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クロネコ
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横浜市○○区○○町の月極駐車場は住宅街に位置する青空駐車場だ。顧客の多くは近くに住む人々で、子供のいる家庭も多い。
「ここ、だよな?」
将人がここに訪れるのは1年半ほど前にこの駐車場を将人の会社で借り上げるための内覧に来た時以来だった。
それ以降トラブルも無く、この近くを通ることもなかったので、場所すら曖昧だ。
「えーっと、車室番号が、たしか……」
将人は社用スマホを開き、顧客リストから藤本様の名前を探す。
「あった、12番」
12番は駐車場の1番奥の端っこの車室だった。車室に止まっているのはシルバーのセダン。
ちょうど車室の前あたりで酷い臭いが将人の鼻に届いた。
「うわ、これか」
臭いの元を探すと嫌がらせかのように運転席の扉の前にコロンとした糞が落ちていた。
たしかに車を取りに来て、この臭いで気分が悪くなり、車に乗ろうとしたら目の前に糞があれば、クレームを入れたくなるかもしれない。
「っても、これの対処って清掃会社入れるぐらしいかないだろ」
あいにく営業所から直接来てしまったため、将人の元に清掃道具はない。さすがに何も無しでこれの対処をするのは嫌だった。
将人はその場で懇意にしている清掃会社に電話をかけ、清掃を依頼した。
状況も確認して対処もした事だし営業所に戻るか、と将人が思っていた時、目の前を1匹の黒猫が横切った。
左耳の先が切られているさくら猫。鋭い金色の目と鍵しっぽが印象的だった。
「あ」
その猫は呆然とする将人を前にシルバーのセダンの横に行き、糞をしだした。
「おまえかぁ」
将人が声を出しても黒猫は逃げ出さない。
それどころかその鋭い瞳で将人をじっと睨みつけてくる。
将人は猫が嫌いでは無い。それどころか幼い頃実家で飼っていたこともあって、大の猫好きだ。今でもたまに猫が恋しくなって、近所の猫カフェに足を運ぶこともある。
それでも、
「悪いけどここに居られちゃ困るんだわ。どっか行ってくれ」
将人しっしっと黒猫を追い払う。
猫は動かない。
じーっと将人と黒猫の見つめあいが続く。
ダメだこりゃと将人が黒猫から目を逸らすと、黒猫は「にゃあ」と鳴いてシルバーのセダンに乗ってボンネットの上で昼寝を始めた。
「おまえ、それはダメだって」
将人は頭を抱える。
そんなことはお構い無しに黒猫は気持ちよさそうにすよすよと寝続けた。
「ここ、だよな?」
将人がここに訪れるのは1年半ほど前にこの駐車場を将人の会社で借り上げるための内覧に来た時以来だった。
それ以降トラブルも無く、この近くを通ることもなかったので、場所すら曖昧だ。
「えーっと、車室番号が、たしか……」
将人は社用スマホを開き、顧客リストから藤本様の名前を探す。
「あった、12番」
12番は駐車場の1番奥の端っこの車室だった。車室に止まっているのはシルバーのセダン。
ちょうど車室の前あたりで酷い臭いが将人の鼻に届いた。
「うわ、これか」
臭いの元を探すと嫌がらせかのように運転席の扉の前にコロンとした糞が落ちていた。
たしかに車を取りに来て、この臭いで気分が悪くなり、車に乗ろうとしたら目の前に糞があれば、クレームを入れたくなるかもしれない。
「っても、これの対処って清掃会社入れるぐらしいかないだろ」
あいにく営業所から直接来てしまったため、将人の元に清掃道具はない。さすがに何も無しでこれの対処をするのは嫌だった。
将人はその場で懇意にしている清掃会社に電話をかけ、清掃を依頼した。
状況も確認して対処もした事だし営業所に戻るか、と将人が思っていた時、目の前を1匹の黒猫が横切った。
左耳の先が切られているさくら猫。鋭い金色の目と鍵しっぽが印象的だった。
「あ」
その猫は呆然とする将人を前にシルバーのセダンの横に行き、糞をしだした。
「おまえかぁ」
将人が声を出しても黒猫は逃げ出さない。
それどころかその鋭い瞳で将人をじっと睨みつけてくる。
将人は猫が嫌いでは無い。それどころか幼い頃実家で飼っていたこともあって、大の猫好きだ。今でもたまに猫が恋しくなって、近所の猫カフェに足を運ぶこともある。
それでも、
「悪いけどここに居られちゃ困るんだわ。どっか行ってくれ」
将人しっしっと黒猫を追い払う。
猫は動かない。
じーっと将人と黒猫の見つめあいが続く。
ダメだこりゃと将人が黒猫から目を逸らすと、黒猫は「にゃあ」と鳴いてシルバーのセダンに乗ってボンネットの上で昼寝を始めた。
「おまえ、それはダメだって」
将人は頭を抱える。
そんなことはお構い無しに黒猫は気持ちよさそうにすよすよと寝続けた。
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