シャウには抗えない

神栖 蒼華

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第1章

 8 獲物捕獲

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今日は週に一度の狩りの日。
増えすぎた獣を捕獲したり、乱獲されていないか確認したりする。

森の入り口付近で今日の狩りに参加する男性陣が30名ほど集まっていた。
警備隊の隊員や傭兵、商店の強者が肩慣らしに参加している。

「おはようございます。本日の獲物はトントン30頭とコクチョウ15羽です。トントンは最近数が増え人里の畑を荒らしているという報告が上がっています。コクチョウは人に攻撃的な様子が見られることから、向かってきたコクチョウだけ捕獲でお願いします。いずれも成獣しているものだけで、子獣は傷つけず手放してください」

警備隊隊長のウルガが声を張り上げる。

「宜しく頼む!」

その後、族長である父さんの言葉に、数人のグループになって各所へ散っていく。

「父さん、僕たちも行ってくるね」
「ああ、気をつけて行ってこい」

ハーイと返事をして駆け出す。もちろん隣にはラオスとイラザが肩を並べている。
腕と足に獅子の力を出しているので、軽々と樹の枝枝を渡っていく。




森の樹々の隙間から差し込む陽の光が気持ちいい。

吹き抜ける風がシャウの白銀の髪をもてあそびながら去っていく。吹き抜けた風で閉じていた瞼を開けると、陽の光が紅紫色の瞳に反射して輝いているように見えた。

その姿をラオスとイラザが別の枝に乗って見とれていたことには気がついていない。


ガサッ…

5メートルくらい離れたところで、下の背の低い木が揺れていた。
息を潜め待っていると、一頭のトントンが野菜をくわえて顔を出してきた。
どこかの畑から盗んできた野菜なのだろう。
少し広い場所に移動すると、咥えていた野菜を離し食べ始めた。

シャウはラオスとイラザに視線を送ると、二人は頷きかえす。

シャウは足場の枝を蹴ると、音もなくトントンの真上にジャンプする。
落下する重力を利用して手刀を繰り出した。

「ギャウン」

唸り声をあげて倒れるかと思われたトントンは一度体勢を崩した後、力を振り絞って逃げようとした。
そこにラオスが僕と同じ所に手刀を決める。

トントンは音もなく倒れた。

「ごめん、ラオス」

力なく項垂れる僕の頭に手を乗せ、慰めるようにぽんぽんとする。

「こういうことは俺達に任せておけばいいんだよ。トドメは俺達がさす」

ラオスがぶっきらぼうに言葉をかけてくれば、イラザも同様に優しい言葉で声をかける。

「そうですよ。シャウは優しすぎるんですから、出来なくていいんです」

二人の言葉にシャウは涙がにじみそうになる。
こんなことで泣くなんて情けなさすぎる。ぐっと唇を噛みしめ、出てきそうになる涙を堪える。

「…優しくなんてないよ。一撃で仕留めないと苦しむ時間が長くなるのに」

(それが出来なかったんだから全然優しくなんてない)

捕獲するときは苦しませずに、一撃で仕留めるのが当たり前とされていた。
捕獲するのは、こちらの都合であってトントン側からすれば生きるために食料を探しているだけなのである。だからこそ、無駄な殺生はしてはいけないし、苦しませずに仕留めるのが礼儀だといわれている。
そういう理由で、狩りに参加する者達は全員手練れでなければいけない。

それなのに僕はやっぱり一瞬躊躇してしまったのだろう。だから力が入りきらず結果トントンを苦しめてしまった。
族長の娘なのに、やるべき事は頭では理解しているのに、やりきる覚悟が足りない自分の心の弱さが嫌になる。


「とりあえず、一度戻るか」
「そうですね。現状の確認もしないといけませんし、戻りましょう、ね? シャウ?」

少しの沈黙の後、いつもの明るさで話しかけてきたラオスとイラザに、こんな気持ちのままではいけないと気付き、深く深呼吸する。

「そうだね」

できる限り明るく見えるように笑って頷く。
ラオスの肩には既にトントンが担がれていた。

「じゃあ、誰が先に戻れるか競争だな。行くぜ」

こちらの同意も確認せず、ラオスが走り出した。

「せこいですね。そんなことをしなければ勝てないと言っているようなものですよ」

ため息を吐きながら、僕を見ると

「今回はシャウがビリでしょうかね?」

ニコリと笑ってラオスを追っていく。

「! …僕がビリな訳ないだろ?一番になるのは僕だ」

前を走る二人に叫びながら追いかける。

シャウの顔には自然と笑顔が浮かんできた。










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