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6,ハリケーン
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翌朝。
「おはようございます。イヴ様。今日はいつもより早いですね」
結局あの後は何も言い出せないまま1日が過ぎてしまった。
「おはよう。ノア」
窓を開け、ハーブを焚く後ろ姿を見つめながらベッドを下りる。
「そういえば、今日から新しい護衛が______」
「失礼致します!」
私の声が、知らない男の野太い声で遮られた。
扉が大きく開かれるのが分かり、振り返った。
「おはようございます!今日から護衛になります、ベンです!」
ノックもせずに入ってくるなんて、非常識すぎるし、31には見えない力強さ。
本当に前歴が護衛なのかは不明だが、立ち振舞いはあまり良いとは言えないだろう。
そのまま、ベンはずかずかと部屋に入ってき、辺りを見回し始めた。
「素晴らしいですね。さすがアーヴェン家!」
目を大きく輝かせるその姿は幼さが残っているが、体格を見ると立派な男性だ。
ノアより数倍も大きい肩幅、身長も低くはないノアを軽々と越しているし、服の上からでも筋肉もしっかりついていると分かる程、恵まれた体つきだ。
だがそれもあってか、見た目からしたら、執事感は無く、ボディーガードのようだ。
「イヴ・アーヴェン様ですね!何かありましたら、何なりとお申し付けください!」
ベンはそれだけ言うと、扉付近に戻り、姿勢を正したまま動かなくなった。
「ノア、彼は……」
「聞きました。お気遣いありがとうございます。私達はいつも通りに過ごせば良いだけです。イヴ様も自然体で」
「そうよね」
ノアはいつもより若干表情が強張って見えるが、私に向ける微笑みだけは崩さなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「昨日は大丈夫でしたか?」
食堂に向かう途中、ノアは思い出したようにそう言った。
「久し振りにお兄様と会ったわ」
「そうなんですか。どのようなお話を?」
「婚約者がなんとか、みたいな話だった気がするわ。結局お兄様の自慢話に変わったけれど」
そう言い合う後ろからついてくる、大きい陰に都度身をすくませながらも歩き続ける。
「大変でしたね。本当に昨日は急にすみませんでした」
「構わないわ。人間だもの」
「寛大なお心、感謝します」
いつにも増して恭しく頭を下げたノアに、思わず吹き出す。
「今日はノアじゃないみたいだわ」
「そうですか?」
「若さが足りないんじゃないの?」
冗談めかしてそう言ってみた。
今日は自然にこんなことも言えてしまう。
「失礼な。これでも大人の22ですからね」
そっぽを向きながらも、声は暖かい。
「仲が良いんですね!」
不意にベンが大きい声を張り上げた。
「そうね。比較的仲が良い方だとは思うわ」
自分が思った通りに、包み隠さず言う。
「羨ましいとは思いますが、緊張感が欠けているのではないのですか?」
「それは、どういうこと?」
明らかに良からぬ言い方にむっとしながらも疑問を返す。
「執事兼護衛とは言え、本業はどちらかというと護衛の形だと聞きました。その割には見た目は強そうではありませんし、あまりにもお嬢様と護衛とは思えない会話の仕方です。年齢も低いですしね」
思っていたよりも、ベンはしっかりと物事を考えられるようだ。
勝手に能筋だと侮っていた。
「それは貴方に関係ないでしょう」
「いえ。お嬢様の護衛を数日ですがやらせてもらう者なので他人事ではありません。万が一があったらどうするおつもりですか」
「ノアは見た目に反して強いのよ。年齢も比べるべきことではないし、私達は……関わりやすい関係を作っているだけよ」
こんなくだらないことで言い争いを続けるのはベンにとっても良くないだろうし、私が言い切れば引き下がるだろう。
「お聞きしましたが、貴方は一般庶民として産まれ、護衛等の教育もあまり為されていないとか。そんな方がつくよりも、私の方が良いかと思いますが?」
考えが甘かったのか、ベンはぐいぐいと攻めてくるタイプのようだ。
そして私達を置き、誇らしげに胸を張るベン。
「私はこう見えても体育学部でトップの成績を残して卒業したんですよ」
「そうなの……それは、そうね、良かったわ」
別に大したことでもないが、ここで言っておかねば、もっと酷いことを言われそうで。
「ですよね!それなら……」
「それは今、急いで決めることでもないでしょう?ベンも凄いとは思うけれど、まだ信頼に値していないの。さ、早く食堂に行きましょう」
