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第一章
彼女の選択
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フェネックが消えた儀式場で、デティは力が暴れ出すのを押さえようと、蹲った。これ以上、力が暴れれば押さえ切れない。自分の意識が飛べば、この力は、この体が保つ限り、周りのすべてを砕くだろう。そうすれば、誰にも止められない。どんな被害が出るか分からない。何としても、ここで抑えなければならなかった。たとえ、自分自身の命が尽きても。
それに今なら、まだ、デティが意識して力を行使することで、被害を最小限に抑えることができるだろう。暴走する力を押しとどめることは不可能でも、その向かう方向を定めることができれば、普段の魔術と変わらない。行使される魔力を制限できないため、威力は制御不能だが、他者を害する術でなければ、近くに人がいない限り他者への影響最小限で済む。
そのとき、儀式場の扉が開け放たれた。そこにいたのは、ラウル。まさか、ここに現れるとはおもわず、デティは動揺した。そして、動揺はギリギリで堪えていた暴走を加速させる。暴れる力を抑えられず、デティは目を瞑って堪えた。
(来ないで、来ないで来ないで――)
「デティ……?」
ラウルの声が聞こえる。デティは、もうもたない。 ただ、焦りだけが増していく。
そして。
「……来ないで!!」
叫んだ途端、力が爆発する。体から力が抜ける。体の自由が奪われる。 デティは意識を保つだけで精一杯だった。
蹲ったまま、そっと目を開ける。ラウルとギアツ、ルシスの姿が見える。ギアツの防壁で、霊気の直撃は免れたようだ。
(……グロリアスがいる)
彼らのそばにある聖霊の気配に気付いて、少しだけ安心する。それならば、彼らの事は守ってくれるだろ。
このまま力を抑え込むのはもう無理だ。ならば、デティにできることをしよう。彼らを傷つけないような術式を展開する必要がある。
大量に魔力を消費し、周りへの影響が少ない術。そう考えるデティの目に、儀式場の床が映る。そこには古い文字で刻まれた陣がある。この広い儀式場で古くから行われている儀式の陣。その術式は、デティの記憶にもある。それなら、大量の魔力を消費する。それこそ、普通は5人で行う儀式なのだから、人間の数倍はあるデティの全魔力に匹敵するくらいは魔力が消費されるはずだ。
(仕方ないか……)
もう、意識を保つのも限界だった。最後にするべきことがある。力をふり絞って、デティは唱え始めた。
-----
何かを唱え出したデティの様子に、ギアツは目を見張った。
「まさか、そんな……」
唖然と呟くギアツの様子に、ラウルは焦りを覚える。
「ギアツ、どうした? デティは何を?!」
ラウルが焦るように問うと、青ざめたギアツは信じられないようにデティを見つめたまま答える。
「デティは、召喚式を、竜神召喚式を唱えてます」
ルシスが驚きの表情を浮かべる。
しかし、普通の魔術ならともかく、召喚式に関しては素人のラウルには、彼らの驚きの原因がわからない。ギアツやルシスだって、精霊召喚は行うはずだ。デティのそれは、普通の召喚式と何が違うのか。
「何だよ、それは……」
「竜神召喚式は、最高召喚だよ。竜神降臨のために聖五家の当主5人で行う式……」
ルシスが青くなって言う。その言葉でやっとラウルも事態を察した。
当主5人で行う式なのは、もちろん儀式的な意味合いもある。しかし、それ以上に、必要とされる消費魔力が半端でないからだ。軽く人間3人分の魔力は必要とされる。もちろん、召喚式自体は1人で詠唱することも可能だ。しかし、完了するところまで、人間なら魔力と精神が持たない。
「デティは、それを1人で……?」
デティは竜の娘。人間とは比較にならない魔力を持つ。それでも、体が人間である限り、その魔力にも限度がある。流石にこの召喚式を完成させれば、デティといえども全魔力を消費するだろう。魔力の枯渇は、すなわち精神の死に繋がる。精神と体は密接な関係をもつ。精神が死に瀕すれば、体も同様に死へ向かう。
それでも、デティは暴れる力に目標を与え、そこですべて消費させて暴走を止める気なのだ。その先にあるのが、たとえ自身の死であっても。
ラウルはデティに目をやる。デティは変わらず、唱え続ける。
「……やめろ、デティ!」
ラウルが叫んだ。 それが聞こえて、デティは笑みを浮かべる。
その瞬間、召喚式が完成した。 儀式場に施された魔法陣が発動する。
デティが、その儀式場が、白い光りに包まれた。
白い光りとともに、デティは力が抜けていくのがわかった。 身体中の魔力が、魔法陣に吸収され、消化されていく。このまま力を吸われ続けたら、このまま死んでしまうかもしれない。
(……それでも、ラウルたちが無事ならいいや)
そう思って、デティはただ、ラウルたちが無事であることを祈っていた。白い光の中に、輝く竜が見える。
そう、召喚式を使ったのだから、竜神が現れて当然だ。デティは思う。
(無駄にお呼びしてしまったけど、お許し下さい)
神は気紛れだという。機嫌を損ねていないことを祈る。
『全く……。変なところで私に似るなんて』
優しい声が響いた。
『……彼も大変ね。あまり彼に心配をかけさせないであげてね』
(あなたは……?)
