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第1章
4 番の匂いはたまらない
しおりを挟む寝グセがついた自分の髪の毛を手で撫でつけつつ、自分の部屋から出ると美味しそうな朝ご飯の匂いがしてきた。
歩く振動で首周りが大きめにあいている寝間着が横にずり落ち、左肩の素肌が露わになる。
首元が詰まっている服が苦手で、母さんに大きめの寝間着を頼んでいるシャウは肩から落ちた寝間着を引っ張り上げながら、下に降りていく。
「おはよう、シャウ」
起きてきた僕に気付いた母さんが明るい元気な声でキッチンから顔を覗かせて、朝の挨拶をしてきた。
「おはよう…」
まだ眠い目を擦りながら、挨拶を返すと、母さんが苦笑した。
「そんな格好のままで、二人の前に立つのは恥ずかしいことよ。早く着替えてらっしゃい」
寝起きでまだ頭がぼやけているシャウは、頭の中に言われた言葉の内容が入ってくるのが遅かった。
母さんの言葉に疑問を覚えていると、ガタンと音がする。
音がなった方を見ると、ラオスとイラザが椅子から立ち上がったまま目を見開いて固まっていた。
(えっ? なんでいるの?)
こんなに朝早くから二人がいることなんて、小さい頃お泊まり会をして以来だ。
昨日二人が泊まるなんて言っていなかったと思うけど、僕が寝た後泊まることになったのかな?
とりあえず、朝の挨拶をしないと母さんに叱られると思い、二人に笑いかける。
「おはよう、ラオス、イラザ」
「「 ……… 」」
挨拶しても返事が返ってこなかった。
(あれ? 立ったまま寝てるのか?)
少し近づいて見てみると、目の下に隈があり、顔には殴られた後?や擦り傷があり、目が充血していた。
もしかして夜なか中、父さんにしごかれてたのか?
「大丈夫?」
あまりにも反応がないので心配になって、二人の肩を叩こうと手を伸ばす。
ブシャー
ブシャー
「っおぁ!?」
すごい勢いで二人の鼻から鼻血が飛び出してきた。
あまりのことに驚いてシャウも固まってしまった。
(…なにこれ、…なんか、こわい)
ここまできても一言も発さない、いつもと違いすぎる二人の様子に気味の悪さを感じる。
僕の声に料理を作っていた母さんは振り返り、二人の鼻血を被った僕と鼻血をダラダラと流したままの二人を見て、ため息を吐きながら近寄ってくる。
「ラオスとイラザはこの布で鼻を押さえてその椅子に座ってなさい」
二人は母さんから手渡された布を受け取ると、のろのろと椅子の方へ歩き出す。
母さんは二人の様子を確認したあと、僕に向き直り、安心させるように柔らかく笑った。
母さんには僕が二人のことで戸惑っているのが分かっているみたいだ。
「ちょっと刺激が強すぎたみたいね。先にお風呂に入ってきなさい」
母さんの言葉に、二人の方から「ウッ」と言う声が聞こえてきた。
その声にビクッとすると、母さんが優しく肩を叩いてお風呂に促された。
***
お風呂から上がってくると、ラオスとイラザはまだ椅子に横になっていた。
朝食が並んだテーブルには、僕がお風呂に入っている間に起きてきていた父さんがひとりで朝食を食べていた。
「父さん、おはよう」
「あぁ、おはよう、シャウ」
朝の挨拶で父さんの頬にキスをすると、父さんからもキスを返される。
突然、突き刺さるような視線を感じて、そちらの方を見てみると、ラオスとイラザが布の隙間から僕をガン見していた。
二人にどうしてそんな目で見られているのか分からない。
無意識に父さんにギュッと抱きつく。
「羨ましいだろう」
父さんの言葉に、僕に言っているのかと父さんをみると、父さんは二人を見ながらニヤニヤしていた。
ラオスとイラザのほうを見ると唇を噛み、眉間にしわを寄せていた。
父さんは昔からラオスとイラザをからかってからかって可愛がっていた。
からかうのが父さんの二人への愛情表現なのは分かっているけど、今日はやめて欲しかった。
「ガルア、子供達をからかってはいけないわ、大人気ないわよ」
母さんの言葉に父さんは肩をすくめる。
「このくらいは耐えられないとこれからやっていけないからな。大変な思いをするのはシャウなんだぞ?」
「あら、こんなことくらい苦もないでしょう? ガルアだって出来たことですもの、ね?」
最後の「ね?」に二人の体がビクッとして二人の尻尾が縮こまる。
母さんが優しく言っているのに、ちょっと恐く感じるのは気のせいかな。
「さあ、シャウ、ラオス、イラザも早くご飯食べちゃいなさい」
「はい」
シャウは自分の席に着くために父さんから離れる。
しかし寝ている二人は動き出す気配がなかった。
まだ鼻血が止まらないのだろうか。ちょっと心配になって、二人に近づく。
「ラオス、イラザ、まだ鼻血が止まらないの?」
二人の様子を見るために覗き込もうとしたら、二人の手が伸びてきた。
シャウの左手をラオスが、右手をイラザががしっと掴み、シャウの手は二人の鼻に近づけられる。
ラオスは左手の匂いを嗅ぎ、うっとりとした目をしてより口に近づけ、シャウの手首の内側を嘗める。
イラザは右手の指先を鼻に近づけ、匂いを吸い込み、舌を伸ばすとシャウの指先を嘗める。
「うぇ!?」
驚きのあまり、変なところから声が出た。
(なになになになに!?!?)
ラオスとイラザのよく分からない行動に、目から情報は入ってくるけれど、脳が理解するのを拒否していた。
「ラオス」
「イラザ」
父さんと母さんの地を這うような声が同時に聞こえ、一緒に殺気まで感じる。
その声に二人はビクリと体を震わせると、僕の手を離し、何故か名残惜しそうに見つめられる。
そして二人から深い深いため息が聞こえてきた。
「……………生殺しだろ」
「……………生殺しですね」
苦しそうにボソリと呟かれた声はシャウの耳には届いていなかった。
「お前達も早く飯を食え! 腹が減ってるだろ」
「「はい、いただきます」」
父さんの声にラオスとイラザは背筋をピンと伸ばし、慌てて席に着く。
僕もつられるように、慌てて自分の席に座る。
「「「いただきます」」」
三人の声が合わさり、パクリと食べる。
食べると、口いっぱいに美味しさが広がる。
(んー、今日も母さんのご飯は美味しい)
美味しいご飯に幸せを噛みしめていると、さっき起こったことはもうどうでもよくなった。
ちらりと横を見るとラオスもイラザも美味しそうにご飯を食べていた。
(お腹が空きすぎて、僕の手を舐めたのかな?)
シャウの勘違いは誰にも正されることはなかった。
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