僕が熱を出した時、君はずっと手を握って泣いてくれただろう? あの時のように、僕のために泣いてくれよ! 君の涙があれば、裁判長だって情状酌量してくれるはずだ!」

殿下は必死に手を伸ばしてきました。 「泣いてくれ」。 それが、彼の本音でした。 私が涙を流し、感情を露わにして彼を許すこと。それが「女の幸せ」であり、彼の「救済」になると信じて疑っていないのです。

《特別条項第61条:泣かせて戻す思想の否定》。 『婚約者の情緒を操作し、涙・屈服・赦しを強要する行為は、尊厳毀損の加重要件とする』

私は懐から手帳を取り出し、ペンを走らせました。

「……今のご発言、しかと記録いたしました」

「え?」

「『リディアに唆された』。これは自身の主体性の欠如を認める自白です。 そして『泣いてくれ』という要求。 これは、私の感情を貴方様の保身の道具として利用しようとする、最も卑劣な尊厳毀損です」

私は手帳を閉じ、彼を見下ろしました。 私の瞳は、凍てついた湖面のように静かで、彼を映しても波紋一つ立ちません。

「愛? ……あいにくですが、復讐の邪魔ですわ」

「セ、セラフィナ……?」

「私は泣きません。貴方様のために流す涙は、一滴たりとも持ち合わせておりません。 貴方様が欲しかったのは『私』ではなく、『都合よく許してくれる母親代わり』だったのでしょう? 残念ながら、私は貴方様の母親ではありませんし、ママごとは卒業いたしました」

私は彼を残して歩き出しました。 背後で「待ってくれ!」「見捨てないでくれ!」という絶叫が聞こえましたが、それはもう、ただの雑音にしか聞こえませんでした。

廊下の窓から、午後の日差しが差し込んでいます。 とても明るい、処刑日和です。 さあ、終わらせに行きましょう。 貴方様がすがりついたその「過去」ごと、すべてを。
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