『ディ、貴女はまだ来てはダメよ。今はその時ではないわ』
その声は優しく言った。白い光が強くなる。
それに今なら、まだ、デティが意識して力を行使することで、被害を最小限に抑えることができるだろう。暴走する力を押しとどめることは不可能でも、その向かう方向を定めることができれば、普段の魔術と変わらない。行使される魔力を制限できないため、威力は制御不能だが、他者を害する術でなければ、近くに人がいない限り他者への影響最小限で済む。
そのとき、儀式場の扉が開け放たれた。そこにいたのは、ラウル。まさか、ここに現れるとはおもわず、デティは動揺した。そして、動揺はギリギリで堪えていた暴走を加速させる。暴れる力を抑えられず、デティは目を瞑って堪えた。
(来ないで、来ないで来ないで――)
「デティ……?」
ラウルの声が聞こえる。デティは、もうもたない。 ただ、焦りだけが増していく。
そして。
「……来ないで!!」
叫んだ途端、力が爆発する。体から力が抜ける。体の自由が奪われる。 デティは意識を保つだけで精一杯だった。
蹲ったまま、そっと目を開ける。ラウルとギアツ、ルシスの姿が見える。ギアツの防壁で、霊気の直撃は免れたようだ。
(……グロリアスがいる)
彼らのそばにある聖霊の気配に気付いて、少しだけ安心する。それならば、彼らの事は守ってくれるだろ。
このまま力を抑え込むのはもう無理だ。ならば、デティにできることをしよう。彼らを傷つけないような術式を展開する必要がある。
大量に魔力を消費し、周りへの影響が少ない術。そう考えるデティの目に、儀式場の床が映る。そこには古い文字で刻まれた陣がある。この広い儀式場で古くから行われている儀式の陣。その術式は、デティの記憶にもある。それなら、大量の魔力を消費する。それこそ、普通は5人で行う儀式なのだから、人間の数倍はあるデティの全魔力に匹敵するくらいは魔力が消費されるはずだ。
(仕方ないか……)
もう、意識を保つのも限界だった。最後にするべきことがある。力をふり絞って、デティは唱え始めた。
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何かを唱え出したデティの様子に、ギアツは目を見張った。
「まさか、そんな……」
唖然と呟くギアツの様子に、ラウルは焦りを覚える。
「ギアツ、どうした? デティは何を?!」
ラウルが焦るように問うと、青ざめたギアツは信じられないようにデティを見つめたまま答える。
「デティは、召喚式を、竜神召喚式を唱えてます」
ルシスが驚きの表情を浮かべる。
しかし、普通の魔術ならともかく、召喚式に関しては素人のラウルには、彼らの驚きの原因がわからない。ギアツやルシスだって、精霊召喚は行うはずだ。デティのそれは、普通の召喚式と何が違うのか。
「何だよ、それは……」
「竜神召喚式は、最高召喚だよ。竜神降臨のために聖五家の当主5人で行う式……」
ルシスが青くなって言う。その言葉でやっとラウルも事態を察した。
当主5人で行う式なのは、もちろん儀式的な意味合いもある。しかし、それ以上に、必要とされる消費魔力が半端でないからだ。軽く人間3人分の魔力は必要とされる。もちろん、召喚式自体は1人で詠唱することも可能だ。しかし、完了するところまで、人間なら魔力と精神が持たない。
「デティは、それを1人で……?」
デティは竜の娘。人間とは比較にならない魔力を持つ。それでも、体が人間である限り、その魔力にも限度がある。流石にこの召喚式を完成させれば、デティといえども全魔力を消費するだろう。魔力の枯渇は、すなわち精神の死に繋がる。精神と体は密接な関係をもつ。精神が死に瀕すれば、体も同様に死へ向かう。
それでも、デティは暴れる力に目標を与え、そこですべて消費させて暴走を止める気なのだ。その先にあるのが、たとえ自身の死であっても。
ラウルはデティに目をやる。デティは変わらず、唱え続ける。
「……やめろ、デティ!」
ラウルが叫んだ。 それが聞こえて、デティは笑みを浮かべる。
その瞬間、召喚式が完成した。 儀式場に施された魔法陣が発動する。
デティが、その儀式場が、白い光りに包まれた。
白い光りとともに、デティは力が抜けていくのがわかった。 身体中の魔力が、魔法陣に吸収され、消化されていく。このまま力を吸われ続けたら、このまま死んでしまうかもしれない。
(……それでも、ラウルたちが無事ならいいや)
そう思って、デティはただ、ラウルたちが無事であることを祈っていた。白い光の中に、輝く竜が見える。
そう、召喚式を使ったのだから、竜神が現れて当然だ。デティは思う。
(無駄にお呼びしてしまったけど、お許し下さい)
神は気紛れだという。機嫌を損ねていないことを祈る。
『全く……。変なところで私に似るなんて』
優しい声が響いた。
『……彼も大変ね。あまり彼に心配をかけさせないであげてね』
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『ディ、貴女はまだ来てはダメよ。今はその時ではないわ』
その声は優しく言った。白い光が強くなる。
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