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第1章
7 かわいいと言われて
しおりを挟む「じゃあ、父さん達は役場に寄ってから、ミイシアの所へ行ってくる。シャウはどうする?」
「僕はこのまま見学しててもいい?」
「ん?そうだな。ラオスとイラザがいれば大丈夫か。終わったらまっすぐ帰ってくるんだぞ」
「はい」
手を振って父さん達を見送ったあと、訓練場を振り返ると、隊員達は訓練を開始していた。
地面が荒れているところには、数人の隊員達が残って地面の補修をし始めていた。
「あ、僕も手伝うよ」
声をかけて走り出そうとしたら
「こちらは大丈夫ですよ」
「シャウ様はそちらの椅子にかけて見学なさってください」
警備隊に入ったばかりの新人隊員が補修担当になったらしく、慌ててシャウをとどめる。
僕は走り出そうとした足を止め、新人隊員の仕事を奪ってはいけないと言われていたことを思い出した。
「わかった。父さん達が迷惑をかけてごめんなさい。宜しくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、新人隊員も笑顔でお任せくださいと返してくる。
「シャウ、じゃあ、あっちで見学するか?」
副隊長のザンガがシャウに声をかけてきたので頷き、ザンガのあとに着いていく。
その後からラオスとイラザもついてくる。
◆◆◆◆◆
『シャウ様可愛いよな~』
『ほんと、ほんと、めちゃくちゃ可愛いよな!』
『こんな下っ端の俺達にも親しげに声をかけてくれるし』
『笑顔が可愛いし』
『あのふわふわの髪の毛に触れてみたいな』
『なー、ガルア族長やウルガ隊長みたいに頭をなでなでしてみたい』
遠くの方で、新人隊員達がボソボソと話す話し声がラオスとイラザの耳に入ってくる。
ラオスとイラザはとても耳が良く普通なら聞き取れない距離の声も拾えてしまう。
シャウは目の前の訓練に夢中で聞こえていないようだ。
二人は目を合わせると一つ頷き、シャウに声をかける。
「シャウ、俺達も少し訓練してくるよ」
シャウから了承を得ると、少し離れ、地面の補修が終わったのを見計らい、新人隊員達に近づいていく。
「俺達に稽古をつけて貰えませんか?」
警戒されないように笑顔で話しかける。
「いいですよ」
と、新人隊員達は安請け合いをして、訓練剣を手にラオスとイラザの前に対峙する。
「「お願いします」」
一声かけ、目の前にいる新人隊員に鋭い一手を繰り出す。
初手ですでに俺達の速さについてこれていないのが分かったが、手加減をするつもりはラオスにもイラザにも欠片もなかった。
(お前達がシャウに近づくなんて百年早いんだよ)
(シャウが優しいからといって、シャウに触れたいと思うなど烏滸がましい。自分達の実力を思い知ればいい)
嫉妬に駆られたラオスとイラザに新人隊員達はコテンパンにされていた。
◆◆◆◆◆
「おーおー、手加減なしで潰しやがって、ほんと青いな」
「この後、あいつら見回りの仕事があるって言うのに…、まあ、自分の不手際には責任をとってもらわないとな」
「そうだな。見回りはラオスとイラザに任せればいいだろう。頭を冷やすにはちょうどいいんじゃないか?」
少し離れたところでラオス達を見ていたベテランの隊員達は、僕には今ひとつ理解できない会話をしていた。
「シャウ、俺が家まで送り届けるから、ラオスとイラザを借りてもいいか?」
「大丈夫です。宜しくお願いします」
父さんはラオスとイラザに僕の護衛を頼んでいたけれど、仕事がある時はそちらを優先させてくれとも言っていたので一つ返事で了承した。
父さんはすごく過保護で一人で出歩くことは許してくれない。
前に一人で帰ったとき父さんにすごく泣かれて、その後父さんが何処に行くにも着いてくるようになり、父さんの仕事が滞って周りに迷惑をかけていることを知ったときに、護衛をなくすことを諦めた。
だから、小さい頃から一緒に育ったラオスとイラザに護衛兼遊び相手を頼んでいた。
そして、ラオスとイラザが一緒に居られないときは、警備隊のベテラン隊員の人が代わりを務めてくれていた。
ラオスとイラザを呆れたように見ていたベテランの隊員達は、シャウに優しい目を向ける。
「それにしても、ちょっと見ない内に可愛くなったなー」
「ミイシアさんに似てきたんじゃないか?」
「もう、一人の女性として接しなければ、怒られるかな?」
僕が歩き始めたくらいから父さんに連れられて訓練場にきていたので、ベテランの隊員達からは猫可愛がりされていた。小さい子供を可愛がる構いかたから、突然の女性扱いにびっくりする。
副隊長のザンガにエスコートするように手を差し出され、ちょっと恥ずかしかったけれど、澄まし顔で手を重ねる。
「宜しくお願いします」
大人の女性扱いが照れくさくもあり、嬉しくもあり、シャウははにかんで笑った。
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