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第1章
13 魔力譲渡
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扉をノックする音に「はい、どうぞ」と声をかけると、扉を開けてグッタリとした男性を連れた警備兵が入ってきた。
「失礼します。魔力切れを起こした患者を連れてきました」
用件を述べた隊員は中にいるシャウを一瞥したあと、辺りを見回した。
「治療士の方はいらっしゃいますか?」
シャウ以外に誰もいないのだから、当然の疑問だった。
「今はいませんが、すぐに来ると言っていました」
「そうですか」
警備兵はひとつ頷くと、抱えている患者を一度見てから、シャウに確認をするために問いかけてきた。
「患者をベットに寝かせてもよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
シャウは治療は出来ないけれど、母さんからは魔力切れで運ばれてきた者はベットに寝かせておいてと言われていたので、空いているベットへ案内する。
ベッドに寝かされた男性を見ると、意識が無さそうだった。
「意識が無いんですか?」
「はい、かなり限界まで魔道具を使ったらしく、ここに到着したときに意識を失いました」
「分かりました。治療士に伝えます。他に何か治療士に伝えることはありますか?」
「先程まで治療していただいた者達と共に魔物討伐をしてました」
「それも伝えます」
シャウは聞いたことを紙に記していると、警備兵はそれでは失礼します、と言って帰っていった。
***
「うぅ、う…」
シャウが家に持ち帰る物を整理していると、寝ていた隊員から声が聞こえてきた。
目覚めたのかと思い、事情を説明するために横たわっている隊員の顔を覗き込む。
するとまだ寝ているようで目を閉じていたが、隊員は苦悶の表情を浮かべていた。
その表情に何か見落とされた怪我でもあるのかと思って、シャウは急いで確認することにした。
目につくところをまずは確認するために、ベットの縁を回りながら隊員の体を観察する。
見ていくと、顎の下に3㎝くらいの黒い変色した所があった。
「! こんな所に呪いが…」
驚いて見ている間にも、呪いの部分がジワジワと広がりをみせているのが分かった。
「まずい、このままだと命までなくなっちゃう!」
魔力切れを起こした状態で呪いがあると、本人の抵抗力が弱まっているため呪いの進行速度が速くなり、あっという間に死んでしまうこともある。
(どうしよう、このくらいの呪いなら治療士だったらすぐに排除出来るけれど、まだその治療士がきていない)
とりあえず、治療士さんに出来るだけ早くきてもらえるように、扉の前に立っていた警備兵に事情を説明して呼んできてもらえるように頼んだ。
…
………
………………
5分経っても、10分経っても、20分経っても治療士が来ない。
その間にも呪いはどんどん大きくなってもう喉が黒く変色していた。
それに苦しいのか、先ほどよりも苦悶の表情を浮かべて荒い呼吸を繰り返している。
目の前で弱っていく姿を見ていたら、迫り来る死の恐怖を感じ、シャウは自分の体がどんどん冷たくなって震えだしたのを感じた。
「…このままじゃ死んじゃう、どうしよう」
ガタガタと震える体が止まらない。
「やだっ…こわい、……母さん助けて……」
自分が無意識に呟いていることにも気づかなかった。
恐怖で浅くなる息づかいを繰り返し、何か、何か自分でできることはないかと考える。
恐怖と混乱している頭で、母の言葉を思い出そうとした。
「…確か魔力が回復すれば、呪いの進行が遅くなるはず………」
そんなことを母さんが言っていた気がした。
魔力回復……魔力譲渡……で思い浮かんだのが、前に一度ラオスに魔力を渡した時のことだった。
あのときは確かにラオスに魔力を渡せていたはず。
そう思い、横たわる隊員の唇を見た瞬間に、嫌だという感情が浮かんだ。
隊員の唇に触れると考えただけで、したくないと思ってしまった。
「……なんで…」
自分の気持ちが分からなかった。
「これは治療なのに……、したくないなんて、……嫌だなんて、どうして?」
このままじゃ目の前にいる人は死んでしまうのに、その恐怖に涙が溢れる。
「……………っ」
動けない体を抱きしめ、動かせない自分が情けなくて、それでもどんどん死に迫っていくのを理解しているから、シャウはもう何も考えないように無心になろうと思った。
「だいじょうぶ……だいじょうぶ……できる……できる………」
自分に言い聞かせるように呟き、震える体を押さえつけながら頑張って頑張って隊員に顔を近づけていく。
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