場が白けてしまったのを肌で感じながらも、空気を振り払うように食堂へ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日はあまり良い日では無いのだろうか。
ノアも項垂れているようで重い空気が纏ってあるみたいだし、今日の朝食もなんだか味気なかった。
「ノア」
そう声をかけると、いつものような顔だった。
「はい。どうしましたか?」
いつもより気持ち声が元気ないが、気にするほどでもない。
その表情に安堵しながら、手で招いた。
「少し相談したいことがあるの」
椅子から立ち上がり、バルコニーに歩き出す。
その際についてこようとしたベンを、私が制止した。
「ベン。悪いけどバルコニーには来ないで。廊下でも見張ってて頂戴」
「ですがバルコニーは危ない……」
「ノアが居れば十分よ」
それだけ言い切ると、先にノアをバルコニーに出し、私も続いて出たあと、外から掛けられる鍵で施錠した。
「珍しいですね。どうしました?」
「どうすれば性格が良くなるのかしら?」
昨日のお兄様の言葉が多少引っ掛かっているのもあるのだが、それよりノアと2人になって会話をしたく、その口実に過ぎなかった。
「性格、ですか?」
「お兄様に言われて。性格直したら良いのかと思ったのだけれど、どうすれば良いかが分からなくって」
「そこを気になさっていたんですか?イヴ様は今のままでも充分性格良いですよ」
「でも……」
「大丈夫です。私は知っていますから」
「え?」
ノアが言い切ったことに驚きつつも、私の頭上にはハテナのマークが浮かぶ。
「1年以上。ずっとお傍にいたんですよ」
そこで勿体ぶるように言葉を止める。
だが数秒の後、決めたように顔をあげた。
「私はずっと見ていました。グリーンランドのときも、アルレアさんのお兄様のときも、全てに寄り添ってイヴ様は答えを導き出してきました。それは性格が良くなければできません」
「グリーンランド……ね」
ノアの言っているであろうグリーンランド事件は、丁度去年の今頃だっただろうか……。
「覚えていたのね」
「当たり前です。あの時私はイヴ様がとても格好よく見えましたから」
「そう?」
「そうですよ!いつもは可愛らしいイヴ様があんな風になるなんて驚きでした」
「もう……」
恥ずかしいと言わんばかりに顔を伏せたが、ノアは思いを馳せるかのように笑った。
グリーンランドは明らかな違法労働のようにキャストをこき使っていた。
そこは結局、私とキャストの説得により改善されたらしい。
「イヴ様はいつも変なところをお考えなさりますね。でもイヴ様はイヴ様なりの良いところがたくさんあります。ご心配なさらないでください」
柔らかな笑顔を浮かべて、でもどこか真剣な眼差しで。
「ねぇ_______ノア」
北風が強く吹き、私の髪とドレスがふわりと舞った。
「私、護衛はノアが良い。ノア1人だけが_____良いの」
いつも大きな目を、更に大きく見開いて。
残念そうに再び顔を伏せて。
「____私もまだ、イヴ様と離れたくありません」
目頭が熱くなるのを感じた。
「良かったわ」
部屋に戻ると、待ちくたびれたと言うかのように、ベンがやってきた。
「ベン。少し早いけれど、もう私の心は決まっているわ。お母様のところへ、行きましょう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「イヴ。どうしたの?」
「お母様。やっぱり護衛は、ノアじゃないと駄目だわ。ノアを解雇するつもりだったのなら、取り止めて欲しいの」
「あら?でも、貴方は解雇しても構わないと、そう言っていたわよね?」
「え?」
「イヴが良くても、彼は良くないのよ。彼はまだ22で、ここに縛り付けておくのは可哀想でしょう?これは私達だけの問題じゃなく、彼への計らいでもあるわ。彼の人生を歩ませてあげたいというね」
確かに、先程は私ばかり中心で考えてしまっていた。
「現に貴方、賛成していたわよね?」
ノアが静かに頷いた。
「どういう、こと……」
「もう駄々をこねる年でも無いでしょう。あと1週間はあるのだから、その間に沢山話しておきなさい」
お母様の圧力のかかった笑顔に無理矢理頷かされ、部屋を追い出された。
「ねぇ、どういうことなの、ノア」
ベンが呼び出されている間の2人っきりの空間で、重々しい空気を振り払うように口を開いた。
「すみません。お嬢様。私は言われた通り、護衛の経験を積んでいる者ではありません。新しく来た彼の方が、よっぽど強いですよ」
「そういう、物理的な話じゃなくて……!」
「これはお嬢様の為でも、あるのですよ」
その日から、ノアはあからさまに私を避けるようになった。
