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第1章 番外編 ラオス*イラザ目線side
10 気になるのは… イラザside
しおりを挟む狩りの後の片付けを終えてシャウと一緒に家に向かって歩く。
隣を歩くシャウは今日の夕食に何が出てくるかの予想をイラザに楽しそうに語っていた。
ラオスと別々に戻ってきたとき、どちらも様子がおかしかった。
ラオスがへそを曲げることはよくあることなので、まあ、大丈夫とシャウに言ったことは嘘ではないが、シャウの様子がいつもと違ったことに、ラオスの異変を感じた。
…今考えてもわからないか。
明日、ラオスの様子が変だったら探りを入れよう。
今はシャウが笑顔ならいい。
楽しそうなシャウの笑顔に俺も笑顔で話していると呼び止められた。
「イラザ様」
呼ぶ声に振り返ると、ターニヤさんが魔道具屋から出てきたところだった。
珍しいところで珍しい人に出会った。
ターニヤさんは研究室にしかいないと思っていた。
「ターニヤさん、こんばんは」
「こんばんは。あの、今、少しお時間宜しいですか?」
「うん? …そうですね」
チラリとシャウを見ると、気にしないでと手を振って笑っている。
「僕は大丈夫だよ」
シャウにそう言われてしまえば断れないので、仕方なくターニヤさんの話を聞くことにした。
「すみません。少しだけ待っていてください。あ、俺の側からは離れないでくださいね」
シャウをこんなところで待たせてしまうのが心配だった。
シャウが視界に入る位置に立つと、ターニヤさんと魔道具について話し始める。
話していると特に今すぐ確認することは少ないように思う。
それよりもシャウをひとりにして他の男が話しかけてこないかが気になってしまう。
早く話を切り上げようと、先に送れるものは飛ばしていった。
どうにか話を終わらせると、ターニヤさんが思い詰めた目で見つめてきた。
「あの、また今度、ふ、二人で魔道具の話をしませんか?」
内心ため息を吐く。
シャウの前で誤解されるようなことは言って欲しくなかった。
まあ、シャウが気にすることなど無いのかもしれないけれど。
それでも、シャウに誤解されないように少し困ったように答える。
「そうですね。二人の時間を合わせるのは難しそうですが、研究室には顔を出せると思いますので、そちらで宜しければ、魔道具の話を致しましょう」
「は、はい…」
残念そうにしているのは申し訳ないとは思いますが、俺はシャウにしか興味はないのです。
ああ、ターニヤさんと話す魔道具については興味深いものがありますが、それ以外は興味ありません。
俯いていたターニヤさんが顔をあげると、目に強い意思の力を感じてやっかいなことになりそうな予感がした。
「それでは、失礼いたします。シャウ様もお時間をいただきありがとうございました」
深々と頭を下げ、ターニヤは離れていく。
俺はそれよりもシャウを待たせてしまったことが気になった。
「大分、お待たせしてすみませんでした」
「大丈夫、大丈夫! 仕事の話でしょ? それよりも時間は足りたの? 僕、先に帰っても良かったんだよ?」
シャウからひとりで帰ると聞いて内心慌てた。
シャウをひとりにするなんて危なすぎる。
族長の娘ということで狙われることもあるし、普通にナンパされそうになるし、まあ、それもシャウは気づいていないみたいだけど……、いや、気づかせないようにしているのだけれど。
「シャウを一人で帰らせることは出来ません。緊急性のものは終わりましたし、他は話が長くなりそうだったので明日に回しましたから……それよりも疲れてませんか?」
「全然。それよりも、今の人、僕のこと知ってるんだね」
「それは…、シャウのことを知らない人はあまりいないと思いますよ」
族長の娘であるシャウを知らない人は相当のモグリだと思うが。
「そうだね。挨拶すれば良かった」
「…もしかして、ターニヤさんと初めて会ったのですか?」
「うん、美人な人だね」
次会ったときにはちゃんと挨拶するように伝えないとと思いながら、シャウの答えの意図が掴めなかった。
「確かに美人だと言われていますが」
「あまりイラザが女性と話しているところ見たことなかったから、びっくりしたよ」
シャウが驚いたように言ってる。
いやいや、シャウが俺が女性と話しているのを気にしている、そっちの方が驚きだよ?
もしかして俺のことが気になるようになった? 男として?
本当だろうか?
期待半分、そんなわけないと思う気持ち半分で、それでも聞いてみたくなった。
「……気になりますか?」
するとキラキラした目で見つめてきた。
「うん。なんかキラキラして見えたんだ。人族の人?」
「えっ? ええ、ターニヤさんは人族ですが、キラキラしてる?」
「そう、最後、目が綺麗だったでしょ」
ああ、ターニヤさんの目が気になったと。
……やっぱり勘違いだった。
シャウがそんなことを気にすることなどない、そう、ありえない……。
「ああ、…それが気になったんですか……」
分かっていたけれど、つい期待してしまった分落胆が大きい。
「イラザも気になるでしょ?」
シャウに覗き込まれ、胸にモヤモヤした気持ちが溢れてくる。
「…俺が気になるのは別のこと、なんですよ」
「別のこと?」
「ええ、いつかシャウに分かってもらえたら嬉しいですね」
今、俺のこのモヤモヤした気持ちを伝えても届かないだろう。
まずはシャウにひとりの男として認識してもらわなくては……。
それから、シャウに振り回されるこの心を……いや、シャウが好きだから気になるのだと理解してもらわなくてはね。
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