生まれる前から隣にいた君へ

紫蘭

文字の大きさ
14 / 25
エピローグのその先で

先輩②

しおりを挟む
 まず、会える時間が無くなった。
 学生と毎日仕事がある社会人だ。
 それでも、明日香が先輩のためだけに予定を空け、いつでも会える状態を維持しているタイプだったら違ったのかもしれない。
 でも、大学でもクラリネットを続け、サークルにバイトに趣味にとフルパワーで生活していた明日香にもそんなに時間はなかった。
 先輩の仕事がめちゃめちゃブラックだったわけじゃない。残業だって1日1時間程度。休日出勤は月に1回。
 でも、資格の勉強に毎日の仕事に、先輩は追われ、明日香に割く時間はなくなって行った。

 最後はこうなるのか。と明日香は思った。
 それはまるで、一颯との別れと同じ様。嫌いになる訳でも好きじゃなくなる訳でもない。
 ただ、自分の生活の中で相手の優先順位が少しづつ下がっていく。
 同じ轍は踏まない。そう決めて、明日香は自分から別れを切り出した。
 ちゃんとピリオドを打つという行為がどれだけ大切か知っていたから。

 明日香は思う。あのとき、7年前、ちゃんと恋人としてお別れをしていたら幼馴染に戻れていたのではないかと。
 普通に連絡をとって、またゆみさんと母親と一颯と4人で食事をする未来があったのではないかと。
 中途半端に有耶無耶にして、勝手に気まずくなって、7年という時間を無駄にしてしまったのではないかと。

 だから、母親から一颯のヘルプ要請が飛んできた時、勢いに任せて明日香は引き受けた。
 こんな勢いでもないと、下手すると2度と顔を合わせないかもしれないと思ったから。

「私には勿体ないぐらい、素敵な人だったよ。喧嘩別れしたわけじゃないし、未だにSNSでは繋がってる。仕事頑張ってるらしい」
 一颯重ね合わせていたことを悟られないように気をつけつつ、先輩について明日香は語った。
「誰かさんと違って、色んなとこ連れてってくれたし。素敵なプレゼントもくれた」
「あれは、まだ中学生だったし……。プレゼントはあげた!」 
 少しむくれた振りをして一颯は言い返す。
「カチューシャとシュシュでしょ?まだあるよ。1回も使ってないけど」
 最後の一言は一颯に聞こえるかどうかの小さな声でボソッと呟く。
「まだ持ってんの?!」
「え、そんな驚くこと?人から貰ったプレゼントだよ?とってるに決まってるでしょ」
 実際、アクセサリーボックスの一番下の引き出しに未だに一颯からのプレゼントは眠っている。そのアクセサリーBOXも今は引越しのダンボールの中だ。
「まじか、あんな昔のもの、とっくに忘れられたと思ってた」
 感慨深そうに一颯は呟く。
「ん?てか、1回も使ってないってどういうこと?確かにつけてるの見たことないけど!」
 ワンテンポ遅れて、明日香の呟きに一颯が突っ込む。
「え、だってあれ、完全に小学生の時の私の趣味だもん。貰ったのは中2の冬。可愛いとは思うけどさすがに使えないよ」
「まじかぁー、好きそうだと思って選んだのに!」
 一颯の叫び声が響き渡る。

 それからは、お互い今だから言える暴露合戦となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

君の声を、もう一度

たまごころ
恋愛
東京で働く高瀬悠真は、ある春の日、出張先の海辺の町でかつての恋人・宮川結衣と再会する。 だが結衣は、悠真のことを覚えていなかった。 五年前の事故で過去の記憶を失った彼女と、再び「初めまして」から始まる関係。 忘れられた恋を、もう一度育てていく――そんな男女の再生の物語。 静かでまっすぐな愛が胸を打つ、記憶と時間の恋愛ドラマ。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

もうあなた達を愛する心はありません

賢人 蓮
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。 差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。 理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。 セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

処理中です...