行動するにもベンを挟むし、会話もベンを介する。
そんな日が続き、気付けば6日が経とうとしていた。
「おはようございます。イヴ様。今日はいつもより早いですね」
結局あの後は何も言い出せないまま1日が過ぎてしまった。
「おはよう。ノア」
窓を開け、ハーブを焚く後ろ姿を見つめながらベッドを下りる。
「そういえば、今日から新しい護衛が______」
「失礼致します!」
私の声が、知らない男の野太い声で遮られた。
扉が大きく開かれるのが分かり、振り返った。
「おはようございます!今日から護衛になります、ベンです!」
ノックもせずに入ってくるなんて、非常識すぎるし、31には見えない力強さ。
本当に前歴が護衛なのかは不明だが、立ち振舞いはあまり良いとは言えないだろう。
そのまま、ベンはずかずかと部屋に入ってき、辺りを見回し始めた。
「素晴らしいですね。さすがアーヴェン家!」
目を大きく輝かせるその姿は幼さが残っているが、体格を見ると立派な男性だ。
ノアより数倍も大きい肩幅、身長も低くはないノアを軽々と越しているし、服の上からでも筋肉もしっかりついていると分かる程、恵まれた体つきだ。
だがそれもあってか、見た目からしたら、執事感は無く、ボディーガードのようだ。
「イヴ・アーヴェン様ですね!何かありましたら、何なりとお申し付けください!」
ベンはそれだけ言うと、扉付近に戻り、姿勢を正したまま動かなくなった。
「ノア、彼は……」
「聞きました。お気遣いありがとうございます。私達はいつも通りに過ごせば良いだけです。イヴ様も自然体で」
「そうよね」
ノアはいつもより若干表情が強張って見えるが、私に向ける微笑みだけは崩さなかった。
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「昨日は大丈夫でしたか?」
食堂に向かう途中、ノアは思い出したようにそう言った。
「久し振りにお兄様と会ったわ」
「そうなんですか。どのようなお話を?」
「婚約者がなんとか、みたいな話だった気がするわ。結局お兄様の自慢話に変わったけれど」
そう言い合う後ろからついてくる、大きい陰に都度身をすくませながらも歩き続ける。
「大変でしたね。本当に昨日は急にすみませんでした」
「構わないわ。人間だもの」
「寛大なお心、感謝します」
いつにも増して恭しく頭を下げたノアに、思わず吹き出す。
「今日はノアじゃないみたいだわ」
「そうですか?」
「若さが足りないんじゃないの?」
冗談めかしてそう言ってみた。
今日は自然にこんなことも言えてしまう。
「失礼な。これでも大人の22ですからね」
そっぽを向きながらも、声は暖かい。
「仲が良いんですね!」
不意にベンが大きい声を張り上げた。
「そうね。比較的仲が良い方だとは思うわ」
自分が思った通りに、包み隠さず言う。
「羨ましいとは思いますが、緊張感が欠けているのではないのですか?」
「それは、どういうこと?」
明らかに良からぬ言い方にむっとしながらも疑問を返す。
「執事兼護衛とは言え、本業はどちらかというと護衛の形だと聞きました。その割には見た目は強そうではありませんし、あまりにもお嬢様と護衛とは思えない会話の仕方です。年齢も低いですしね」
思っていたよりも、ベンはしっかりと物事を考えられるようだ。
勝手に能筋だと侮っていた。
「それは貴方に関係ないでしょう」
「いえ。お嬢様の護衛を数日ですがやらせてもらう者なので他人事ではありません。万が一があったらどうするおつもりですか」
「ノアは見た目に反して強いのよ。年齢も比べるべきことではないし、私達は……関わりやすい関係を作っているだけよ」
こんなくだらないことで言い争いを続けるのはベンにとっても良くないだろうし、私が言い切れば引き下がるだろう。
「お聞きしましたが、貴方は一般庶民として産まれ、護衛等の教育もあまり為されていないとか。そんな方がつくよりも、私の方が良いかと思いますが?」
考えが甘かったのか、ベンはぐいぐいと攻めてくるタイプのようだ。
そして私達を置き、誇らしげに胸を張るベン。
「私はこう見えても体育学部でトップの成績を残して卒業したんですよ」
「そうなの……それは、そうね、良かったわ」
別に大したことでもないが、ここで言っておかねば、もっと酷いことを言われそうで。
「ですよね!それなら……」
「それは今、急いで決めることでもないでしょう?ベンも凄いとは思うけれど、まだ信頼に値していないの。さ、早く食堂に行きましょう」
場が白けてしまったのを肌で感じながらも、空気を振り払うように食堂へ向かった。
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今日はあまり良い日では無いのだろうか。
