生まれる前から隣にいた君へ

紫蘭

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エピローグのその先で

先輩①

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 初めはただ、憧れの先輩だった。それが恋に変わったのはいつのことだろう。先輩が明日香だけに笑いかけてくれた時だろうか。
「先輩は、トランペット吹いててね、柔らかい音楽を奏でる人だった」
 明日香は語り出す。4杯目となるワインを味わいつつ、お酒の力を借りて、昔の恋人に、自分の恋愛を。

 明日香はずっとクラリネットを吹いていた。中学の思い出は吹奏楽部一色。暇さえあれば音楽のことばかり考えていた。
 東京に引越し、高校に入ってからもそれは変わらなかった。変わったのは、30人ほどの小さなバンドから80人を超える大きなバンドになったこと。東京の高校生たちは明日香の知らないことばかり話し、キラキラしていて、全くついていけずに、ほとんど友達が出来なかったこと。

 でも、音楽だけは明日香を裏切らない。だから今まで以上に音楽に打ち込んだ。周りとの交流は積極的には取らなかった。だから、先輩とも挨拶をするぐらいで、ちゃんと話したことすらなかった。

 転機は高校1年生の冬。明日香の努力を顧問に買われて、1年生で唯一ソロコンクールへの出場権を手にした時。
 いつも明日香以外に人がいない部活開始の2時間ほど前。
 自主練習をしてた明日香に先輩は声をかけてきた。
「早いね。いつもこんな時間から練習してるの?」
 あまりにびっくりして、なんて答えたか、明日香は覚えていない。
 そこから、時々自主練習の時間が被るようになり、何気ない会話も増えた。
 トランペットの上手な先輩が、笑顔が温かい春樹先輩に変わるのはあっという間だった。
 告白は、春樹先輩からだった。
「音楽に向き合う姿勢に惚れた。なにかに一途に打ち込める明日香が好きだ」
 先輩から貰った言葉は別れた今になっても、明日香の宝物だ。

 部活では隠しつつ、こっそり付き合うようになって、先輩が高校を卒業してからは、堂々と付き合うようになった。
 先輩が好きだったからパスタのレパートリーは増えたし、先輩が好きだったバンドのファンになって一緒にライブにも行った。

 学生で6年間付き合い続けるというのはなかなか無いと思う。明日香の周りでも長くて2年~3年ぐらいまでが多かった。

 ディズニーランドに水族館、映画館、デートの定番はだいたい行った。
 春樹先輩は明日香のことをとても大切にしてくれていた。
 高校と大学で離れていた間も、明日香の受験勉強に付き合って図書館デートをしていたおかげか、特に問題はなかった。

 だから、大学生と社会人になっても続くと思っていた。
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