月のない夜に

瑠亜

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風邪

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 人間の子供は、弱い。
 すぐに体を壊すし、回復にとても時間がかかる。
 初めて少女が体を壊したのは、まだ言葉がうまく話せないころ。慣れない育児に右往左往しつつ。なかなか寝付かないときには、魔力をちょっと使って。それでも大丈夫そうだとわかったころ。


 その晩は、満月がとても綺麗だったから、窓を開けて、ずっと眺めていた。せっかくだから、小さな彼女にも見せてやろうと、僕のそばに寝かせていた。
 しかし、それがいけなかった。
 吸血鬼たる僕には、涼しいなぁという気候。しかし、それは人間で言う寒いに当たるのだと、気付かなかったのだ。
 案の定、夜風にさらされた少女は、明くる日高熱を出した。それまでピンピンしていた、走り回っていた子供が、ぱたりと倒れて動かないのだ。額に手を当てると、ものすごく熱い。
 これが熱だということも、風邪をひいた人間がこうなることも、知識としては知っていた。しかし、目の前で起こってみると、慌ててしまってどうすればいいかわからなかった。
 取り乱した僕に、使い魔の蝙蝠が、あれこれと指示をしてくれて、なんとか、看病というものをした。
 濡らしたタオルで額を冷やし、布団に寝かせて暖かくする。それでも、高熱にうなされる少女を見ていると、気が気でなかった。こうも容易く、人間は壊れるのかと、ぞっとした。
 そして、もし、このままこの子が居なくなったらと考えて、恐怖した。この温もりが永遠に失われてしまうのではないか、と一睡もすることができず、ただ少女の様子を見守った。
 こまめに、タオルを変えて。
 気付いた少女は、苦しそうにしながらも、僕ににっこりと笑った。
 まるで、心配しないで、と言うように。
 僕の心は締め付けられた。
 やがて、一昼夜寝込んだ少女は、無事回復した。
 回復してみれば、また、僕の周りを駆け回るようになったのだが、今度は転げて怪我でもするのではないかと、僕は戦々恐々となる。

 初めは、好奇心で育て始めた子。
 しかし、失いかけたその時から、確かに僕にとって失いたくない子になった。
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