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第1章
12 母さんはカッコいい
しおりを挟む「ふぅー…」
二人目の隊員の呪いを治療し終えた母さんは、汗を拭きながら大きく息を吐きだした。
母さんの顔にはやりきった達成感と安堵が溢れていた。
僕も息を吐き出すと、体の力を抜いた。見てるだけだったのにすごく疲れた。
二人の治療には6時間もかかった。
普段の3倍もの時間がかかり、今回の呪いに異常さを感じる。
「母さん、お疲れ様」
「シャウもお疲れ様」
晴れやかな笑顔を向けられて、誇らしい気持ちになる。
すごく大変な治療だったのに、母さん一人で成し遂げて疲れた顔ひとつ見せない。
すごくカッコよかった。
呪いを排除出来る治療士はとても少なくて、その中でも母さんは重篤な呪い患者を診ることができる治療士だった。
その為、早朝でも夜中でも呼ばれればすぐに駆けつけ、嫌な顔せず治療していた。
体を壊さないか、とても心配だったけれど、母さんは笑って治療していた。
他の治療士達にも慕われていて【癒しの女神】なんて陰で呼ばれてもいる。
「ミイシア、どんな感じだ?」
扉を開けて治療室に入ってきたのは、朝別れたきりだった父さんだった。
手にはたくさんの資料を抱えている。
「そうね…、今までよりも強い呪いみたいで治療にいつもより時間がかかったわ」
「そうか、警備隊でも今回出遭った魔物を討伐するのが大変だったと言っていた」
「魔物が変質したのかしら?」
「…一度、調査に行ってみるか」
「そうね、城へも知らせなければならないし」
父さんと母さんは書類に書き込みつつ会話していたが、少しすると話が一段落したようだ。
母さんの顔には魔力を使いすぎて疲労が浮かんできていた。
会話していた父さんも気付いたのだろう。
「ミイシア、今日は疲れただろう。もう家に帰って休んでくれ」
「…そうね、言葉に甘えようかしら」
父さんの労る言葉に、母さんは少しだけ考えると同意した。
魔力が枯渇しすぎると、そのまま死んでしまうこともある。
それが母さんにはよくわかっているから、魔力をためた魔道具が無くなった今、体を休めることを優先した方がいいと思ったのだろう。
まあ、父さんは母さんが心配なだけなんだと思うけど。
だって、母さんがちょっと咳したり、料理中にちょっと手を切ったりするだけで大袈裟に騒いで、休め、何もするなと母さんを困らせているんだから。
父さんは母さんを見つめると、徐に髪の毛を一房手に取ると口づける。そして、母さんを愛しげに見つめ、頬や額、瞼にキスし始めた。
僕しかいないからって、二人の世界に入り込み、母さんと見つめ合っている。
(もうー、僕のこと絶対に忘れてる)
わざと大きく咳払いをする。
僕の咳払いにハッとしたのは母さんだけだった。
父さんは邪魔されてちょっと不満そうな顔をする。
そういうことは家の中だけにしてほしい。外でイチャイチャしないで欲しい。
母さんに諭された父さんは、イヤイヤ仕事用の顔に戻した。
「シャウ、少しだけここで待機しててくれ」
「はい」
「すぐに替わりの治療士を手配する」
僕が頷くと、母さんと一緒に出て行った。
母さんを家まで送って行くのだろう。
我が両親ながらとても仲が良い。砂糖を吐きたくなるほど甘々である。
でも、そんな両親がとても好きだった。
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