ノアも項垂れているようで重い空気が纏ってあるみたいだし、今日の朝食もなんだか味気なかった。
「ノア」
そう声をかけると、いつものような顔だった。
「はい。どうしましたか?」
いつもより気持ち声が元気ないが、気にするほどでもない。
その表情に安堵しながら、手で招いた。
「少し相談したいことがあるの」
椅子から立ち上がり、バルコニーに歩き出す。
その際についてこようとしたベンを、私が制止した。
「ベン。悪いけどバルコニーには来ないで。廊下でも見張ってて頂戴」
「ですがバルコニーは危ない……」
「ノアが居れば十分よ」
それだけ言い切ると、先にノアをバルコニーに出し、私も続いて出たあと、外から掛けられる鍵で施錠した。
「珍しいですね。どうしました?」
「どうすれば性格が良くなるのかしら?」
昨日のお兄様の言葉が多少引っ掛かっているのもあるのだが、それよりノアと2人になって会話をしたく、その口実に過ぎなかった。
「性格、ですか?」
「お兄様に言われて。性格直したら良いのかと思ったのだけれど、どうすれば良いかが分からなくって」
「そこを気になさっていたんですか?イヴ様は今のままでも充分性格良いですよ」
「でも……」
「大丈夫です。私は知っていますから」
「え?」
ノアが言い切ったことに驚きつつも、私の頭上にはハテナのマークが浮かぶ。
「1年以上。ずっとお傍にいたんですよ」
そこで勿体ぶるように言葉を止める。
だが数秒の後、決めたように顔をあげた。
「私はずっと見ていました。グリーンランドのときも、アルレアさんのお兄様のときも、全てに寄り添ってイヴ様は答えを導き出してきました。それは性格が良くなければできません」
「グリーンランド……ね」
ノアの言っているであろうグリーンランド事件は、丁度去年の今頃だっただろうか……。
「覚えていたのね」
「当たり前です。あの時私はイヴ様がとても格好よく見えましたから」
「そう?」
「そうですよ!いつもは可愛らしいイヴ様があんな風になるなんて驚きでした」
「もう……」
恥ずかしいと言わんばかりに顔を伏せたが、ノアは思いを馳せるかのように笑った。
グリーンランドは明らかな違法労働のようにキャストをこき使っていた。
そこは結局、私とキャストの説得により改善されたらしい。
「イヴ様はいつも変なところをお考えなさりますね。でもイヴ様はイヴ様なりの良いところがたくさんあります。ご心配なさらないでください」
柔らかな笑顔を浮かべて、でもどこか真剣な眼差しで。
「ねぇ_______ノア」
北風が強く吹き、私の髪とドレスがふわりと舞った。
「私、護衛はノアが良い。ノア1人だけが_____良いの」
いつも大きな目を、更に大きく見開いて。
残念そうに再び顔を伏せて。
「____私もまだ、イヴ様と離れたくありません」
目頭が熱くなるのを感じた。
「良かったわ」
部屋に戻ると、待ちくたびれたと言うかのように、ベンがやってきた。
「ベン。少し早いけれど、もう私の心は決まっているわ。お母様のところへ、行きましょう」
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「イヴ。どうしたの?」
「お母様。やっぱり護衛は、ノアじゃないと駄目だわ。ノアを解雇するつもりだったのなら、取り止めて欲しいの」
「あら?でも、貴方は解雇しても構わないと、そう言っていたわよね?」
「え?」
「イヴが良くても、彼は良くないのよ。彼はまだ22で、ここに縛り付けておくのは可哀想でしょう?これは私達だけの問題じゃなく、彼への計らいでもあるわ。彼の人生を歩ませてあげたいというね」
確かに、先程は私ばかり中心で考えてしまっていた。
「現に貴方、賛成していたわよね?」
ノアが静かに頷いた。
「どういう、こと……」
「もう駄々をこねる年でも無いでしょう。あと1週間はあるのだから、その間に沢山話しておきなさい」
お母様の圧力のかかった笑顔に無理矢理頷かされ、部屋を追い出された。
「ねぇ、どういうことなの、ノア」
ベンが呼び出されている間の2人っきりの空間で、重々しい空気を振り払うように口を開いた。
「すみません。お嬢様。私は言われた通り、護衛の経験を積んでいる者ではありません。新しく来た彼の方が、よっぽど強いですよ」
「そういう、物理的な話じゃなくて……!」
「これはお嬢様の為でも、あるのですよ」
その日から、ノアはあからさまに私を避けるようになった。
行動するにもベンを挟むし、会話もベンを介する。
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