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第1章
14 俺以外に……
しおりを挟む「「シャウ」」
突然響いた声に、ビクリと肩が揺れる。
あと少しで触れそうになっていた唇が、誰かの腕に引き寄せられ離れる。
シャウは突然のことに驚きと困惑の中、為すがまま誰かの腕の中にいた。
涙で滲んだ視界はぼやけ、シャウの体を抱きしめる腕が温かくて、後から後から涙が溢れて止まらなくなった。
「っ…、ぅっ…、ひっく…、うっ……」
抑えられない嗚咽に、シャウを抱きしめていた腕が解かれ、誰かが顔を覗き込んだ。
「シャウ?」
シャウを抱きしめていたのは、ラオスだった。
泣き続けるシャウを心配してラオスは問いかけた。
それでも、腕の中で泣き続けるだけのシャウに、ラオスはどうすればいいのか分からず、イラザに救いを求めた。
イラザはシャウと目線を合わせるように屈み、シャウに微笑みかける。
「シャウ、どうしたんですか?」
イラザの優しく問いかける言葉に、シャウは何をしようとしていたのか思い出した。
「死んじゃう…このままじゃあの人、死んじゃうっ……」
魔力譲渡しなければ死んでしまう、だからしなければいけない、その思いだけがシャウの思考を埋め尽くす。
流れる涙をそのままに、ラオスの腕を振り切り、寝ている人の横に立つ。
今度こそ魔力譲渡するために唇を近づけた。
「シャウ何してるんだ!」
「シャウ何してるんですか!」
シャウの突然の行動に慌てた二人は、シャウの唇が寝ている男性に届く前に、体を羽交い締めした。
今度はイラザの腕の中にいて、二人とも凄く怒っていた。
「シャウ、な、に、をしようとしているんだ?」
二人の剣幕に気圧されて、息をのむ。
魔力譲渡しなければという思いに囚われていたシャウは、睨みつけられる理由が分からなくて、だけど、二人の怒りの圧に耐えられず、何か言わなければと小さい声で呟いた。
「まりょく…じょう、と…」
途切れ途切れの言葉を理解するのに時間がかかったのか、ワンテンポ遅れて怒鳴り返された。
「「魔力譲渡!? 」」
その怒りの声に、シャウはビクリと体が震え、涙が引っ込んだ。
次の言葉が出ないシャウに気づいたイラザが、深呼吸すると静かに問いかけてきた。
「何故、魔力譲渡をしなければならないのですか?」
イラザの冷静な問いかけに、シャウも今しなければいけないことを説明した。
「この人は魔力切れを起こしていて、しかも呪いを受けているの。このままだと呪いに飲まれて死んでしまう。だから、早く魔力だけでも回復させないといけないんだよ」
「なるほど」
シャウの説明に納得してくれたのか二人は頷いてくれた。
だから、一刻も早く魔力譲渡しようとイラザの腕の中から抜け出す。
そして、唇を近づけようとしたら、二人に肩を掴まれ、またしても怒鳴られた。
「俺以外にキスするな」
「俺以外にキスはするな」
ラオスとイラザは互いを一度睨んだあと、シャウを見つめる。
シャウは何を言われているのか理解できなくて聞き返した。
「キス? …キスなんてしてないよ?」
「魔力譲渡しようとしてたよね?」
イラザに言われたことが理解できなかった。
なんでここで魔力譲渡のことが出てくるのだろう。
「? 魔力譲渡とキスに何の関係があるの?」
「は? …キスがどういうものかわかっているのか?」
訳が分からないというようにラオスは顔をしかめる。
「キスは好きな人とするものなんでしょ?」
シャウの言葉に二人は言葉を失ったように固まった。
長い沈黙の後、二人の口から大きなため息が出てきた。
「……ああ、そうだな」
ラオスは疲れたように言葉を吐き出す。
「…そうですね。すみません、勘違いしていました」
イラザも困ったような顔をしてシャウに謝罪した。
「とりあえず、魔力譲渡は他の方法でも出来る」
「ええ、それにもうすぐ治療士の方も来ます」
「そうだな。俺達はその人を追い越してきたから…」
その時、治療室の扉の開く音がした。
見ると、見知った治療士サーラだった。
サーラはシャウを見つけると、急ぎ足でやって来た。
「瞳が真っ赤ね。どうしたの?」
心配そうに聞いてきたサーラに、また涙が滲みそうになる。
「サーラさん、呪いを受けている人がいるんです」
その言葉に、サーラは視線を巡らし、寝ている人に駆けよる。
「魔力も枯渇しています」
「そう。じゃあ、始めに魔力回復をしましょうか」
サーラは持ってきた鞄の中から魔道具を取り出すと、呪いを排除するときと同じやり方で魔力回復を始めた。
それは何度も見たことある光景だった。
その光景に驚いていると、サーラが話しかけてきた。
「シャウ、もうこの人は大丈夫よ。ここに一人でいて怖かったでしょう? 本当に遅くなってしまってごめんなさいね。それによく頑張ったわね。あとは任せてね」
「はい……。宜しくお願いします」
サーラの言葉ひとつひとつが温かくて、また涙が溢れた。
そんなシャウを労るようにラオスとイラザが頭を撫でてくれたり、涙を拭き取ったりしてくれることが嬉しくて、……魔力譲渡をしなくて済んだことにホッとしてしまった、そのことに自己嫌悪に陥っていた。
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