シャウには抗えない

神栖 蒼華

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第1章

 6 ライバルの壁は越えられる?

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ウルガ達を眺めていた父さんは、何かを思いついたのかウルガの肩を叩く。

「よし、せっかくだ。ウルガ、少し相手をしてくれ」

そう言うと、父さんは筋肉を解すように柔軟をし始めた。
ウルガはちらりとラオスとイラザを見ると父さんに笑い返す。

「いいぞ。剣か、素手か?」
「剣の後、素手だな」
「わかった。準備できたら声をかけてくれ」

言い終わると、訓練している隊員達の所へ向かっていった。
試合場を確保しに行ったのだろう。訓練していた隊員達が、少しずつ脇に移動していくのが見えた。

「父さん、珍しいね」

あまりにも展開が早すぎて、感情が追いつかないけれど、父さんが仕合うのは珍しい。
最近はもっぱら隊員達の指導か、訓練している隊員達を少し見て別の仕事先へ行くことが多かった。
族長だからいろいろな仕事が多いだけということだからしょうがないけれど。

小さい頃から父さんが仕合う所を見るのが好きだった僕は、久しぶりに父さんとウルガの仕合が見られると思うと、すごくわくわくしてきた。

「ああ、…嬉しそうだな?」
「うん、すごく!」

そう言われるくらい、いつの間にか僕の機嫌は直っていた。嬉しさのあまり溢れんばかりの笑顔で頷いていた。
シャウに笑顔で応えて、父さんは優しく頭をよしよしと撫でる。

「お前達もよく見ておけよ」

ラオスとイラザに向けてニヤリと笑うと、父さんはウルガの方に歩いていった。
ウルガの側までいくと、ウルガから刃を潰した剣を投げ渡される。

「ふむ、いつでもいいぞ」

受け取った剣を軽く振りながら、父さんはウルガに声をかけると、一瞬にして場の空気が張り詰めた。
父さんもウルガも見た目は楽に構えて見えるのに、肌に感じる空気はピリピリしていた。
一瞬だったのか、数分だったのか、止まっていた時間は、ウルガが父さんに向けて一歩踏み出したときに動き出した。
ウルガが深く沈み込んだところからの鋭い一閃に、父さんは余裕で受け止め…たと思う剣で受け流し斬りつける。ウルガもその一閃を軽くいなし、次の一手を繰り出す。
あまりにも早い技の応酬に体がどう動いているのか、腕がどう動いているのかわからないほどだ。

「すごい!」

興奮が止まらない。
久しぶりに見た父さんも凄いけれど、ウルガも父さんと対等に渡り合っている。
前に見たときは、まだまだ父さんとの力量に差があったのに、今はもうないように見える。

「すごい!すごい!!」

すごいとしか言えなくなっているが、すごいんだからしょうがない。

「すごいよね !!」

同意を求めるように、隣にいるラオスとイラザを見ると、二人は僕を見ていて悔しそうな苦しそうな顔をしていた。
その後、二人は父さんとウルガの方に顔を向けると

「そうだな。凄いな」
「本当に凄いですね」

拳を握りしめ、言葉を吐き出していた。
二人の苦しそうな様子にシャウは驚いた。ここまで二人が悔しさを表しているのを見るのは初めてだ。

(獅子族の戦士としての血が騒ぐのかな。獅子族って負けず嫌いが多いもんね。僕は半分しか血を受け継いでいないから、悔しいよりも感動のほうが先にくるんだけど)

わー!と歓声が聞こえてきた。
見ると父さんがウルガに剣の切っ先を喉元に突きつけていた。


一旦勝負がついたところで、隊員の一人が父さん達に近づき、剣を回収していく。
隊員が離れると、改めて素手で構え直した。

父さんとウルガからは獣耳と尻尾が生えていた。
獅子族は普段は人族と同じ姿をして生活しているけれど、素手での戦闘になると獅子族特有の身体能力を発揮するため、部分的に獅子の姿になる。
今回は腕と足だけ獅子の部分にしたようだ。それと同時に耳と尻尾は生えるようになっている。
爪が伸びていないところを見ると、殴打中心の組み手になるのだろう。
魔物相手だと剣が無かったときは自分の手と足の爪を伸ばし武器として使ったりもする。

ウルガがゆらっと動いたと思ったら、父さんに右手を打ち込んでいた。左手で受け止めた父さんは体を回転させ後ろ蹴りするとウルガは沈んで避け、父さんの軸足に蹴り出す。それをジャンプして躱し、落下を利用して蹴りを繰り出す。
獅子の力を出すと、脚力も上がるし腕力も向上するから、一打一打がドスッバシッと重い音を伴って聞こえる。その証拠に父さんやウルガの足元には攻撃に耐えたときの圧で地面が凹んでいた。

(うーん、相変わらず技の応酬はすごいんだけど、このままじゃ勝負がつきそうにないし、父さんとウルガの目が闘いを楽しみだしてるし)

こうなると決着がつく前に、訓練場の方が破壊されて使い物にならなくなっちゃうんだよね。
あとで困るのは父さんとウルガなんだけど…始末書やら請求書やらで、そして、今はそんなことも忘れているんだろう。
こういうときに父さんとウルガを止められるのは僕しかいない。他の人だと止めに入っても巻き込まれて怪我を負うだけになる。
脇にいる隊員達を見ると、止めてくれと拝まれた。

(しょうがない)

少し助走をつけて父さん達の所へ飛んでいく。


「とーうさん、もう終わり」

ジャンプして父さんの首に巻き付く。
巻き付いた瞬間にハッとして二人の動きが止まった。

「あー、またやっちまったか」
「そのようだな。シャウ、止めてくれてありがとう」

父さんはガシガシと頭を掻きながら、訓練場の状態を確認するとため息をつく。
ウルガは父さんに引っ付いてる僕の頭をぽんぽんしながら苦笑していた。

「母さんに怒られるね」
「だな、ウルガも一緒に謝ってくれるか?」

弱りきって気落ちしている父さんは、弱々しくウルガに頼み込んでいた。父さんは母さんにはまったく頭が上がらない。惚れた弱みらしい。

「ああ、一緒に誠心誠意謝るしかない」
「ウルガも母さんに弱いもんね」
「ミイシアには誰も敵わない、シャウもだろ?」
「そうだね」

エヘヘと笑うと、周りからも笑い声が聞こえてきた。
隊員達も母さんには誰も勝てないことを知っているし、このあとどうなるかも予測していたから。









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