聖十二騎士 〜竜の騎士〜

瑠亜

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第一章

暴走

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 ラウルは突然の聖霊に驚き、言葉を失っていた。 
《デティが危ないのです。私と供にお出でください》 
 そんなグロリアスの言葉に一番始めに反応したのは、クラストだった。 
「デティは?!」 
《場所はわかります。早くしないと、彼が動き出してしまいます》 
「……デティは、今、どこに?」 
 やっと立ち直ったラウルが問う。すると、ラウルの持っていた剣が、突然、光り出した。 
「何……」 
《一時的に私の力を貸します。それで妖魔は斬れるはず。もっとも、封印はできないので、過信は禁物ですが》 
 唖然とするラウルの前に、不意に青く輝く蝶が現れた。 
《その蝶を追って下さい。その蝶がデティの元まで導いてくれます。急いで――》
 蝶はすぐに動き出した。ラウルも、覚悟を決めて、目の前に現れた妖魔を斬る。妖魔は霧散し、消える。確かに、グロリアスの力が剣に宿っているようだった。力を確かめたラウルは、蝶を追って走り出す。その後に、他の三人も続いた。 
 街中を行く蝶を追いかけると、その前に妖魔の群れた。ラウルは、その妖魔の群れを割いていく。そうして蝶を追いながら、辿り着いたのは街の中央。 
「……時計塔。デティはここに?」 
 それを見上げて呟いたラウルを、ギアツが何かを感じたのか急かした。 
「ラウル、上の儀式場のようです!」 
「わかった!」 
 三人は塔の螺旋階段を駆け上る。最上階についた頃には、さすがに息が上がっていた。 階段を上がった目の前に見える扉。 
 ラウルは、すぐにその扉を開けて、中に飛び込んだ。ギアツ、ルシスも続く。 
「デティ!!」 
 叫んだラウルが見たのは、広い儀式場の中央でうずくまるデティの姿。 
「デティ……?」 
 静まり返るそこに、ラウルの声が響く。 
その声に反応したのか、デティがゆっくりと顔を上げる。ラウル達を認めて、灰色の目を見張り、苦しそうに、悲しそうに顔をゆがめた。そして首を横に振る。何か様子がおかしい。
「……ないで」 
 デティが何かを言った。 
「え?」 
 思わず聞き返したラウルだったが、ギアツはそれに気付く。 
「ラウル、下がって!」 
 ギアツが叫び、ラウルを引き戻す。 
「……来ないで!!」 
 デティが叫んだその瞬間、大きな霊気が爆発した。 
「なっ……」 
 言葉を失うラウル。咄嗟に張ったギアツの防壁のおかげで直接的なダメージはなかったものの、その圧力に冷や汗が背を伝う。霊圧が突風を起こす。 
「何なんだ……」 
 唖然として、ラウルが呟く。 
 デティは風の中心にいた。ゆっくりと立ち上るデティの瞳が青白く光っていた。ラウルたちに向けた顔に、表情は無い。 
 その目を見たラウルは、息を呑んだ。 
「やばい……」 
 呟くラウルに、ただ一人、デティの素性を知らないルシスが困惑したように訊く。 
「ラウル、なんなの、これ。デティは……」 
「力が開放されたんだ……」 
 ラウルの言葉に、ギアツが息を呑む。ルシスはわからないようだったが、ただ大変なことだとは理解したようだった。
 実際は大変どころではない。彼女の力は神の力だ。最高司教のギアツより、また、魔力が術者一位のルシスより、強い魔力を持っているのだ。それが暴走すれば、この場にいる者たちどころか、この塔、そして街にすら被害が及ぶ可能性がある。
「どうすれば……」 
《……これでは、もう方法は一つしかありません》 
 答えたのはグロリアスにはだった。
《デティに、同じだけの力をぶつけるのです》 
 ルシスとギアツが息を呑んだ。
「そんなことをしたら、デティは……」
《もちろん、無事では済まないでしょう。ただ、このままでは、こちら側も無事にはすまない》
「そんなのは、駄目だ」 
 ラウルが言いきった。 
「そんなのは、危険すぎる」 
《では、デティを見殺しにしますか?》 
 グロリアスは、静かに続けた。 
《それでも、同じ事ですよ。このままでは、デティの力は止まりません。制御を完全に離れ、標的を失えば、街にも被害が出るでしょう。デティの力はそういう力です》 
「そんなことになれば、デティは……」 
《もちろん、デティの体は人間と同じ。保つはずがありません》
 デティの体が壊れるのが先か、街が壊れるのが先か、そのどちらかだとグロリアスは言った。 
「……どうすれば」 
 ラウルは、ギアツに目をやる。力をぶつけるにしても、ギアツは、防壁の維持で精一杯だ。ルシスだって先ほど、精霊召喚をしたばかりで、完全じゃない。二人の魔力が完全だったとしても、この霊気に勝てるかどうかわからない。 
 魔力は特殊精神力とも言える。それが尽きれば、たとえ体が無事でも死ぬ。魔術とはそういうものなのだ。 
 ルシスもギアツもすでにぎりぎりの状態だ。ラウルは、彼らの上官だ。そんな無茶な命令は出せない。 
「僕がやるよ」 
 今まで黙り込んでいたルシスが言った。 
「僕が止める」 
「だが、お前も無事じゃ済まないんだぞ」 
 そう言うラウルを真っ直ぐ見上げ、ルシスは言った。 
「わかってるよ。僕の力の全てでも、デティには及ばない。でも、出来る事をやりたいんだ」 
「ルシス!」 
「僕は決めたよ。それに――」 
 ルシスはその青い瞳でラウルに笑いかける。 
「ラウルも、そうやって僕を助けてくれた」
 ラウルは何も言えなくなった。ルシスは、中央に立つデティに目を向ける。 
 そして、精霊召喚の詠唱を始める。しかし。 
「―――え?」 
 ルシスは止まる。 
「うそ……」 
 ルシスは顔色をかえた。
 デティに目を向けたラウルとギアツも気付いた。 
 正気を失ったように見えるデティが、泣いていた。そして、何かを呟くように、口を動かしている。 
 不意に、ギアツが気付いた。そして、青ざめる。 
「あれは――!」
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